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2030年の世界の食糧システムシナリオ 【シナリオプランニング事例集 001】

ここ最近、打合せ続き。

先日、シナリオプランニングの導入を検討しているというお客さまのところに行き、いろいろ話しをしていたところ、「確かにシナリオプランニングは良い手法だなぁと思うけど、これって実際使われてるんですか?」というようなことを言われた。

というわけで、以前に投稿した「エネルギー転換に関する地政学シナリオ」ではないけど、noteでもシナリオプランニングの事例をいろいろ紹介していこうと思う。

2030年の食糧システムを考える4つのシナリオ

今日取り上げるのはWorld Economic ForumがDeloitte Consultingと一緒につくった世界の食糧システムがどうなっていくかを考えるためのシナリオ。

Shaping the Future of Global Food Systems: A Scenarios Analysis

2017年に発表されたこのシナリオは、2030年に85億人を超える世界の人口を満たすだけの十分な食糧システムを、環境にも配慮しながら実現するためにはどうしたら良いかを考えるきっかけとするために作られている。

その問題意識を元に完成したシナリオがこちら(画像の出所はPDF版)。

シナリオのつくり方はいろいろあるけど、そのうちでも典型的なものが、この図みたいに軸を2本組み合わせて4つの世界をつくるというマトリクス型のつくりかた

それぞれの軸の意味

図を見るとわかるように、ここでは「需要の変化(Demand Shift)」という横軸と「市場(Markets)」という縦軸を組み合わせて4つの世界を描いている。

この2つの軸は、2030年の食糧システムを考えるにあたり、影響が大きく、不確実性が高い(どのようになるのか、今の時点では明確にひとつには決めきれない)と考えられる要因を元にしてつくっている

シナリオプランニングでは、このような判断基準で2つの重要な外部環境要因を選んだ上で、今の時点では明確にひとつには決めきれない2030年の可能性を、各軸の両極で表現する。

横軸の「需要の変化(Demand Shift)」は、消費者の食糧に対する需要が2030年にどのようになっているのか、今の時点では明確にひとつには決めきれないということを表している。その決めきれない可能性を両極で2パターン示している。

2030年に起き得る可能性のひとつとして「資源消費型(Resrouce-intensive)」(左側の極)、もうひとつの可能性として「循環型(Resource-efficient)」(右側の極)を想定し、そのどちらかの世界になる可能性を示している。

縦軸の「市場(のつながり)(Markets)」は、貿易や市場の開放性などが2030年にどのようになっているのか、今の時点では明確にひとつには決めきれないということを表している。

この軸では、2030年の貿易や市場の開放性を「低い(Low Connectivity)」(下の極)「高い(High Connectivity)」(上の極)という形で示しています。

4つのシナリオとタイトル

その2軸を組み合わせて4つの世界ができる。そのひとつひとつを「シナリオ」と呼ぶ。4つの世界がどんな感じなのかを、シナリオのタイトルを元にしてまとめたのが下の表(表は筆者作成)。

「需要の変化(Demand Shift)」と「市場(のつながり)(Markets)」のそれぞれの極を組み合わせて考えていけば良いので、各シナリオ(世界)をイメージしやすい。

注目したいのは、表で太字にしているシナリオのタイトル。この2030年の食糧システムの場合、タイトルを見るだけで、だいたいどんな世界観なのかがわかるようになっている。

こうやって印象的なタイトルをつけるのは、つくったシナリオを使ってもらうためにはとても大切だ。コンパクトで印象的なタイトルがついていると、このシナリオを見た人たちが、

「このトレンドって『歯止めのきかない消費』シナリオに近づいていくような動きに見えるよね」

という感じで、口にしてもらえるようになるから。

このシナリオの使い方

印象的なタイトルをつけるのも、今回のように完成したシナリオをビジュアルで表現するのも、すべて組織やステークホルダーにつくったシナリオを浸透させて、それをきっかけにいろいろことを考えてもらうために、とても重要なことだ。

以前に「新しい目をもつためのwhat ifという呪文」でも書いたように、シナリオプランニングではwhat if...?(もし、…になったらどうする?)という頭の使い方をすることが特徴。

この食糧システムシナリオの場合も、4つのシナリオそれぞれを見て、

・もし、本当にこの世界になったらどうする?
・こういう世界にならないために、今から何をする?

ということを、考えてもらう。

最近の米中の関税引き上げのやり取りをみていると、今のままだと、このシナリオで描かれている下の2つの世界が現実のものになりかねない。

そうならないためにも、さまざまな立場の人(マルチステークホルダー)が、こういうシナリオをつかって「この中で描かれている望ましくない世界にならないために、今から自分たちは何ができるだろうか?」と考えていくことが必要になる。

起こり得る未来という共通の関心事の元に、お互いの立場をひとまず置いておいて、さまざまな立場の人が話しを始めるのにシナリオプランニングはとても有効

自分で一からシナリオをつくらなくても良いので、ぜひこういう公開されているシナリオをつかって、普段なら話さないような話しをするきっかけにしてみてください。

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Photo by Megan Hodges on Unsplash

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