嵐の中で

私は20年生きてきて、もうすぐ21歳になる。

けど、人間になったのはここ数ヶ月のことだと思う。

好きな食べ物、好きな色、好きなタイプ、顔、性格。

嫌いなものは言えた。煮凝りとか、ボルドーピンクとか。でも好きなものはわからなかった。言えなかった。知らなかった。

私は私が何をしたいのかも、よく知らなかった。

でもずっと美術を続けてて、美術を今も勉強してる。大学の仲間はみんな、自分自身が何が好きかをよく知っていた。


それがまるっきり変わったのは、本当に数ヶ月前。妹がはまっていた韓国のアイドルグループのライブDVDを横で見ていたら、そのうちによくわからない感情が湧いてきた。


これなんだ。こんなに寂しくて、泣きたくなるのはなぜ。テレビ画面の彼らは笑っってて、歌って踊る。それだけなのに。顔の区別だって、まだつかないのに。


防弾少年団。

「ばんたん」、と妹は言った。


そしてしばらくして、いつの間にかYoutubeのおすすめ欄は防弾少年団の日本語字幕動画でいっぱいになって、ホーム画面も二次元のイラストから写真に変わって、服の趣味も変わって。

これが好きになるってことか、と。


私は今まで好きを知らなかったのか、と。


人に行っても信じてくれないかもしれないけど、私はその時、やっと猿から人間になった。



でも今はそれがすごく怖くて苦しい。


私はあれから五キロ太った。理由は、好きを知ったから。


食べて、快感に感じるもの。それが好き。


今までは何を食べてもフラットに美味しくて、食べたくないものも食べ部たいものもなかったのに、急に食事が物足りなく感じて、それを量で誤魔化そうとするから食事量が増える。


心なしか味覚も変わったのか、味が新鮮に感じて、あれも、これも、と試ししてしまう。


自分に甘くなった。嫌なことが前より自覚できるようになったから。


でもそれを防弾少年団との出会いのせいにしたくなくて、結びつけたくもなくて、今度は自分が嫌いになった。

彼らは私にとって、過ぎた文明だったんだろうか。



自分を愛して、と彼らは言った。

僕たちを利用して、と彼らは言った。


彼らの用法用量をよく守って、正しく利用できる人間になりたい。


自分をコントロール下に置くこと。それが私の今の一番の課題で、それを達成するのは防弾少年団のおかげがいい。


私は私の好きを見つけてくれた彼らを、私の中で今吹き荒れる嵐から脱出する地図にしたい。そして私の好きで、私を好きになりたい。


初めて手にしたこの好きを、不器用にでも抱きしめ続ける。





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