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イノベーション〜実際の成功率と感じるリスクのパラドクス及びその回避法

師匠の梅澤先生は新市場創造型商品(MIP)の成立要件として以下を挙げておられます。

①CPバランスが良い
買う前に欲しいと思わせる力=C(商品コンセプト=期待感の喚起力)が強く、買った後に買って良かったと思わせる力=P(商品パフォーマンス=満足感の喚起力)も強い。

②未充足の強い「ディファレントニーズ」に応える
~「ディファレントニーズ」とは消費者の「生活上の問題」を解決し「生活変化」を起こす潜在生活ニーズ、すなわち「新カテゴリー商品」を生むニーズであり「イノベーション」を起こすニーズである。①の条件を満たしても、この条件を満たさなければ10年以上売れ続けることはほとんどない。

③市場を最初に創造し10年間売れ続ける
~MIPとなるためには物理的に先に作られたということではなく、「認知」、「配荷」の努力がされて実際に売買が行われる市場が形成されることが必要であり、その市場が10年以上継続したものをMIPと呼ぶ。


などの条件です。そして調査対象となった233市場において、それらの条件を満たしている商品が10年以上にわたってその市場でNo1シェアを占める確率(これを成功確率としている)は同じ市場の後発商品に対してなんと100倍であることを調査研究の結果実証しました。

また、他にMIPは後発商品登場後も商品の最終選択想起集合における出現率は1/2であり、残り1/2を後発商品がシェアしているということも概ね証明されました(1/2効果)。考えてみるとこれは先発したMIPが常に各後発商品の選択のベンチマーク(比較対象・基準)となるわけですから論理的にも当然です。そして、後発商品は先発商品1に対して平均100個登場するということも明らかになっています。これが上記の成功確率100倍のメカニズムだと考えられます。

このイノベーションの成功率については下表のように、ジョブ理論や破壊的イノベーションを説いたクリステンセンらや、ブルーオーシャン理論を説いたキムらもそれぞれの成功定義で論じています。

即ち、意外なことかもしれませんがいずれにせよイノベーションを起こす商品の成功率は後発商品よりもはるかに高いのです。

ところが、世の中ではイノベーションを志すベンチャーのスタートアップ企業で創業後短期間で失敗するものが多いのが事実です。ただでさえ「人の行かない道・未開の荒野」を行くのには勇気がいるわけですが、それを見れば「イノベーションはリスクが高い」と感じられるのが普通でしょう。その「パラドクス」はなぜ生じるのでしょうか?

その答えのヒントがこれです。

https://forbesjapan.com/articles/detail/20949

他にも類似の調査はあり結果も類似なのですが、スタートアップ失敗の2大要因は「ニーズが無かった」と「資金が無かった」です。もう少しかみ砕くと、「アイデアや技術はあったがそれを必要とするニーズがなく売れなかった」ことと「投資家に事業の可能性を信じてもらうことができず資金がショートした」ということです。

これらの2大要因の根っこは同じだと考えられます。それは「開発・事業化の前に応えようとする潜在ニーズが把握され見える化されていなかった」ということです。それが故に、投資家は出資を渋り、商品・サービスができても売れなかったということになるわけです。つまりはこの「成功率が高いはずなのにイノベーションの多くは失敗しているように思われ、高いリスクを感じる」というパラドクスはひとえに「ニーズがわかってないこと」によって生じているということに他なりません。

そのパラドクスを回避するためには、上記のMIP成立の条件と併せて考えると、

「事業化の対象とする、生活上の問題を解決して生活変化を起こす潜在未充足ニーズ(ディファレントニーズ)をまずは把握・見える化し成功確率を高めるとともに、投資家の納得・支持を受けること。」

がに必要だということになります※。

※このための調査・リサーチを私は「マーケティングリサーチ」とは一線を画して「イノベーションリサーチ」と呼ぶことにしました。これは既述ですが、調査する領域と調査の論理や技法が異なるからです。

