見出し画像

怠け者の僕は今日も朝陽を見逃す

早朝、黎明が、僕は好きだ。
僕以外の、まだ誰一人起きていない時間帯。
息をするものは僕と、傍らに鎮座する巨大なモンステラのみ。
そのモンステラは朝陽と共に、僕を端然と見下ろす。
その光芒が遥か地平線より昇り出ずるその時、
僕は徐に眠りより醒める。
一つ大きく深呼吸し、外界のざわめきの中に啼鳥を聞く。
一歩、また一歩と、緩やかな足取りで上階のリビングへ向かう。
リビングに一続きのキッチンは、静まり返って寂然としている。
唐突に灯りを点ける。
途端、暗闇に花火の開く如く、部屋中に色彩が蘇った。
鮮やかな色の戻ったポットで、僕は鼻歌混じりに湯を沸かす。
今日は何にしようか、グァテマラにしようか。
愛らしい絵柄のドリップパックを整然と並べ思案する。
今日は矢張り、グァテマラだろう。
一頻り思索に耽ると、パックを開き、湯を注ぐ。
『の』の字を書くように、細く、細く、ゆっくりと。
立ち上る、鼻孔をくすぐる優雅な香り。
珈琲を淹れる時、僕が思い出すのは何時だって父。
彼の嬉々として珈琲を淹れる後ろ姿が、僕には殊愛情深く見えた。
珈琲の入ったマグカップを手に寝室へ戻る。
朝陽は今や燦然と木々を照らしている。
ようやっと目が醒めて来たと言うのに、
ソファベッドへ腰を下ろした僕は、その柔らかさに再び瞼が重くなる。
否、起きるのだ、と自身を鼓舞してマグカップへ手を伸ばした。
途端、サイドテーブルの上でそれはグラグラと振動を始める。
「地震?!」
驚きの余り目を見開いて一心に手を伸ばすが、テーブル上のマグカップは遠のいて行く。
「うーん・・・。」
マグカップの幻影が見えた気がしたが、僕は躊躇無くそれをはたき落とす。
眼前にはひっくり返された置時計が転がっているが、
それで満足した僕は再び夢の世界へ旅立つ。
そして、僕は今日も朝暘を見逃してはにんまりするのだ。

この記事が参加している募集

朝のルーティーン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?