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【レポ】「安藤忠雄展 -挑戦- 」へ行ってきました。〜前編〜『生涯をつらぬくテーマを見つける』

六本木にある国立新美術館で開催されている「安藤忠雄展 -挑戦-」 は、平日の昼間に関わらず大勢の人で賑わっていた。建築物の写真や模型に食い入るようにして見入る人々。熱気とともに、「すごい!」「すげぇ…」そんな単純な声が、そこかしこから漏れ聞こえてきた。彼が手がけた建築物が芸術作品の域にまで昇華されていることの証のように感じられてならなかった。

さて、安藤忠雄さんのことを(詳しく)ご存知ない方のために、簡単に略歴をご紹介しておくことにしよう。

安藤忠雄さんは、1941年、大阪府生まれ。世界的に活躍する日本を代表する建築家のひとり。しかし、建築の専門教育は受けておらず、独学で建築を学んできた。「住吉の長屋」が高く評価され、1979年に日本建築学会賞を受賞。以降、コンクリート打ち放しと幾何学的なフォルムによる独自の表現を確立し、世界的な評価を得る。そこからジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、2013年フランス芸術文化勲章など世界各国21もの賞や栄典を受賞、またハーバード大学やコロンビア大学などの客員教授を歴任し、現在では東京大学の名誉教授となっている。

とここまで書いておいて恥ずかしながら、ぼく自身、あまり安藤忠雄さんのことについて詳しかったわけではない。もちろん、世界的な建築家であることや、表参道ヒルズや光の教会をはじめ、いくつかの建築物については知っていた。とはいえ、その程度だ。しかしながら、いやだからこそ、そんな知識レベルで飛び込んだ展示会はとても新鮮な刺激に満ちていた。その一つひとつに「はー」「ほー」と唸らされた。

◉ 安藤忠雄建築の原点/住まい

安藤忠雄さんは、商業施設や教会などスケールの大きな建築だけを手がけているわけではない。その建築活動のスタートは、じつは都市住宅の設計から始まっているのだ。1969年に建築事務所を設立してから10年ほどは設計の仕事がなかなか受注できず、敷地も狭く、予算も少ないと逆境の連続。そんななか、

「都市ゲリラ住宅」

という標語と文章を書いて活動を展開。(いまでは日本を、いや世界を代表する建築家のひとりが"ゲリラ"を標榜していたとは、人生なにがあるかわからないものだ…)そんな苦しい状況なか、一つひとつの仕事に無我夢中で取り組み試行錯誤するなかで、ある意味では生涯をつらぬくテーマが見つかった。

「徹底して単純な幾何学形態の内に、複雑多様な空間のシーンを展開させる」
「コンクリートという現代において最もありふれた素材をもって、どこにもないような個性的な空間をつくりだす」

これらは安藤忠雄さんが、いま現在に至るまでこだわり続けているテーマのひとつだ。そんなテーマのひとつの完成形とも呼べる住宅「住吉の長屋」が生まれた。

まわりの建物と比較すると明らかに異質。まさに「都市ゲリラ住宅」の名にふさわしい建築物に仕上がっている。でもここで驚くのはまだ早い。

部屋から部屋へと移動するとき、外に出なければならないのだ。雨が降ってでもいたら、まぁ〜大変。傘をさしての移動を余儀なくされる。なんて不便きわまりない家だろうか。

と思っていたらなんと、この家に35年ほど住んでいる居住者の方からの手紙が展示されていた。そこには、こんな一言が書かれていた。

「不便さと引き換えに、精神的な大黒柱をもらいました」

想像の通り不便なのには間違いないけれど、その文面からは居住者が納得し満足して暮らしている様子が伝わってきた。

展示会ではそこから100ほどの、安藤忠雄さんが手がけた住宅の写真、映像、図面、模型などがズラリと並んでいた。そのどれもに心踊らされ、見入ってしまうものばかりだ。おかげで展示物鑑賞の列が進まないこと進まないこと。

そのすべてに安藤忠雄さんの確固とした哲学が息づいている。安藤忠雄ブランドが刻印されているのだ。つまり、相手の要望に合わせることはない。実際に安藤さんが住宅を設計するとき、必ずこんなことを言うという。

「私が建てる家は住みにくいですよ。それでもいいんですか?」

そしてさらに、本人が吹き込んだ音声ガイドで笑いながらこうも言っていた。

「私は、じぶんが設計した家には住みたくありません。絶対に住みませんよ」

それほどに、安藤忠雄さん自身が駆け出しの頃に見つけたテーマ、哲学に徹底して従い、発展させ続けていることがわかった。

しかしである。では、安藤忠雄さんの好き勝手に設計し、建築をしているのかというとそういうことではない。ただじぶんの哲学にこだわるということの反対側にある、「場所を読む」「場所との対話」ということも大切にしてきたのである。

このテーマに関しては、後編につづく。

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◉ 「安藤忠雄展 -挑戦- 」は2017年12月18日(月)までやっています。 
→ http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/

そんな展示会に向けた安藤忠雄さんのことばをどうぞ。

「誰が観ても発見と驚きがある展示になるよう心がけました。私は建築をつくることしかできませんが、建築を通して希望と夢と勇気を持って生きることの大切さを伝えたい。ですから特に、子どもたちにたくさん来てもらいたいんですよ。50年間、建築と格闘ばかりして生きてきた人間がいるらしい、ならば自分はこう生きたい。そんなことを考える材料にしてくれたら何より。それから70歳でも80歳でも、目標を持って毎日生きている人にもぜひ足を運んでほしい。自分や社会に何ができるか考え続けていれば、何歳になっても青春です。私も生涯、青春していたい。そういう人が集う場になればうれしい」

安藤忠雄さんが手がけた個性豊かな住宅のほんの一部をおすそ分けしますね。


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