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「ディズニープラス」は日本アニメを変えるのか、自社IP以外の正否

「Disney+」は日本アニメを変えるのか?

同じ言葉が、最近までは「Netflix」で言われていた。「Netflixは日本アニメを変えるか」である。
実際にNetflixのインパクトは大きかった。日本アニメの配信権購入だけでなく、独占配信=Netflixオリジナルアニメとすることで、アニメ製作予算のほとんどをカバーすることを実現した。Netflixがなければ企画が実現しなかった作品も少なくない。
2017年にスタートしたオリジナルアニメの本数は、2021年におよそ40本にもなった。日本のアニメ制作の持続との点で、Netflixはいまや日本でも大きな存在だ。

では、Disney+はどうだろうか?

2019年に米国でスタートしたサービスは、わずか2年でSVODと呼ばれる定額課金見放題の映像配信サービスで契約世帯数が1億2000万近くに達した。いまやNetflixの最大のライバルである。
そうであれば、Disney+もまた日本アニメに何かインパクトをもたらすと考えられる。

6番目のブランド「スター」のコンセプト“ディズニー以外”

話しを進める前に、まず事実確認から始めたい。
Disney+の日本上陸は2020年6月、ドコモとの提携で一部限定的なかたちでサービスを開始した。特徴は「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「ナショナルジオグラフィック」「ルーカス(=スター・ウォーズ)」のグループ5大ブランドでの展開だ。

強力なタイトルばかりが並ぶが、それでもグループ作品だけでは偏りがあると考え、自社作品以外を配信する「スター」を2021年2月に導入した。ラインナップの多様性を確保することで、先行するNetflixを目指す。
2021年11月の「スター」の日本投入に合わせて、日本国内のサービスも大幅にアップ。2021年10月には、アジアパシフィクでは初というDisney+の大型発表会「Disney APAC Content Showcase 2021」が都内で開催された。

「スター」は日本アニメにとって変化になった。それは1か月あまり経った2021年12月のラインナップを見れば一目瞭然だ。『進撃の巨人』『ソードアート・オンライン』『ユーリ!!! on ICE』など、人気の日本アニメがずらっと並ぶ。「これがディズニー!?」と驚かせるのに十分だ。

しかしこれだけでは、Disney+のインパクトはあまりない。多くある他の配信会社でも同様のラインナップは用意されている。ある意味どこでも見られる作品だ。日本のアニメ会社にとれば、すでに数十ある配信先がひとつ増えたに過ぎない。
ディズニー側にしても、これまでもディズニーチャンネルやディズニーXDなどのテレビ放送では、『けいおん!』や『イナズマイレブン』などを放送していた。Disney+がグループ内の放送の役割を引き継ぐメディアであると考えれば作品の選択の方針はこれまで通り、変更はない。

日本アニメ3タイトル、世界独占配信のインパクト

ここで注目すべきは「APACコンテンツ・ショーケース」で発表された世界独占配信3タイトルである。

『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』
『四畳半タイムマシンブルース』
『サマータイムレンダ』

いずれも一般的なディズニーのイメージとは異なり、大衆向きと言うよりはコアファン度が高い。これらが日本独占であれば分かりやすい。しかし世界独占となると配信権の購入価格も格段にあがる。

3つのタイトルは、コアファンにアピールする以外の特徴もある。
『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』のプロデュースのトムス・エンタテインメントは、バキシリーズをNetflixのヒットタイトルとしており、『Dr.STONE』では米国のアニメ専門配信のクランチロールでヒットタイトルにしている。ビジネス的には両社に近い。
『四畳半タイムマシンブルース』の制作会社サイエンスSARUは、『DEVILMAN crybaby』や『日本沈没2020』と相次いでNetfixオリジナルを手がけた。そしてこれまでの「四畳半」シリーズが放送されたフジテレビのノイタミナはAmazonプライム ビデオやFODとも関係が深い。
『サマータイムレンダ』の原作は「少年ジャンプ+」で連載した。ビジネスの枠組は現段階でははっきりしないが、ジャンプ+編集部はこの夏に漫画家発掘オーディション番組「MILLION TAG」でNetflixとタイアップしたばかり。

 つまりいずれも従来の配信プラットフォームからラブコールを受ける作品である。新興のDisney+が激しい競争でこれらを獲得したのは、配信権購入価格などで他社より高い条件を提示したとみるのが妥当だ。
サービス開始に合わせた話題づくり、ブランドづくりの可能性がないわけでない。それでも現状でも高騰気味の独占配信権だけに、日本国内だけを考えれば割に合わない。当然、世界でも見られることを意識していることになる。
おそらくそこにはNetflix効果がある。Netflixが日本アニメ導入によりグローバルでユーザー獲得に成功したからだ。先行者の成功パターンを踏襲するのは、ビジネスの定石である。

なぜディズニーは日本アニメが必要なのか

さらにひとつはアジアだ。世界のSVODビジネスの主戦場は、欧米から東南アジアを中心としたアジア太平洋に拡大しつつある。アニメの海外進出では、東南アジア・南アジアの国々は人口が多いが購買力が他の地域より弱く収益性が低いと指摘される。
しかし配信ビジネスとなるとまた別だ。スマートフォンの普及率はいまやほとんどのメディア機器より高く、スマホさえあれば容易にユーザーにリーチできる。定額課金の月額金額は、先進国・新興国との差はあまりない。動画配信で中国市場に進出できないなかで、中国を除くアジアは人口の多い魅力的マーケットだ。
このアジア市場を取りに行く時に、地域にアピールする作品が必要になる。それは日本アニメや韓流ドラマというわけだ。

注目される「ツイステ」アニメ企画と、その後

それでもDisney+がどこまで日本アニメに本気かは現状で不透明だ。その今後の行方を占う鍵はふたつある。
ひとつは、先の3タイトルと同様の独占タイトルが、今後どれだけ増えていくのかである。

もうひとつは、10月の発表にあったもうひとつの作品『ディズニー ツイステッドワンダーランド(ツイステ)』だ。ディズニーアニメーションに登場する敵役たちからインスパイアされた美少年たちが登場するスマホアプリゲームをアニプレックスと共同企画でアニメ化するという。

たとえ世界独占であっても配信権の購入だけであれば、実際はアニメ業界への影響は限られる。作った作品を買ってくれるお客様である。Netflixの日本アニメ業界への影響が注目されるのは、彼らが作品の企画にも関与するようになったからだ。
「ツイステ」はもともとディズニーのキャラクターからインスパイアされた作品だから、オリジナル企画の立上げとして特例。あるいは9月に配信を開始した日本のアニメスタジオが制作した『スター・ウォーズ:ヴィジョンズ』と同じ枠組みかもしれない。

しかし「ツイステ」に続き、既存のディズニーグループのIPに依存しないオリジナル企画が今後浮上すれば、Disney+はNetflixや日本の製作会社の巨大なライバルになる。それはディズニー自身にとってアニメ分野への大きな挑戦への一歩だ。
その時こそきっと「Disney+(ディズニープラス)」は日本アニメを変えるはずだ。

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