VRのAV - 被験者Sの献身

「気になってくると、いてもたってもいられない性分でね。」

男はそう言うと背中を丸めて目の前の画面にグッと顔を近づけた。


時刻は午前3時19分——


手元には以前まで彼が使っていたという充電中のスマートフォン。


それと——


VRゴーグルである。


彼が真剣な眼差しで見つめているその画面には「DMM動画.R18」という文字と、妖艶な画像たちが格子状に規則正しく並んでいた。

そう、今現在彼は、これから視聴するAV"アダルトビデオ"を選別している最中なのである。

しかもよくある普通のAVではない。


VRのAVだ。


彼にとってVRのAV視聴は初めての体験ではない。

彼はその時の体験を音声データで記録に残していた。


「これが未来か……。」

そんな言葉を残してはいたが、VRのAVを視聴するのはそれ以来6か月ぶりである。


はっきり言って彼の「性」への探求心は異常だ。

「よく変人と呼ばれるよ。」

彼は困ったように、だがどこか嬉しさを滲ませながら笑った。


「新しい問題を1つ思いついたんだ。」

彼は続ける。

「誰にもヌケないAVを作るのと、そのAVでヌクのとでは、どちらが難しいか?ただし、答えは必ず存在するとする。」

きっと、この問題を解いても、誰も幸せにはなれない。

なぜなら——


いや、今はこの話は止めておこう。


気付けば彼の画面には沢山のタブが並んでいた。

それだけ彼はAVを選ぶことに真剣なのだ。

「思いつきや、感だけでAVを選ぶのは間違いの始まりだ。」

それが彼にとってのAV選びのポリシーなのだという。


数あるタブの中からとあるレビューコメントが彼の目に止まった。

「このレーベルの作品は美しい。」

彼は数ある作品のレビューコメントの中で、初めて信用に値するコメントを見つけたのだ。


そのレーベル名は——


『KMPVR-彩-』


それからの彼の行動は早かった。

「綾ちゃん……。」

佐々波綾、彼のお気に入りのAV女優の名である。


「彼女はね、お尻がいいんですよ。」

そう呟いた彼の表情は、これから合戦へ向かう覚悟を決めた武士のように凛としていた。

そして訪れる静寂。


カチッ——


クリック音が空に響いた。

それと時を同じくして、彼のスマートフォンが震えた。


時刻は午前4時08分——


「仮説は立証して、初めて真実となる。」

そう言った彼の声は、静寂を包み込むように優しく、重かった。


そして充電していたスマートフォンをVRゴーグルにセットし、——


装着した。


それからの彼の姿は見るに堪えなかった。


常に半開きの口、


「何か」に触れようとしている手の動き、


ことあるごとに聞こえる「あらあらあらあら……おおほほほぉー……なるほどね、なるほど……あららららららら……。」という声。


これが成人を迎えた男性が夜明け前に見せる姿だというのだから恐ろしい。


彼が現実世界から旅立って40分ほどが経った。

「居たんだ——」


「佐々波綾ちゃんが、目の前に居たんだ——」


「すげぇよ……すげぇよ『KMPVR-彩-』——」


「映像だとか、見るとか見ないとかじゃない——」


「居た」


「そして体験した」


そう言った彼の瞳には、未だ覚めやらぬ仮想と現実の世界が映りこんでいるような気がした。



「新しい問題を1つ思いついたんだ。」

彼は続ける。

「誰にもヌケないAVを作るのと、そのAVでヌクのとでは、どちらが難しいか?ただし、答えは必ず存在するとする。」

きっと、この問題を解いても、誰も幸せにはなれない。


なぜならAVとは、

視聴者の「性」を思う作り手と、

作り手の「性」を見届ける視聴者とで成り立っているからだ。


少なくともあの瞬間、

彼は、


——スダ氏は、佐々波綾に生かされていた。

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今晩、夢でお会いしましょう。
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スダ氏の文学的体験レポート

なんてことない日常のあんなことやこんなことを無理やり文学的にレポートします。
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