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韓国ドラマ「ブラームスは好きですか?」

アマプラで「ペントハウス シリーズ 2」の3まで見たところで、少しホンワカしたドラマがないかなと思って見始めた音楽ものドラマ。

言うまでもなく、この作品にはブラームスとシューマンの音楽が大きな役割を果たしている。
登場人物たちの生き方も、シューマンと彼の妻クララ、シューマンの友でありながらクララを愛したブラームスの関係性を絡めている。

ドラマのキャッチコピーとして「親友の恋人を愛してしまった二人の行く末はいかに」となっているが、ドラマを見ていると、恋愛以外の要素がてんこ盛りであり、登場人物のそれぞれの履歴がどれも重い。

韓国ドラマはキャラをはっきり印象付けるため、一人一人の背景がかなり詳しく描かれているので、ドラマ本筋のエンジンがかかるまでに時間を要する。ただ後半は見たくてたまらなくなる。

全員がウジウジしているのがドラマとして良い。
恋愛ドラマは障害の連続で、ウジウジさせるのは鉄則だが、それにしても見ていて歯痒い。
見ていて潔いのはソンアの親友ミンソンくらいで、他の若者達は割り切れない想いを抱え葛藤にまみれ物語は中々進展しない。

見て良かったのは、音楽ドラマの王道を行き、とにかく音楽(選曲)が良い!
演奏も素敵なので展開が遅い時も我慢して見続けられる。ただ、主人公ソンアの葛藤部分は早回ししたい誘惑に駆られることがあった。うちに来る成人レッスン生が、やはり飛ばして見ていた。

出てくる曲の演奏シーン見て、次の演奏は何?という感じ。音楽家なので興味はそっちに。すみません。シューマンとブラームスの曲は、ショパンやリストに比べて作曲家の葛藤が多い曲というか、盛り込まれているものの量が多い感じがあるので、美食家には好まれるのではないか、などど関係ないことを考えた。

主人公ソンアのヴァイオリン歴は他の音大生よりかなり短い。音大を目指すスタート時期が遅いからだ。
大学の経済学部に進んだソンアは、どうしても音大に行きたくて友達のドンユンにヴァイオリン習い3浪して音楽学部に入学したのだ。快挙であり、ソンアの努力は相当なものだったに違いない。

音大時代に、同門の子で音大中退して医大に進んだ後輩がいたけど、その逆は難しいのではないかしら。
もちろん医大生でピアニストはいる。前回のショパンコンクールにいましたね。最初から両方出来る人はいる。ヴァイオリンではあまり聞かないなあ。普通ソアンみたいになるのではないかと思う。

ドラマ第一話では、ソンアはオーケストラ席の一番後ろを割り当てられ、リハーサルの途中で「オケから抜けろ」と指揮者に退場を促される。演奏曲はピアノコンチェルトであり、ピアニストはショパンコンクールで2位を獲ったジュニョン。音大生たちの憧れの的だ。

あーキツイ。

彼の前で指揮者に罵倒されるソンアと、オーケストラメンバー達から憧憬の眼差しを一身に浴びるジュニョン。圧倒的に違う世界に属する二人。

とはいえジュニョンは裕福な家庭とは程遠く、常に父親の負債を背負いお金のために弾かざるを得ない生活を送っている。
ジュニョンを見出し、父親の負債を肩代わりするなどして彼を支えるキョンフ財団の創始者は、ジュニョンが密かに心を寄せる美しいヴァイオリニスト、ジョンギャンの祖母だ。こちらは富裕層。
最近まで海外を活動拠点にしていたジュニョン、ジョンギャン、そしてジョンギャンの恋人のチェロ弾きのヒョノ。ヒョノの両親はソウルでコンビニを営む「庶民組」だ。ヒョノも才能と努力でここまで来ている。
3人は子供時代からピアノトリオを組み、強い絆で結ばれている。

その3人がソウルに戻って来たことで、3人のバランスが崩れていく過程はなかなかの見ものだ。

ヴァイオリニストのジョンギャンは幼い頃、神童、天才少女と騒がれ、長じてジュリアード音大の大学院を出ているが、アメリカのオーケストラに入れない。母が死んでからの演奏はパッとしないのだ。そんな彼女に対し、祖母は、ヴァイオリンを諦め、財団の後継者になってほしいと思っている。

ほらこうやって説明していると物語に行かない。進まない。内容の詰め込みがすごいのだ。

ソンアは大学からの紹介で、学生インターンの扱いで財団の仕事をする。演奏家を育て音楽企画を行う財団の仕事は性に合った。
また、財団のビル内にはホールやリハーサル室があり、そこでヴァイオリンの練習が出来るのも嬉しい。そして練習室では度々ジュニョンと顔を合わせることになる。何度か顔を合わせるうちに、二人は親密になっていく。

