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古賀史健さん『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』の感想|確かにこれで充分!

「書く人の教科書」と銘打たれた本。

参考書ではなく、敢えて「教科書」と断言してしまうところに強気な姿勢が感じられ、最初は正直あまり良い印象を持っていなかった。

……が、斜に構えた捉え方はキレイに裏切られて。

ガイダンス("はじめに" 的な文章)が終わったところで、既にこの本の虜になっていた。


1番共感したのが、ここ。

取材したこと、調べたことをそのままに書くのがライターなのか?
違う。ぜったいに違う。

『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』より

降り積もっていた違和感を勝手に代弁してくれていた。

とにかく学びが多かったので、記録を取っておこう。


有象無象のライターがひしめく世界で

ここ数年間、
「ライター」
という言葉の使われ方
にずっと疑問を抱いてきた。

  • ライターになりたいと叫ぶ大量の人たち

  • ライターと名乗る大勢の方が書く文章

  • 編集者たちから聞いた色々な事情

……を見聞きする中で。

ライターは、名乗れば誰でもなれる職業だ。特に最近は、紙媒体ではなくウェブ上ならいくらでも書く場はある。

誰かの文や借り物の言葉をツギハギして世に出してしまう人も、実はたくさんいる。

「ライター」と名乗る人に、自分の記事を半分以上コピペされたことだってある。私が確実に読む文章と分かっていて堂々となされた剽窃に、今でもまだ信じられない。

何の資格もいらないし、
「日本語を日常的に使っている人なら誰でもできそう」
と思われているのだろう。

ほとんど在宅でできる仕事内容であることも、ハードルを下げている。

そんな事情もあってか、コンテンツ(主にウェブ)の質はどんどん下がっている気がする。チラ見にすら値しない内容の文章も溢れている。


……と考えていたのだが、しょせん初心者の思い上がりだったのかもしれない。読み進めるうちに、グサグサ刺されて痛いほどの事態に。


ライターのこと、全然わかってなかったかも

ここまで "書くこと" を分割して360度の視点から検証している内容を、私は他に知らない。

ジャンルよりもスタイルの確立を

コラムとエッセイの違いも、我流でなんとなく捉えていただけだった。

自分の外にある時事ネタに首を突っ込み、あれこれ「おれの掌論」を展開するコラムニストは、どこか意地悪に見えたり、皮肉屋に見えたりする。そしてそれが「論」であるかぎり、主観だけで語ることはせず、客観の事実を交えながら、論証するように対象を読み解いていく。一定の知性が必要だし、「あたらしい視点」の提供が欠かせない。
(中略)
それに対して、巻き込まれ型のエッセイストは違う。語り手の「わたし」は、なるべく平穏無事に暮らしたいと願っているのに、なぜかいつも事件や騒動に巻き込まれる。

「自分の書く文は、どうしてもエッセイにならない」
と常日頃思っていたが、視点や生き方がそもそも違っていたようだ。

平穏無事に暮らしたいと願ったことは過去に1度もないし、論文のように読み解く形式の話をつい書いてしまいがち。

執筆したことがあるのはコラムとインタビューくらいで対談は無し、という事実にも圧倒的場数不足を感じた。


「いつもの話」のおそろしさ

しかし、その盛り上がりはまったくの誤解だ。取材者としてのあなたに不安を感じ、その技量に不安を感じたからこそ、相手は「いつもの話」をはじめている。何度も実証済みの「すべらない話」で、凡記事になるリスクを回避している。あなたのことを信用していないからこそ、相手は饒舌になり、サービス精神を発揮してくれたのだ。

……愕然とした。

実は最近「なんか違和感のある雰囲気の取材」があったのだが、もしかしたらこれと似た現象だったのかもしれない。

もっと深掘りしたいと思ったのに、なんだか違う方向の話になる。
相手の得意分野の話から1ミリもズレていかない。

いつも取材陣に話していることを再度語っただけだったとしたら、不本意すぎる結果だ。

そしてその可能性をなんとなく感じ取っていながら何もできなかった自分にも、腹が立った。


バスの行き先を提示せよ

ストーリーテリングにあたっては、物語のなるべく早い段階で「作品のジャンルとゴール地点」を示したほうがいい。
(中略)
三田先生はそれを「バスの行き先理論」ということばで説明してくれた。
(中略)
もしも行き先が表示されていない正体不明のバスに押し込まれたら、その道中は不安だらけだろう。

いやー、なるほど分かりやすい。

よく
「導入文で記事全体のゴールを示そう」
と言われるが、そういうことか……

確かに自分も、本の「はじめに」を読んでピンと来なかったらパラパラめくって終わりにすることがある。

三田先生とは『ドラゴン桜』の漫画家、三田紀房さんのこと。(『ドラゴン桜』はドラマだけでなく原作漫画が超面白いからオススメ!)


