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気付けば、トリオばかり見ている


はじめに


タイトルの通りである。

暇ができると、テレビやネットで芸人のネタをあれこれと、息をするように見ている。見ていて怒りが湧き上がってくるほどセコい芸もあれば、今後の大成が期待できる芸まで、この国の「芸」の裾野は考えられないスピードで膨張し続けている事を日々実感している。そんな、あれやこれやと芸をつまみ食いしている生活を過ごしている内に、ふと最近の自分の中の、気障な言い回しだが「トレンド」のような物が出来上がっている事に気付いた。

自分がお笑いを見始めた時からトリオグループは一定数存在していた。それにしても、肌感覚でしかないが「トリオがお笑い界を占める割合」は今現在が一番多いような気がする。そうなってくると、こんな生活をしている以上、トリオの芸が目に飛び込んでくる確率は必然と高くなる。

どのトリオも面白いんだ、これが。そして、最近の流行なのか、とにかく「作りこんだ」芸風が多い。

同じような設定でも、コンビよりもトリオの方がネタの構成や発想に奥行きや厚みがあって、脳裏に残るパターンが多い。やはり演者が1人増えると、その分だけ出来る表現の幅も広がる。表現の開拓の加速度でいえば、トリオの方が年々顕著に見える気がする。

今回は、色々な芸を見てきた中で、最近自分の琴線に触れたトリオについて、感じた事考えた事あれこれを駄文にまとめておきたい。


ゼンモンキー

ゼンモンキー

多くのお笑いファンの、このトリオに対する最初の印象は「突然出てきた」なのではないだろうか。自分もそうだった。

ワタナベエンターテインメントが所属芸人の中で、その年の1番を決める「ワタナベお笑いNo.1決定戦」。過去に笑撃戦隊、ロッチ、ハナコ、はなしょー、と錚々たる実力派達が優勝したこの大会で、2021年全くの無名から颯爽とタイトルを奪取したのが、ゼンモンキーだった。当時芸歴1年目。「ゼンモンキー優勝」の一報が流れた途端、無数のお笑いファンからのパニックと戸惑いを隠せない感想が洪水のようにネット上を錯綜していたのが印象的だった。

まず、「見た目」に強く惹きつけられる。小柄で、眼鏡姿でいかにも気弱なオタク気質に見える荻野将太朗、細身でシャープな顔付きと眼光の鋭さが印象的なむらまつ、そして長髪・ヒゲの大男ヤザキ。3人の見た目があまりにもバラバラである。バラバラ過ぎる。個性が玉突き事故を起こしている。接点も共通項も全く想像できない三者三様の見た目に、ネタを見る前から何とも言えない不穏な期待感を持たずにはいられない。

初めてネタを見る前その見た目から、ハチャメチャで大味な芸かと勘ぐっていた。だが、いざネタを見てみると、その見た目とは裏腹に、なんともスマートで、程の良いコントを軽々とやってのける。この不可思議なギャップが堪らない。キャリア2年目の芸の質ではないのだ。

センスをこれ見よがしに押し付けるようなコントでもなければ、日常の一場面を切り取ったスケッチとも違う。舞台はどこにでもありそうな他愛のない日常で、登場人物達もどこにでもいそうな市井の人達。コント中3人は意図的にボケる事も無いし、ツッコんでもいない。特異すぎるキャラクターが出てくる事も無い。ほんのちょっとしたボタンの掛け違い、気遣いのズレ、認識のすれ違いが次第に騒動の坩堝と化して、登場人物達を容赦なく翻弄してゆく。このプロセスの描き方が実に丁寧で秀逸、それをさりげなく描ききってしまう。

3人の役割はボケ・ツッコミというよりも、三者三様の「被害者」と言う方がいいかもしれない。

この3人の振り回されっぷりが見る側の感情を見事なまでに巻き込み、爆笑を連鎖させる。特に、荻野のコントにおける一挙一動は自分のスタンスを熟知しているからこその彼にしかできない表現だ。むらまつ、ヤザキが立てる波風が大きければ大きいほど、荻野の持つ旨味が炸裂する。逆もまた然りだ。

だからといって、1人を全面に見せるという見せ方でもなくて、誰も脇役がいない3人全員が主役として活きるような脚本となっている。ここまで行き届いたコントを書けて魅せてくれるというのは、繰り返しとなるが、キャリア2年目の芸じゃない。今後の発展が楽しみで仕方がないトリオである。

動画サイトで見られるゼンモンキーのネタで、個人的なオススメを列挙する。

「張り込み」
初めて見たのがこのコントだった。移り変わる荻野のスタンスがバカバカしいし、ヤザキの濃ゆさも抜群。そして鮮やかに翻弄させてくれる脚本に感嘆。


「ロケット」
「ツギクル芸人グランプリ」の決勝でも披露された快作だが、このYouTubeが上がっているバージョンは「間」が秀逸。丁寧さが行き届いた前半のフリがあるからこそ、中盤からの爆発が最高。


