たっくん

(※前作の「くみくん」と同じ世界線です)

 初めて出会った日のたっくんはどこから来たのか知らないけど、死んだような目をして、マジで今すぐ川に飛び込みそうだったので、あたしは初対面で「スロット、行こうよ」って誘ったんだ。「アガるよ」って。そしたら、たっくんは、興味なさそうにしながらついてきた。断るほうが面倒くさかったんだと思う。たっくんの歳は聞かなかったけど、成人はしてたっぽいから、入店できた。金も持っていたらしかった。あたしはいつも打っているまどマギの台の前に座った。たっくんも隣に来た。たっくんはあたしの隣で暫く打ってみて、低い声で
 「全然面白くない。これ」
と呟いて隣の台のおっさんに不愉快そうな顔で見られていた。あたしはというとちょうど7を二つ揃えて、あとひとつ7が来たら最強、優勝、ウルトラハッピーという状態でラリっていた。
 「7が……あとひとちゅ7が来たらナナが最強の魔法少女なのぉー」
 だいぶ変な独り言を漏らしながら喘ぐような呼吸をするあたしを見てたっくんは
 「キモい」
と率直に吐き捨てたが、そこに嫌悪感は含まれてなかったと思う。もちろん、当時のあたしはそんなこと気にしている余裕ない。スロットに夢中だ。だから、たっくんの「キモい」に嫌悪感が入ってなかったというのは、たっくんが何にも拒否反応を示さない奴だと知っている今のあたしの推測だ。三つ目の7は揃わなかった。所持金を大幅に減らして店を出て、舌打ちしながらセブンスターを吸っていたら、たっくんが興味ありげに見てきたので、「吸う?」と一本差し出した。不慣れな仕草でライターを使っていたが、煙を吐き出す姿は初めてにしては様になっていて、色っぽかった。たっくんはあたしの隣で暫く吸ってみて、低い声で
 「全然おいしくない。これ」
と言って、同じ喫煙所でラッキーストライクを吸っていたおっさんに不愉快そうな顔で見られていた。
 「名前は? 俺、拓海」
 「びっくりしたぁ。自分から喋りかけてくるんだね」
 あたしは思わず驚嘆を声に出した。
 「ダメだった?」
 たっくんはめんどくさそうに問うた。
 「ダメじゃないよ」
 「名前は?」
 「ナナ」
 あたしが答えると、たっくんは
 「ナナ……」
と無気力に呟いた。
 それが出会いで、あの頃、成人したてだったあたしも二十五歳になった。ギャンブル代のためにやっていた売春も、二十五にもなればロリコンどもからババア扱いされるからだるくなってやめた。今は食費削って会社の給料をギャンブルに当ててる。たっくんは今、何歳なのか、未だに歳を知らないけど、色んな女の子から引っ張りだこで何股もかけちゃってるみたいだ。あたし自身はたっくんと寝ない。綺麗なものには手を出さない主義だからだ。たっくんはとても綺麗だ。顔だけじゃない。何も愛していなくて残酷そうなところとか、何ひとつ拒まない聖母みたいなところとか、すごく綺麗だ。あたしはこう見えて、綺麗なものが好きで、この世で一番綺麗なのはたっくんだと思う。

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