完全同意の2か所

「ホントホント、著者にそのまんま賛同する!」
という部分は、このあたり。

読者としての自分を鍛えよう

及第点以上の原稿を書けず、伸び悩んでいるライター。
ぼくに言わせると彼らは、等しく技術以前のところでつまずいている。
ひと言で言って、「読者としての自分」が甘すぎるのだ。
(中略)
あなたの原稿がつまらないとしたら、それは「書き手としてのあなた」が悪いのではなく、「読者としてのあなた」が甘いのだ。

他者のライティングを編集する必要がある場面で、
「なぜこの状態で出せるんだろう?」
と思ったことが何度もある。

腑に落ちないままに作業していたが……そうか、これだ。

「そもそもテクニックではない部分で、全っ然面白くないんだけど……一体どこから突っ込めばいいんだ? 単純に "ここを直せばいい" というレベルではない」
と感じていた部分を可視化してくれている。


私は「読者としての自分」には自信がある。

つまらないものは容赦なく「つまんない!」と言いたい。

「いいね」
「勉強になった」
くらいなら義理のある相手にはつい言ってしまうかもしれないが、
「面白かった!」
はお世辞では絶対使いたくない
言葉である。

そのくらい、面白さにはこだわっているつもりだ。

だって、そうじゃないと人生つまらなくないか?
……私は嫌だよ、そんな生き方。


多読よりも大切な乱読

読む本の多さに驚かれることは多い。
だが私をよく知る人が驚くのは、本の量ではなく本の内容の多様さだ。

ここも自分ではまったく言語化できていなかったが、気になったら片っ端から読んでいく乱読スタイルが「書くこと」に与える影響は大きい。

ここ2週間ほどで読んだ本のタイトルを挙げてみると、こんな感じ。
(一部除く)

  • 『平安女子はみんな必死で恋してた』

  • 『地球に住めなくなる日』

  • 『ドラえもんの理科おもしろ攻略 天体がわかる』

  • 『夢中さ、きみに。』(漫画)

  • 『ラーメンWalker埼玉2023』

  • 『大ピンチ!解決クラブ(3)心の育て方』

  • 『世界のすごい建築物図鑑』

  • 『世界の料理図鑑』

  • 『医学的ライフハック』

  • 『かがみの孤城』(漫画)

  • 『生きてるうちに推してくれ』(漫画)

  • 『人生100年時代 不安ゼロで生きる技術』

ジャンルもテーマも一貫性がなく、めちゃくちゃである。

常日頃から、人にオススメされたりSNS・広告などで気になったりした本を読み続けていたら、こうなっただけ。

軽い気持ちで普段から本を読んでいくことは、非常に重要だと思う。


あなたは、私は、なぜライターに?

私、なんでライターになったんだろう。

作家は「無理」と小1で諦めていたのに、なぜ今ライター業をやっているんだろう。

あなたはなんとなく、これといった根拠もなしに、「自分にもできそう」と思ったのだ。
(中略)
あなたはすでに、不遜すぎるほどの自信を持っている。まったく図々しく、見当違いの地震ではあるが、それこそがもっとも大切な、最後の拠りどころなのである。

ここには少々びっくりした。と同時に
「そうかもしれない……」
と、大した根拠もなく思った。

でも、これはある意味、何にでも言えることかもしれない。

まったく自信がなくて
「うーん、逆立ちしても達成できない所業だ」
と感じる行動を、人は始めようと思わないからだ。

タスク管理においても "できそうと思えないと行動を始められない現象" は、多くの人に共通の「あるある」だ。


ライターの自分に誇りを持ちたいから

作家は、自分ひとりで「わたしから読者へ」の手紙を書く人間だ。
一方のライターは、「わたしから読者へ」の手紙を書くことができない。からっぽで、言いたいことも、訴えたいことも持たないからだ。
(中略)
肝に銘じてほしい。ライターは、作家に満たない書き手の総称などでは、まったくない。「わたし」を主語とせず、「わたしたち」を主語に生きようとする書き手の総称が、すなわちライターなのだ。

最後に近い文章なので少々ネタバレになってしまうが、この箇所には心が震えた。

ライター足りえない人たちがいることがライターの価値を下げていると考えていたが、実は自分の心持ちの問題だったのかもしれない。

つまり
「ライターなんて、作家にも編集者にもなれない人間が言葉を使ってお金を稼いでいるなんて、誇れる仕事ではない」
という気持ちが根底にあったのかも……ということだ。

私は多分、専業のライターにはならない気がする。
でも今後も「書くこと」を通じて仕事をしていこうと考えているので、矜を正したい。


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