「ゲームセンター」
設定、展開、キャラクター、どの要素もとにかく「程が良い」。好きな件が、中盤辺りでむらまつとヤザキが一度舞台から降り、ある物を持って再び舞台に上がってくるのだが、これが「抜群」。「抜群」以外の何物でもない。


「KALDI強盗」
「強盗」をテーマにしたコントは数多あったが、「KALDI」という要素を組み込むだけで、こんなに面白くなるなんて。爆笑は勿論、設定の秀逸さと支配力の凄さに見終わった後しばらく感動の余韻に浸った。傑作。


ぎょねこ

ぎょねこ

不条理、ナンセンスな笑いが好きだ。

平和的でのどかな喜劇も確かに面白いが、その中にもどこかブラックジョークや、支離滅裂な不条理な笑いをエッセンス程度で構わないから欲している自分がいる。

自分なんかが語るのはおこがましいが、笑いは「陰を愉しむ芸能」だと思っている。人間の醜さ・弱さといった内側の黒い部分、死、社会問題、論理が破綻した支離滅裂な現象など、目を背けたくなるような陰鬱な要素をカリカチュアし、「ネタ」という娯楽作品へ昇華させる、これが「笑い」という芸の本質なのではないかと。

色々な若手の芸を見ている中で、今一番自分好みのナンセンスを体現してくれているネタをやっているトリオが、ぎょねこだ。

前述のゼンモンキー同様ワタナベエンターテインメントに所属する、オジマアロー・勝男・青木大地からなるトリオ。去年M-1グランプリに参戦している事を知って驚き1回戦のネタを見たが、コントを漫才に加工したような内容だったので、基本はコント師なのだろう。

Twitterきっかけでその存在を知り、何気なくネタを見始めて、気づいた時にはすっかりその芸風にハマっていた。

発想のバカバカしさと、徐々に垣間見えてくる不条理な展開を兼ね備えたコントはどれも破壊力抜群。中には「客が引いてしまうのでは」とも思うようなコントもあるが、3人が持つ独特な面白味が過激さを中和して、ナンセンスな笑いへと昇華されている。洒脱に笑いを取るというよりも、自分たちが面白いと思う事を真っ直ぐ泥臭く表現しているように映る。

初めてネタを見てから存在が気になり、すぐさま彼らのYouTubeチャンネルを登録し、上がっていたネタを片っ端から見ていたが、3回連続で登場人物が死ぬ件があるコントに当たった。でも、嫌悪感を感じる表現ではなくて、まるで少年誌のハチャメチャなギャグ漫画を読んでいるような不条理感があって、爆笑した。そこから、どんどん彼らの作るナンセンスな世界観にのめり込んでいった。

ネタを評する時によく「ベタ」や「シュール」といった表現が用いられる事が多いが、ネタを見ていて彼らのネタを言い表すとするなら「変」という言葉が浮かぶ。なんだか「変」なトリオが、とにかく「変」なコントをやっている。何ともまとまらないが、こう思えて仕方がない。この「変」さが彼らに惹きつけられる要因なのかもしれない。

動画サイトで見られるぎょねこのネタで、個人的なオススメは以下。

「三人組」
「ズッコケ三人組」を彷彿とさせるほのぼのとしたキャラクター設定なのだが、次第に人間のドス黒い部分へと視点がクローズアップされてゆく展開が斬新。

「新築」
理不尽な設定、スラップスティック、そして悲壮感。抜群である。

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。」(チャールズ・チャップリン)

「肉屋」
クレイジー。とにかくクレイジー。ツッコミの演技、ワードセンスも見事。

「ニュース」
1つの件で何度も、それも次々と新鮮な面白味が出てくるという発想にやられた。


モシモシ

モシモシ

太田プロダクションに籍を置くまぐろ・いけ・あきちゃんからなるトリオ。見ての通り、男女トリオである。

長いお笑いの歴史を遡っても、男女トリオというのはかなりニッチな存在といえる。古くは、「浪漫ショウ」と掲げて人気を博した浪曲漫才の「タイヘイトリオ」、三味線漫才の「三人奴」が女2・男1の構成の男女トリオだった。最近この編成だと新たに「ぱーてぃーちゃん」が登場してきた。

リアルタイムで見ていたグループでいうと、大阪吉本に「シャングリラ」という女1・男2の、コントも漫才もこなすトリオがいた(後に解散し、現在は男2人がコンビ「ダンシングヒーロー」としてSMAに所属)。あと、吉本興業の地方事務所である札幌吉本には「サンモジ」というトリオがいた。ここも女1・男2という構成で、テンポのいい漫才で当時の札幌吉本のトップを張っていた。リアルタイムで見ていたといってもこれが10年以上前となるので、モシモシの存在を知ったのはそれ以来という事になる。

このトリオの魅力は何といっても、3人とも演技が抜群に巧い。演技力が高いのは勿論、瞬時に見る側を惹きつける瞬発力、映像が浮かぶ力強い表現力を兼ね備えていて、演劇の方面に活動の場を広げていっても遜色がないのではないかと思う程。

