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共鳴ネイル②~ネイルをやめた日~

私が社会人になったころには、ネイルは一般常識的にケバい・チャラいといったイメージがあり、ホテルや結婚式場のサービス業ではネイルどころかアクセサリー類も腕時計もNG、当時流行っていたソバージュパーマもダメ、ワンレンはおだんごにして耳を出せ!的なことが社則に書いてあった。

今も昔も接客サービス業は清潔感が第一であることは間違いない。そりゃ料理に髪の毛とか剥げたマニキュア片が入っていたら大変だもんね。

ネイル革命
しかし平成も10年を過ぎ、フリープランナーになった私がウェディングを仕掛けるべく行ったレストランは尖がっていた。そこで働くスタッフはネックレスやピアスを程々につけ、茶髪もネイルも程々にしていてみんな可愛かった。ケバくもチャラくもなくさらりとお洒落だ。

いやいやおばさん、そんなことくらいで大袈裟な、、、と言うなかれ。スターバックスがヘアカラーを解禁したのは一昨年(2021)、ネイルは未だにNGだ。(ジェルネイルは爪を守ってくれるのにね)

ネイルアートが市民権を得る場所がここにある!と思った。花嫁さんの必須アイテムとしてフォーマルな場面でネイルアートが浸透するよう働きかけたい。普段ネイルができないお仕事の人なら尚のこと、結婚式の時くらいは爪もおしゃれしたいではないか。

マニキュアに比べてお手入れも施術も簡単なジェルネイルが登場し、その人気は加速した。私は華やかなブライダルネイルを自ら施して接客し、SNSにアップしたり、成約特典としてプレゼントしていた。全花嫁の憧れ、ウェディングの必須アイテムに昇格したネイルアート。

その効果は単に見た目だけでなく、自信と勇気さえ与えてくれることを実感していた。

※ネイルと気分は共鳴する→ 共鳴ネイル①~幻の桜ネイル~はこちら


合わなすぎる
しかし、どんなデザインもしっくりこない日が突然やってきた。

コロナが流行しはじめた時、人の集まりや会食が厳しく制限されて、ウェディングはことごとく延期や中止になった。

泣く泣く3日前に中止せざるを得ない状況に陥った新婦さんは、看護師さんだった。勤務先の病院がある地域にはじめてコロナ感染者が出た瞬間に、院内の雰囲気はガラッと変わったという。地域の人たちも大騒ぎになっていて、SNSでは一晩のうちに感染者が特定され個人情報の流出、家族や職場まで誹謗中傷の的になっていた。田舎特有のおぞましい現象だ。

私はウェディングプランナーの立場にありながら、こう言った。
「中止したほうが良いのではないでしょうか」
それはパーティーの主旨が「お世話になった職場のみなさんに感謝を伝えるため」だったからだ。職場とは病院である。コロナ禍にパーティーを決行したことが知れ渡れば、恩人の院長先生の顔に泥を塗ることにもなりかねない。

そのウェディングパーティーを中止してから、私はネイルをやめた。
ネイルサロンに行って「オフだけしてください、しばらくネイルはしません」と言ったら、ネイリストさんはこう言った。

「ネイルは人を元気にするって言ってくれて、私たちとても嬉しかったんです。爪がキラキラだと気分も上がるって言ってたじゃないですか。」

でも、、花嫁さんや医療関係の人たちが今、結婚式もネイルもできないの。
自分だけキラキラネイルはKYだし、不衛生に見えるかもしれない。
なにより合わなすぎるんだ、今の私の「気分」に。

共鳴しすぎは体に毒。
人を知るためには、もしも自分だったらと考える事。
共感ではなく共鳴するという事。
最初に勤めた結婚式場には【お客様の喜びが私の喜びです】という額がデカデカと掲げられていた。

サービス業は「感情労働」などと揶揄される。
笑顔を作るのではなく心から笑わなければ見抜かれる。
そんなことをしていたら体がもたないよと言われていたが、私はそれをやり続けた。
コロナの際にも鈍感に「頑張って結婚式しましょう!」と言った方がよかったのかもしれないが、新郎新婦さんの不安な気持ちや世間の変な風潮にも共鳴してしまった。イライラや怒り、悲しみなどのネガティブな感情にも自動的に共鳴してしまっていた。

私は普段、幸せなお客様相手なので共鳴も良いが、看護師さんが患者さんにいちいち共鳴していたら自分まで病気になりそうだ。感情労働にもなにか策があるのかもしれないと思った。

その看護師の花嫁さんは、えらく元気をなくしている私に、きれいな花火の映像を送ってくれたのだ。自分の結婚式が中止になってしまったにも拘わらず逆にプランナーを励ますという、そこは看護師の彼女のほうが一枚も二枚も上手だった。

ネイルでもするか。
ネイル革命当時、小学生だった娘は、私がネイルをしてくると
「ママ見せて!見せて!」と言ってきた。

うわ~きれい!
実際ブライダルに寄せた凝ったアートをしていたので、3Dやスカルプチュア、宝石みたいな飾りがついたネイルは娘にとって憧れに違いなかった。

娘は就職してからいつも程々のネイルアートをしている。営業職だがちょっとならOKらしい。
ネイルをしてくると「ママ見て!見て!」と見せてくる。ブライダルネイルアートには程遠いシンプルなものだが「きれいだね!」と褒めると嬉しそうだ。

今ではネイルサロンは町中に何軒もあり、特別な日でなくても気軽に行けるようになった。しかし私は3年前のコロナ騒動以来、ネイルを一切していない。


気合入りまくりのデコるネイルは最近流行らないことだし、
道草の途中で草花を摘むように、
ちょっとワンカラーでもしてこようかな。

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