また、投資や開発の効率を高めるためには技術・商品開発の方向性を明確にしてから開発を開始するということが必要です。つまり「商品コンセプトによって応える潜在ニーズと応える手段を見える化する」ということです。これこそが「商品コンセプト開発」の目的です。なんせ「ニーズ」という目には見えないものを相手にしているのでこれらは非常に重要な条件です。

商品コンセプトを作ることの意味はその目に見えないニーズをカタチにして消費者にその商品が満たしてくれるニーズの種類と満たすための手段を理解・判断してもらうことにあります。

既存市場の商品はカテゴリー名とその特徴だけでどんな商品なのかは理解できます。例えば「美味い・速い・安い」牛丼と言えば良いわけですが、イノベーション=MIPの場合には「新しい種類の満足」を提供するわけですから、特にこのコンセプト化においてどんな満足を提供するのか、すなわちどんなニーズに応えるのかを見える化することが不可欠であるわけです。ニーズというのはどこまで行っても見えも触れもしないものですから言葉だけでは伝えきれず、理解もしきれず、故に、「コンセプト」というカタチにして表現する必要があるということです。

また、コンセプト化は企業側の技術者にはどんな技術でどんなニーズに応えればよいのか、すなわちどんな商品を作ればよいのかを理解・判断するための手段となります。

投資家にとってはその商品・事業の可能性を理解・判断するための手段となります。

「コンセプト」というと多義的かつ曖昧に使われている言葉ですが、我々一門における商品コンセプトの基本的な構造は下記の通りです。

を「商品コンセプト」とします。応えるべきニーズ「〇〇したい」は商品のベネフィット「〇〇できる」に置き換えることができます。そしてそのベネフィット達成の為に商品が持たねばならない特徴などに関するアイデアがです。すなわちC=I+Bという構造によって商品コンセプトは表現可能です。

参考にこの図式によってつくられたコンセプトの例を示しておきます。これは30年ほど前に「情報ニーズ」というテーマで作ったものですが、現在のスマホのアルバイト検索サイトのコンセプトを完全に先取りしていたばかりではなく、さらにその先を見通すものでした。商品名も現在登場しているものをほぼ完璧に予測できていたものと言ってよいでしょう。

コンセプトを確立するためにはまずは応えるべき生活ニーズを明らにしてからそれを達成するアイデアを考えるのが効率が良い(ニーズオリエンテッド開発)ということになりますが、往々にして技術・アイデアが先にある場合もあり、その場合にはその技術・アイデアが応えられるニーズを探すという手順(シーズオリエンテッド開発)もアリだといことになります。しかしどんな技術・アイデアも上記のように「ニーズに応えること」ができないとイノベーションは起こせませんからどこまでいってもニーズが優先されなければなりません。このプロセスを意識マトリクスで表現すると下図のようになります。

左上の「既存市場」の領域では、「ニーズ」そのものがぼんやりとしていても(多くの場合、だんだんと当初のニーズが忘れられていく)そのカテゴリーに対する顧客の要望に対応していけばそれなりの満足向上が得られます。しかし、右下の「新市場創造」の領域に入っていこうとするのならば、まずは右上の領域においてそれまで企業には知られていなかったニーズNを探索し、左下の領域においてそのニーズに応えるアイデアを考えるということになります。すなわちNのマッチングです。このマッチングによって
C=I+B
のコンセプトが出来上がっていきます。

ここで問題なのはにはカタチがありますから明確にしやすいのですがは見えないのでつかみ切るのも、表現し切るのも困難であり、それ故にそのマッチングには試行錯誤が必要だということになります。具体的には、生活者に対してできたコンセプトの提示とその評価のフィードバックによる修正を何度も繰り返し、その精度を高めていくということを行います。

この間にコンセプトに対する受容性、市場性は数値化していくことが可能です。すなわち、投資家の投資判断に資するデータも得られていくわけです。スタートアップではない大企業の場合には自社の投資判断の材料となります。

このプロセスによって商品コンセプトすなわち応えるべきニーズを明確にし、そして上記のMIP化の条件に合致させていくようにすればこのイノベーションのパラドクスを回避することができるわけです。


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