その個性を活かした演劇的なコントを繰り広げるのだが、これが実にバカバカしい設定が多い。設定のバカバカしさ、くだらなさのふり幅が大きければ大きいほど、大真面目に演じる3人の演技力がブーストとなって、濃厚で爆発力の高い笑いを生み出す。

女1・男2というメンバー構成だが、コント上では女2・男1の設定にこだわり続ける芸風も面白い。この編成のコントにこだわるのならば、最初から女2・男1のトリオを組むはず。だが、男性メンバーの、それも一番大柄なまぐろが女装して演じる事で、女性が女性を演じる事では生まれない笑いの広がりが生まれる。彼はこのままこの芸風を続けていれば、ばってん荒川、桑原和男といった女装芸人の系譜を継げるだろう。言い過ぎだろうか。

良くも悪くも、全力で押さえつけるようなパワーファイト系の芸風なので、機会によっては力み過ぎて空回っている印象を受ける事もあるが、まだキャリアが若いだけに、今後の研鑽に期待している。

動画サイトで見られるモシモシのネタで、個人的なオススメは以下。

「隠しごと」
「ツギクル芸人グランプリ」の決勝で初めて見たが、演技に熱が加われば加わるほどバカバカしさが際立つ。話題の広げ方も巧い。

「初号機パイロット」
バカバカしさの極致。ここへさらに「安っぽさ」が加わるもんだから堪らない。

「シャボン玉」
音声のみなのに、それでも情景が浮かんでくる。いつか映像でしっかり見たいコント。


ハチカイ

ハチカイ3

今の時代を生きるお笑いファンである事を心から良かったと思える瞬間がある。それはネットを通じて、テレビにまだ出ていない若手芸人を離れた地方からも青田買いができる瞬間だ。わざわざ東京や大阪へ飛ばずに、地方にいてもネットを繋げば「最近出てきた○○が面白い」「○○のネタがヤバい」と瞬間瞬間で、最新の情報をアップデートする事ができる。そんな日々を過ごしていると、何かの拍子にまだメディアにも殆ど露出していない才能に巡り会う瞬間が必然的にやって来る。

ハチカイの芸には、まさにその刹那で巡り会う事ができた。

警備員、ニシブチ、こんぽんからなる男女トリオ。どこの事務所にも籍を置いていないフリーの芸人である。結成は2021年。トリオとしてのキャリアはまだ1年ほどしかないという事に驚きを隠せない。

きっかけはTwitterである。評判が流れてきて何の気なしにYouTubeでネタを見たが、久しぶりにお笑いを見て度肝を抜いた。斬新な設定、絶対に予想ができない展開、強烈なマニアックさと濃厚に香るアングラ臭。通常の人生よりもお笑いを見てきていると勝手に自惚れている自分でも、こんな発想のトリオコントは見た事がない。

バカバカしさと狂気が振り切れている大胆さもありつつ、登場人物の心理描写や台詞の言葉選びなどディティールへのこだわりが強く感じられる。故に、全編見どころ。コントの一挙一動から最後まで目が離せない。

YouTubeにチャンネルが開設されており、そこにコントが上がっている。数は少ないものの、どのネタも強烈である。個人的オススメは以下。

「別れ話」
初めて見たネタ。最初見た時、衝撃的すぎて何を見せられたのかが消化しきれなかった。「いつ思いついたのか」が気になる発想と意表を突く見せ方に、終始翻弄されるばかり。

「ダメ男」
こんな展開、想像できる訳がない。展開もさることながら、台詞の言葉選びも秀逸。後半から映像が荒れるため注意。

「人間ポンプ」
シュールを超えたファンタジー。「人間ポンプ」というテーマでどれだけ遊べるかが見所。


以上、自分が好きなトリオの事を脈絡なく色々書き連ねた。脈絡もへったくれもない。ただ「このトリオのこの芸がいい」と、「好き」という気持ちを駄文に起こしただけの事である。書き始めると、「あれも書きたい」「これも書きたい」という気持ちが制御できなくなる。それで文章にまとめるのが遅くなる。「まとめたとて」と自分の文才の無さが嫌になる。

至極当たり前だが、ここで紹介した以外にも面白いトリオは山のように存在する。群雄割拠である。巡り会うタイミングがまだ彼方にあるだけで、「青色1号」や「ニュートンズ」、「オフローズ」と面白い組に巡り会える機会が山のように控えているし、漫才だと「なにわスワンキーズ」、「風穴あけるズ」とコテコテの個性派もいる。最近だと、「海老車」というトリオの才能にひっくり返った。昨今流行りの「大学お笑い」の世界にいるグループだが、学生の現段階でこの完成度のコントを見せられたら、将来を期待しない訳がない。

今後もトリオから目が離せない。気づけば、今宵も何かしらのトリオの芸を見ている。

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