世界がまるごと滲んでいく

まぼろしを食べていた日々
空になった花瓶と
干からびた赤い果実
読めないままの手紙に
開け放した窓
吹き込む雨が染みていき
世界がまるごと滲んでいく


夜に眠り慣れていない
どうしてかと言えば
待っているから
月が割れる瞬間を望むような
縋りつく気持ち
もう二度とふれられないことを
理解する故の、それ


いつまでも歌っていた
真夜中の片隅
羊たちが跳ねる頃に
足跡だけを残していた
ちいさく夢を集めて
やわらかくにぎる
てのひらの温度は問わずに


探しものをしています
落としてきたのかも知れず
壊してしまったのかも知れず
通い慣れた道に
手かがりとする匂いはなく
それでも花は咲いていて
今日はよく晴れているのでした


ひとつ、合図がこぼれ
いっせいにひらく
甘やかな光をすくい
嬉しそうに微笑んだ
名前も知らない彼女が
遠く近くまぶしくて
永遠にするための目印を結ぶ


ここまでお読みくださり、ありがとうございました