少年の名を思い出した

時計じかけの雨が降る
ふるえるような声を探しても
どうにもならないと
爪先で踊るのを諦めた
まぶたの裏側では
遠い日の森が揺れていて
光がやけにまぶしい


おしゃべりな指先で
ちいさく呼吸を止める
答えあわせする少女の
背に見えた翼のようなもの
あのようには飛べない、と
しゃぼん玉になっていった
約束なんて散らしながら


幼い頃なら夢は甘かった
ねむってばかりいても
たくさんのものが優しかった
月が欠けていく速度
母の手のひらにふれる回数
また今日も眠っていたが
もう味のしない夜だ


花を飾るようになったら
きみは少し冷たくなった
ころすためにかうだなんてと
強い言葉を使う
ばらばらと、きれいな目元から
わすれな草の種をこぼして
いつも怯えているのは知っていた


ポケットの中に
知らない行き先の切符がある
今朝方に隣人がくれたのは
しんと白いマグカップだった
切らしている珈琲豆の代わりに
干からびた苹果の芯を入れ
少年の名を思い出した


ここまでお読みくださり、ありがとうございました