すがゆき

公式には書けなかった結婚式のあれこれ「現場からは以上です」ほか日常茶飯事を2000字程…

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公式には書けなかった結婚式のあれこれ「現場からは以上です」ほか日常茶飯事を2000字程度で書き散らかします。嫌いな食べ物はあんこ。SNSとは連携していません。

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  • 現場からは以上です

    ウェディングプランナーは見た!本当にあった結婚式の話。(2000字)

  • 眠れない夜に

    枕元に置く本は短編集。眠る前のホットミルクのようなお話と音楽。(1000字)

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ジャスコのスーツ。

今の地に引っ越してきたのは娘が3才の頃だった。近所のジャスコに遊びに行くと、いつも立ち止まらず通り過ぎるテナントがあった。シュッとかっこいいデザインのビジネススーツや知的ブラウスが並んでいるお店。 3歳の娘と手を繋いで歩きながら思った。 「あ~きっと私はこんな服を着ることはこの先ないんだろうな」 たかがジャスコと笑うなかれ。1万円スーツでも着る機会がなければ買えないものだ。 それはTVに映るアイドルのかわいいフリフリ衣裳に憧れつつ「あ~こんなかわいい洋服を着る機会は一生無い

    • おふろのはなし。

      「お風呂を改装したい」と母が言った。確かに築50年の実家の水回りは限界に近い。しかし母はひとり暮らしの80歳、今さら改装なんて……お風呂かぁ…お風呂ねぇ… 憧れるのをやめましょう やると決めたらやる母である。シャワー付きユニットバスへの夢と憧れを膨らませ、近所の大工さんに見積りを出してもらい、実現に向けて動き出していた。年金暮らしのどこにそんなお金があるのかと言うと、大丈夫だと豪語した。 とはいえ放っておくわけにもいかず、私は改装祝いをポーンとはずんでみせた。ユニットバ

      • ところでプランナーさんはどんな結婚式したんですか?

        ウェディングの相談は、初めて会った人と約1~2時間、向かい合って話をするという、あまり普段の生活にはないようなシチュエーションだ。必要な情報は今のご時世、だいたいネットに書いてあるので、せっかくの対面の個別相談の機会にはなるべくホームページに書いてないようなことをお話しできればいいなと思う。 しかし、そうは言っても「そんなこと聞きたいかぃ?」と思う質問を帰り際にされることがある。 「ところでプランナーさんはどんな結婚式したんですか?」 この質問の主旨、目的はなんだろう。

        • できませんと言った日~3.11東日本大震災から13年

          今年も3月11日がやってきました。あの日からもう13年。 毎年同じことを言っている、そのこと自体ありがたいと思う日です。同じ明日が来るとは限らないという事を改めて自分に言い聞かせる日です。 * 今年は元日から北陸で大変な震災がありました。石川県能登を始め周辺の地域にお住いの、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早く故郷での日常生活が取り戻せますように、どうか希望を捨てずに前を向いて歩きだせるようお祈りしています。 * 今日は、『できないこと』と『やらな

        • 固定された記事

        ジャスコのスーツ。

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        • 現場からは以上です
          12本
        • 眠れない夜に
          5本

        記事

          だから、お雛様を飾る。

          子どもの頃、友だちの家には7段飾りのひな人形があった。 赤い毛氈の最上段にお内裏様とぼんぼり、次段に三人官女、五人囃子、『たのしいひなまつり』の歌に出てくるメンバーやアイテムが勢ぞろいだ。 絢爛豪華とは正にこのことだと釘付けになった。 私の人形 私の家にはひな人形が無かった。あるのはひな人形の絵が描いてある掛け軸。文字通り『絵に描いた餅』である。そしてガラスのケースに入った藤娘の日本人形がひとつ。これが私の人形だと母は言った。納得いかない。これはひな人形ではない。〇〇ちゃ

          だから、お雛様を飾る。

          ランダムの美学

          車を買う時、自分の好きなナンバーを指定することができるらしい。 走る車のナンバーを見て、この車の持ち主はどんな人なのか、と勝手に想像している。 誕生日や記念日をはじめ、 パチンコ好きか【777】 銀河鉄道?【999】 新婚夫婦の【1122】 ニコニコ家族【2525】わんわん肉好き【1129】 縁起を担いで【358】 佐藤さん【310】 後藤さん【510】etc. 夫の家族は皆、実家の電話番号の下4桁で統一していた。兄弟3人同じナンバーである。 しかし私はナンバーを指定し

          ランダムの美学

          にわか雨の車の中で

          その日はとても暑かった。放課後の部活中、急に窓の外が暗くなり稲妻と雷鳴がガラスを震わせた。 「うわっ!早く帰らなきゃ」 急いで帰り支度をし昇降口に向かうも、どしゃぶりの雨で足止め。最悪。 でもこの手の雨はすぐに止むだろう。私は空を見上げてただ待っていた。バケツをひっくり返したような雨と時折光る稲妻。軒先には夕暮れの気配が漂い始め、だんだん心細くなってきた。「なかなか止まないな…」 待ちきれず雨の中に飛び出しずぶぬれになって走る男子の無鉄砲さに呆れていると、同じクラスの友だ

          にわか雨の車の中で

          ダイバーシティナイトでマイノリティになった話。

          勉強会に行くと受付で虹色のロゴの缶バッジがもらえる。 数年前から、同性婚について勉強したいと地元の市民団体の集まりにちょこちょこ参加していた。同性カップルを取り巻く法律や条例、失礼にあたらない言葉遣いや考え方などの基本的なことから、当事者の生の声まで聞けたならと思ったからだ。LGBTQ+だけではなく、身体障がい者、子どもの貧困、教育の格差などテーマは様々だったが、どれも興味深く有意義な時間だった。参加する人の中には大学の教授や自治体の職員さん、地元の議員さん、企業の経営者さん

