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社会にとっての栄養に、善悪はない。 『ソーシャルメディアの生態系』まとめ(2)

まとめ2では、前回の最後に示した、「生物の7つの特徴」をソーシャルメディアに当てはめながら、社会の生態系を探っていきます。

まず1つ目、細胞による構造。

わたしたち一人一人が社会という生物を織りなす細胞だと想定しましょう。

わたしたちは、いつも自由な意思を持って暮らしていると考えがちです。
それは正しいとも言えますが、例えば2020年の東京都という時空間で暮らしているのと、2050年のアラスカという時空間で暮らしているのでは、行動や考え方は全く異なるでしょう。

もっと身近な例で言えば、同じ日本人でも、所属しているグループ(それは住所だったり、趣味だったり、職種だったりするかもしれません)によって、価値観は大きく異なります。このグループをホロンと言います。
二つの対立するグループを実は内包するもっと大きなグループ(時代だったり国家だったりするでしょう)も、またホロンです。

友達や、社会のルールや、時代が変わると、人もまた変わる。
人が変われば、時代も社会のルールも変わっていく。
鶏と卵な関係です。

さて、わたしたち細胞の動きは、代謝機能としても理解できそうです。
細胞は、栄養を吸収し、老廃物を排出します。
私たちは感情によって動かされ、ミームを共有したり、パロディや話題を作って再形成・処理をしたりします。
社会が栄養として認識しなかったものは、共有が進まず、老廃物として排出されてしまうという話なのですが、
「本当に聴衆を得られなかったミーム」はただ排斥されて終わりなのか?
というと、私は違うと思っています。

小さな共有しか生まれず、消えていったミーム(情報)だとしても、その記憶は蓄積し、あるいは細かく分解されてから伝達され、あるとき、大きく共有されるミームを生み出す基礎となることがある。

アートや哲学、あらゆる学問や研究のことを考えれば、こういうことが往々にしてあることがわかると思います。

ホメオスタシスとは、恒常性とも訳される。
人間で言えば、体温や血圧、体液の浸透圧などが、一定の水準を保てるようにする機能だ。これがないと、まあ死にます。()
自律神経やホルモンバランスは、この恒常性を保つための情報伝達を担ったりしている。
もし、この情報伝達を制限してしまったら、途端に体調を崩す。
社会に当てはめれば、情報の行き来を制限した途端に、ミームは共有拡散されにくくなり、社会が栄養として認識する度合いも低くなる。

生物学の門外漢であるため、軽はずみな判断を許してもらいたいが、私的には、これは免疫反応と解釈をすればいいと思う。
社会は栄養ばかりに反応するわけではなく、外敵にも反応し、バズを起こす。自分の免疫力を高め、抗体を作ろうと、情報の共有と拡散が行われる。

本からは少し逸れるが、個人的に面白いなと思うのは、免疫系は自己と非自己とを完全に区別することはできないという点だ。
過剰な免疫反応は、本来外敵ではないもの、最悪の場合、生体自身までも外敵とみなし攻撃してしまう。
これらの結果としてアレルギー性疾患や自己免疫疾患を発症してしまうことがある。社会が自分自身を攻撃し、崩壊させるような現象である。

革命や、大きな社会システムへのハック・価値転覆といったことが起きるのは、こうした疾患として解釈することも可能ではないだろうか。
これは、アートやイノベーションといった文脈へ接続するきっかけとなるお話かもしれない。

さて、免疫の例え話は、繁殖や進化について語ることもできそうだ。
ある環境の変化や、疾患、あるいは病原菌に抵抗/順応するために、これまでにない全く新しいミームが生まれた時、当然生体の内部で、それに反発する免疫が生まれる。
新しいアイデアと、それに反発するアイデアは、生体内部で戦いを繰り広げ、その戦いが、生体をいずれかの勝利 OR どちらでもない第3の道へ進化させていく。
いずれにしても、環境や疾患に耐えうる形でアップデートされ、遺伝子にミームが埋め込まれ、進化していく。
社会の流れが加速し続ける時代に、この進化もまた加速を続けているのかもしれない、というよりむしろ、変化が加速するほど、相容れないアイデアが乱立・分裂の度合いを増し、進化の決着がつく前に新たなアイデアの火種が生まれる。
今は、そんな時代かもしれない。

(つづく)

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