見出し画像

共鳴ネイル①~幻の桜ネイル編~

私がネイルをしはじめたのは、息子が大学を卒業する間際。
あーやっと仕送りやら学費から解放される、子どもが経済的にも自立し社会人になるという嬉しさから、ネイルサロンに行って桜のデザインのジェルネイルをした3月。今までよく頑張った!自分へのご褒美だ。毎日自分の爪を眺めては悦に入っていた。

しかし、そのわずか1週間後に、義父が交通事故で亡くなってしまった。急なことで、その派手な爪のまま夫の実家に行き訪問客にお茶出しなどをしていたが、さすがに嫁が葬式でキラキラネイルはマズイのでネイルサロンに無理を言ってその日の夜にオフしてもらった。勿体ないが仕方がない。お葬式が終わったらまた来るね!

はなから違ってた桜ネイル
お葬式なので大学生の息子も呼び寄せた。明日は通夜だ。
すると息子のスマホが鳴り、困ったような様子で話をしていたので、どうしたの?と聞くと「アパート明日までに引っ越さないといけない」という。

え? 明日? えーーー!!
そのアパートは大学卒業までの4年契約であることは息子も承知のはずである。3月なのにまだ次のアパートを決めていなかったのか。
そこで私ははじめて、息子が引越しどころか卒業もできないということを知ったのである。もちろん就職も決まっていない。どうりで卒業式いつなの?と聞いても「親なんて来なくていいんだ」と教えてくれなかったわけだ。はなから桜ネイルのタイミングではなかった。

「ごめん、言い出せなくて、、」と言う息子に怒り心頭だったが、とりあえず引越しをせねばならない。おそらく4月から新入学生が入ることになっているのだろう。夕方だったが夫は即座にレンタカーのトラックを借り、息子と二人で片道200㎞先のアパートまで出かけて行った。喪主なので本来席を外すわけにもいかないのだが仕方がない。

息子一人にやらせる、もしくは引越し業者に頼むという事をせず、夫は何故に引越しに出かけたのか。後で聞くと、息子が落ち込んでいて万が一のことがあっては大変だと心配になったとのことだった。夫は葬儀の仕事をしているため葬儀のダンドリなら余裕だが、これまで仕事を通して様々な人間模様を見てきているため、息子のヤバい雰囲気から何かを察したのだろう。

一晩で引越しをして、義父の通夜とお葬式が済み、
さて息子よ。
わが家にはもう学費の予算はないぞ、という言葉をやっと飲み込み事情を聞くと、単位はあと少しなのだが最近は学校にもバイトにも行っていない、やるべきことはわかっていても身体が動かないという引きこもり状態だったことがわかった。

それからは新しくアパートを借りずに息子を家で見守ることにした。時々高速バスで学校に行くというスタイルをとり、なんとか卒業証書を手にした。卒業できたという事で自信になる、そのことが何より大事だと考え、就活はしなかった。


ネイル、リベンジ
息子のことはショックで反省しきりだったが、せっかく大満足だった桜ネイルを1週間でオフしなければならなかったことも残念で、息子の元気を取り戻すため自分も元気でいなければ!という重要な責務もあり、お葬式の後またネイルサロンに行った。

今度は桜ではなく違うデザインにしてもらいながら、気心知れたネイリストさんに散々お葬式と息子の留年と夜逃げのような引越しの話をぶちまけた。うん、今回のネイルも素敵だ。

人は落ち込んで元気がない時や、暇な会議中などには首をうなだれ下を向く。そして下を向いた目線の先には自分の手がある。

かの石川啄木も言っているではないか。
働けど働けど……と悲観し「じっと手を見る」その時ガサガサに荒れた手では悲しさ倍増だが、爪がキラキラ綺麗だと元気回復にとても効果がある。最近では老人介護の現場でも「福祉ネイル」というものがあるくらい、その効果は実証済みだ。
自分で自分の顔は見えないが手は見える。しかも歳を重ねると化粧をしてもヘアカットしても大して変わり映えしないが、爪だけは誰がしてももれなくキレイに変身するのだ。

ネイルと気分は共鳴する
それから毎月1回ネイルサロンに行き、いろいろなデザインや色にしてもらったが、実感としてネイルと気分とは本当に関係が深い。

自分からオーダーして流行の素敵なデザインにしてもらっても、爪だけが浮いてしっくりこない事もある。ブルべ・イエベなど肌との相性という表面的なこと以外に、なんか自分に合わないのだ。そうなると落ち着かない。美容やファッション全般に言えると思うが、気分を無理にあげようとして極端に派手な服を着るのは逆効果なのだ。

音楽でも同じで、ガヤガヤしている店内に流れるBGMのボリュームは、騒音デシベルと同じかそれ以下、聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームにする。そうするとガヤガヤがそんなに気にならなくなる。また、落ち込んでいるときには静かな音楽を聴く方が良い。元気を出そうとアゲアゲの曲を聴くよりも気持ちが和らぐ。これらは「マスキング効果」というものだ。


かくして私はネイルにハマり、その時々のテンションに合ったネイルを毎月1回施していたのだが、とうとう、どんなデザインもしっくりこない日がやってきた。


②につづく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?