じゃがいもを磨く。
今年の抱負らしきことを言ったり書いたりしなければいけない時のために、それらしい言葉を準備する大晦日。「今年もいっしょうけんめいがんばります!」では芸がないので何かいい言葉はないだろうか。
年越しそばを食べながら、その昔新人研修の際に社長が言った言葉がふと頭に浮かんだ。
*
私たちはダイヤモンドの原石なんかじゃない。
田舎のじゃがいもだ。
でもそのじゃがいもをピカピカに磨こうではないか。
*
当時、私はその言葉にえらく感銘を受け勇気が出てきたものだ。社長は採用した新入社員を磨けば光るダイヤモンドだと思いたいだろうが、必ずしも全員がダイヤモンドではないであろうと踏んでいる。
当の本人も、有名大卒のエリートでもなければ、生まれつきの天才でもない。TVに映るアイドルのようにスター性などないことは百も承知だ。ダイヤモンドどころか ”海のものとも山のものとも” 自分でも自分が何者かわからずキョトンと突っ立っている。
田舎のじゃがいもか。
それでもここにいて良いのだと認められた気がして、自分にできる事をいっしょうけんめいがんばろうと思った。
田舎ホテルなりになんとか都会の一流ホテルに認められたいとじゃがいも磨きをする日々の中で、会社はISO認証を取得するということになった。
サービス業でISOとはあまりピンとこなかったが、レストランではまずオーダーを受けてから料理が出るまでの時間を測るため、伝票に時刻を書き込むことになった。
腕時計は禁止だったのでオーダーを取る度にポケットから時計を出して見るのだが、ランチタイムは運動会のような忙しさ。私はサイドテーブルに腕時計を置いておき時刻を記入していた。
ある日その時計を社長がみつけて「これはなんだ」ということになり、私は主任と一緒に呼び出された。
私物のチープな腕時計が社長室のデスクの上にポツンと置いてあった。
「サイドテーブルに時計が必要ならそういえばいいのだ」と社長は言い、そのチープな時計を恭しく両手で差し出した。そして私の方を見ずに独り言のように吐き捨てた。
「育ちが悪いんだよ」
レストランに戻ると私は、時計を不燃物のごみ箱に捨て、辞職を申し出た。
じゃがいもをいくら磨いたところで、センスの悪さは補えないというのだろうか。私は決してお育ちが良いお嬢様ではないが、育ちが悪いと言われる筋合いはないのだ。
特に良くはないが、特に悪くもない。
生まれ育った環境や親の躾、学歴、趣味嗜好、身なり、所作、思考、行動、性格、仕事の姿勢、言葉遣い、食べてきたもの、読んできた本、友だち、財産、、、。育ちとはいったい何なのだ。
それ以来、その言葉は私の中で嫌いな言葉ランキング第一位となり、今でもその言葉を見聞きするたびに過剰反応する始末である。
3・2・1 Happy New Year!!
さぁ、誇りをもってデコボコのじゃがいもをピカピカに磨こうではないか。
奇しくも同一人物からの良い言葉と悪い言葉がワンセットになって負けん気の私の背中を押す。
磨いても磨いてもダイヤモンドにはならないのに、いつまでも磨いているじゃがいもを見て、人は笑うだろうか。笑わば笑え。
今できる事をいっしょうけんめいがんばる。それが今年の抱負。
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