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長久手おいしい取材記〜グリルまどか編〜

「洋食」という言葉には、どこか特別な響きがあるように思う。

和食や中華、イタリアンなど、料理には色々なジャンルがあって、もちろんどれも甲乙つけがたく、好きである。

しかし、どれかひとつ選ぶとしたら、それもちょっと特別なときに食べるとしたら、私は「洋食」を選ぶかもしれない。

「洋食」と聞いただけで、目の前に浮かんでくる、あの見るからに美味しそうな見た目。ソースの匂い。食器の音。テーブルの上に、塩や胡椒や紙ナプキン、お冷やのガラスのコップが置かれた洋食屋さんの光景までも。そのすべてに、こんなにも抗いがたい魅力を感じるのは何故だろう・・・。

……今、私が、これほどの洋食への郷愁に駆り立てられているのは、今回のお店「グリルまどか」で食べた、洋食の味を思い出しているからです。

この記事を書くために、その味をじっくりと思い返しているうちに、どうしようもなく「あ~~、また食べたいよ~~・・・」って、洋食への思いが溢れて止まらなくなってしまった。

ほんと、それくらい、洋食って大好きなんです。と同時に、それくらい、「グリルまどか」の洋食はおいしかったんです。

その「グリルまどか」、外見は、非常に簡素なものです。ギリギリお店だって分かるレベル。
「気ままに、ひっそりと静かにやりたい」
と話していたお店の方。常連さんに迷惑をかけないためにも、静かにするのが難しい小さいお子さんは、お断りしているんだとか。ご注意下さい。

1階は駐車スペース、その脇の細い階段を上がって、2階が店舗です。ガラスの引き戸を開けると、カウンター席の向こうの厨房の中から、老夫婦が「いらっしゃい。」と迎えてくれる。このお店を営むご夫婦です。
旦那さんの方が、「まどか」さん(圓←こういう字を書くそうです)。真っ白なコック帽がキマってる。

4人掛けテーブル2つ、カウンター9席の小さな店内。あめ色をした木製のインテリア、レンガ風の壁、お店の奥さんが水やおしぼりを運ぶ銀のお盆、すべてが古き良き洋食屋って感じで、落ち着く。この雰囲気、理想的過ぎる。

私たちが入ったときは、他にお客さんは一組だけだったけど、そのあと午後7時頃には少し混んできた。常連さんが多い様子。



夫婦であろう2人組のお客さんが、来てすぐにカウンターに腰を下ろしながら、女性の方がささやくような声でポソッと、
「いつもと一緒で。」
と言ったのが、なんだかすごくステキだった。ちょっと憧れてしまう、常連さんの証・「いつもと一緒で」。

旦那さんが料理を担当、奥さんは接客をしながら、料理に添えるサラダやライスなどを、流れるような手捌きでパパッと準備。料理が出来上がるときには、お客さんのもとへ運ぶ準備が万端整っている。ずっと眺めていたくなるような、素晴らしい2人の連携プレー(ただし、喧嘩をしていると、この連携プレーがくずれるらしい(笑))。

そして、そんな風に手際よく準備をしながらも、奥さん、常連さんとのお喋りが止まらない!あれほど手と口を同時にフル回転させるなんて、私にはできない。なんたる妙技だ・・・。

こんなに夫婦の息がぴったりなのは、なななんと、もう60年近くも二人でお店をやっているから!
旦那さんが20歳くらいのとき、最初は名古屋でお店を始めた。名古屋で30年続けたけど、立ち退きになって、なんとなく移ってきた長久手で再開して、今年で早27年。
…えっ?てことは、まどかさん、今おいくつ…?

「もう77歳だよ。」(まどかさん)

これには私たち2人とも、「えーー‼」と声を上げて仰天!だって全然そんな風に見えないのだもの。
60歳と言われても全く違和感なし。本当に若々しい…!

「長年やっていれば、何も言わないでも、お互い何をすればいいか分かってるから。」とお二人。いいなぁ、そんな夫婦の関係。ステキです。

さて、注文しようとメニューを見ますと、なんだこれ、「当店独特料理」??
そのネーミングが既に独特。

コックのまどかさんの腕により、他では食べられない味に仕上げた、「当店独特料理」。中でも「牛ロースのたまり焼き」は看板メニュー。まどかさんのオリジナル料理です。

とびきり美味しそうな独特料理、う~ん、気になる。でも、私たち大学生のお財布にはちょっと、高かったので、今回は別のものを頼みました。

料理を待つ間、厨房から、揚げ物をするジューーッという、いかにも食欲をそそる音が響いてくる。なんて良いサウンドだ…。
今後は、「洋食」という言葉から連想されるイメージの中に、この音も加わることだろう。


頼んだのはこちら。

スズキ、カニコロッケ 1530円。

ウチヤマ、チキンカツレツ 1180円。

うわぁ・・・美しい・・・!!!

この盛り付け!もう、正しく洋食屋!って感じ。
サラダの添え方もソースのかけ方も、シンプルで、飾り気がなくて、余計なモノが一つもない。

スズキのカニコロッケ。クリーミーなカニ風味のホワイトソースが、舌をやさしく包む。添えられたマヨネーズをつけると、これがまたおいしい。ぽってりしていて、普段使ってるマヨネーズとはちょっと違うぞ。
すごい人気で、他にも3人程頼んでいる方がいました。

ウチヤマのチキンカツレツ。分厚いのに柔らか~い!ウスターソースの程よい甘みと酸味も絶妙。

どちらも、アッツアツのサックサク。お箸やナイフを入れるとき、それから口に入れたときの、「サクッ(カニコロ)」「ザクッ(チキンカツ)」というあの小気味よい音。読者の皆さんにも聞かせてあげたい・・・!

付け合わせも秀逸。シンプルなフレンチドレッシングのかかった千切りキャベツに、素朴で懐かしい粉ふきいも。トマトの櫛切りにさえ、料理人の腕のよさを感じます。

60年続けてきた夫婦の連係プレーの、結晶だよ、これは。

食後のインタビューで、「オススメのメニューは何ですか?」と聞いたら、「なんでもおいしいよ。うちで出す料理は、他では食べられないからね。」とまどかさん。おぉ、溢れる自信…。でも、その中でもこれは、っていうのは…?と掘り下げてみたら、「牛ロースのたまり焼き」と、ビーフシチューやハンバーグに使っている「デミグラスソース」を挙げてくれました。デミグラスソースも、まどかさんの渾身の作。「他のどこの店でも、こんなのは出てこないよ。」と豪語するくらい。

これは、またいつか、食べに来るしかないな…!

まどかさんと奥さんが、並々ならぬ自信を持っているからこそ、ちょっと高くてもしょうがないか、と思える。そしてきっと、何を食べても、それに見合うくらいおいしいです、このお店は。

ぜひ、お財布に余裕のあるときに、行きましょう。

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