ソンア、ジュニョン、ジョンギャン、ヒョノの4人の中で、葛藤が一番甘いのはソアンのように感じる。主人公で一生懸命なんだけど、私には抱えているものの深さが全然違うように感じられた。

常に親の借金返済に振り回され、後輩のショパンコンクール1位が出たため「落ち目」と陰口を叩かれるジュニョンと、天才少女としてスター街道を走り切れないまま、母を失い、自分の演奏も認められなくなり、自分がヒョノでなくジュニョンが好きだったとわかり葛藤するジョンギャン。

どう考えてもこの二人の悩みは暗く深い。
ヒョノは明るい未来を描いてソウルに帰って来た途端、未来が見えなくなって悩む。

演奏家として厳しい世界に放り出されている3人のプロ奏者と比べると、ソンアはヴァイオリンが好きだから」という想いだけで弾いている音大生である。
家庭はヴァイオリンへの理解は少ないがしっかりしており、自分がヘタなことがどんどん明らかになっていく世界にへたりなから恋をして、恋の方は進んでいくのだ。

楽器の中で、大人になってから始めて上手くならない楽器の最たるものがヴァイオリンではないだろうか。ピアノの方がマシだと思う。

ドラマの中のセリフにもあったが、1万時間の練習でプロになれると言われていて、3歳くらいから始めて真面目に1日3時間練習すれは10歳くらいには全国コンクールレベルになれる。
これから見る人もいると思うので、あらすじは明らかにしないが、このドラマを見て思ったことは
「オトナになって初めてピアノを弾く人にも、ハードルを設けず素晴らしいピアノを弾くようにレッスンしていこう」ということ。
音楽でこころを語れたら素晴らしいし、語ったことをわかってくれたら最高だ。

このドラマで使われた曲はどれも好きなので、思いつくままに。

ジュニョンがチャイコフスキーコンクールのため選曲した(と思われる)ラフマニノフ前奏曲ト短調は、ラフマニノフの中では比較的弾きやすく、中間部の美しさはピアノコンチェルト2番を思わせてくれる。サンドイッチ構造で、前半と後半部分、日本人はややもすると演歌になってしまう。
ラフマニノフ本人の音源を聴いたが、かなりドライで(ペダル少ない)しかも楽譜とちがう音も使ってた。彼は巨人症だったから指の長さが半端なく、色々出来たのだろうなあと思いを馳せた。

ジュニョンはラフマニノフの終わりを綺麗に弾いていた。

ソンアが最初大学院の入試に決めたフランクのヴァイオリンソナタは、ヴァイオリニストだったら絶対弾きたい曲。ヴァイオリンが好きになった一つにこの曲を初めて聴いた時の感動がある。

さて、ジュニョンがラストのコンサートシーンでラストから2曲目に弾いたブラームスのインテルメッツォOp.118の2。これ、とても好き。
以前韓国のピアニストの演奏会で、アンコールにこの曲を弾いた。特筆すべきは、このコンサートでは、前半終わった途端、休憩時間目一杯、調律師が必死にピアノ調律してたこと。前半、少し籠った感じの音だったから、それを調律師かピアニストが感じたのだろう。

ジュニョンがラストのシューマンの歌曲をリストが編曲した「献呈」も素晴らしい曲。
心が愛でキラキラする!これをリストに編曲されて、リストのチャラチャラが嫌いなクララはちょったムッとしたかも。
大学時代、バリトンの先輩に卒業演奏(試験)で歌うからとこの曲の伴奏を頼まれて練習していたのだが、卒演当日の舞台の上で、献呈を弾き出したらストップがかかった。なんと先輩の担任教師が、試験曲として違う楽曲を間違えて提出していたことが判明し、私は舞台から客席に走って鞄をかき回して楽譜を見つけ、カラスを弾かねばならなくなったことがある。
シューマンじゃなくてシューベルト!愛のキラキラから、一気に暗い曲になった。弾き切っただけでゼイゼイしましたが、その後で、ワーグナーをちゃんと弾いた自分を褒めたい。
私は沢山伴奏をしており、鞄の中が整理されてなかったため、この楽譜もカバンの中にあったからよかった。

まあ、そんな話はどうでも良いのだが、そんなことを思い出しながらの鑑賞。

最後まで見て納得の、とても良いドラマでした。

とにかく音楽は心を語る。
音は直接心に響いて来るからやめられません!






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