誰からも忘れられた顔をして
誰よりも愛される夢を見た

──甘いのね?
──いや、苦い。

あなたがわたしを食むのだとして
凛として沈黙を保ちましょう
そっと 毒を塗るのを忘れないでおくわ


整然とした部屋に積もる静けさに、いくらでも転がっているような絶望。どんな色をしているのだろうと、はらりひらり、一枚ずつ捲りとっていく。
「もうそれ以上進んできたらだめなの」
嘯くのはつぼみの様相。窓硝子の隙間から差し込む銀明かりばかりが雄弁で、白く浮かびあがる答えが絶対。

カラコル、カラコルと響く。

てのひらいっぱいに集めていたものが、指の隙間から零れ落ちてゆく感覚を追いかける。少しずつ体温が失われるのと、重なる透明度、薄れていく身体の輪郭の、何がいとおしくて撫でてくれたのか。立ちずさむ背中にはもう興味もなく、引いてみたシャツは戯れ。

忘れてくれたらいいの
傷にしてくれてもいいの

歌ってみようか、泣いてみようか。

爪ならば綺麗に伸ばしてあるから、最後であるなら少しだけ、あなたの血をもらいたい。儀式めいてね、なぞる、お別れを届ける。そんなに痛そうな顔は、他の誰かに見せては駄目。
笑って? の意味を、知っておいて。


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