          ダイバーシティナイトでマイノリティになった話。

          無い!からのリカバリー②

          一瞬ないけど用意する話の続きです。 前回の話はこちら↓ 明日の席札がない/明日のグラスを割る/カメラマンが来ていない/料理を落とす ほか ケーキがない。 天井まで届くほどの白いウェディングケーキ。 あれは入刀の時に運ばれてくる今般の生ケーキとは全く違う。 高さ2~3mもあるアレは、シリコン製である。セッティングの際にバックヤードから会場内まで運ぶのだが、台車に乗せても入口のドアを通らないので、横にして入れなければならない。全花嫁の憧れ、夢のウェディングケーキを肩に担

          無い!からのリカバリー②

          答え合わせのシフォンケーキ

          「ね、産んでよかったでしょ」 私が差し入れたシフォンケーキを食べながら、母は自分の姉妹たちにそう言った。 遠くに引っ越した高齢の伯母が久しぶりに帰ってきたから集まっているというので会いに行ったその日は、ちょうど母の日だった。 「おばちゃん達みんなに育ててもらったからだよ。私にはお母さんがいっぱいいるね。」 父が亡くなったのは私が2歳半、妹が生後3か月の時だった。母方の親戚は皆、父親のいない私を何かにつけて助けてくれた。 たかがケーキ一つで、「産んでよかった」だなんて、

          答え合わせのシフォンケーキ

          水色のランドセル

          好きな色は水色。 そう娘が言ったのは4~5歳の頃だった。選ぶものが偶然にも水色だというよりは、はなから所望する”能動的水色ガチ勢”である。 ランドセルにカラフルな色が登場したのはちょうどこの頃(2000年頃)だった。いつものジャスコに行くと、24色のランドセルが並んでいた。 いろんな色があるねー! 入学には2年早い娘は「水色がいい!」と迷うことなく言った。 …だろうね。 どうせ気が変わるだろう。そう思っていたが娘の水色推しは一向に変わらなかった。入学前のオリエンテーシ

          水色のランドセル

          裁判に負けても。

          久能整くんはこう言っている。 結婚式をキャンセルしたい まだハタチそこそこのカップル。わが家の長男と同じ年なのに仕事をして結婚もするなんて、自立してて偉いな~。 とはいえ高額になる契約なので「おうちの方と相談してみてくださいね」と言って、急かさなかった。後日両親にも会って承諾してもらい、いざ結婚式の準備が始まった。 1ヶ月程経ったある日、 「結婚式をキャンセルしたい」と新郎から電話が。理由を尋ねると、「父の友人が○○式場に勤めていて…」云々。 もしや同業他社からの横

          裁判に負けても。

          フルーツが人生に必要だと思う理由

          ふるさと納税の返礼品が届いた。 高級ミカン、紅まどんなだ。 紅まどんなが届いたよ!とLINEをしてしまうほど、庶民にとっては高級なのだ。帰ってきた娘と早速カットして食べながら 「紅まどんなは高級だけどさ、果物ってそもそもぜいたく品なんだよね」と言ったがピンとこない様子。 果物はぜいたく品 「金欠で食費を節約しているときにフルーツ買える?」 あぁ~なるほどね、そうか。 いくらみかん好きでも買えないね。ごはん買うね。 お酒やタバコはまた違う話で、お金が無くても買ってしまう

          フルーツが人生に必要だと思う理由

          じゃがいもを磨く。

          今年の抱負らしきことを言ったり書いたりしなければいけない時のために、それらしい言葉を準備する大晦日。「今年もいっしょうけんめいがんばります!」では芸がないので何かいい言葉はないだろうか。 年越しそばを食べながら、その昔新人研修の際に社長が言った言葉がふと頭に浮かんだ。 * 私たちはダイヤモンドの原石なんかじゃない。 田舎のじゃがいもだ。 でもそのじゃがいもをピカピカに磨こうではないか。 * 当時、私はその言葉にえらく感銘を受け勇気が出てきたものだ。社長は採用した新入社員

          じゃがいもを磨く。

          ありふれた犬の話。

          ほんとうの名前を知らない。 いつどこで生まれたのか、どうしてそこにいたのかも知らない。 まだ子どもなのに怯えた暗い表情で保護施設のホームページに載っている写真を見て、その犬に会いに行こうと決めた。 というと聞こえはいいが、本当のところはもっと自己中心的な理由だった。 その犬と会う 大学生の娘に「地元で就職するなら犬を飼っていいよ」と冗談交じりで言っていた。私は娘に家にいてほしかったのだ。それに夫も私もコロナ禍で仕事がままならず暇を持て余していた。 近所のペットショップ

          ありふれた犬の話。

          一年で一番好きな日

          「カズオっていう友達が言ってたんだけど、一年の中で一番好きな日は冬至なんだって。変わってるよな。」 取るに足らないこぼれ話が、ふわっと漂い床に転がる。 一年で一番好きな日なんて子ども染みた問いと、それに続く冬至というワードのミスマッチ感。子どもならさしずめ誕生日とかクリスマスといったところだろう。だが好き嫌いは誰にも侵せないパーソナルな領域だ。幸い興味もないし放っておけば良い。突拍子もなくどうでもよいその無駄話は、つけっぱなしのTVの音と混じり合った。 「それでさ、なん

          一年で一番好きな日