そんとくさんとあっけらかん(損得さんと呆気羅漢)pt.2

損哉さんは時々お寺にやって来て、菩薩さんと本堂の縁側でお茶を飲みます。
お父さんたち二人も幼なじみなのです。
庭を見ながら損哉さんは「ここに種蒔いて野菜作ったら、ぎょうさん採れるやろな」といいます。
菩薩さんは「そーやな」とにこにこします。
「ほんま、もったいないなー」腕を組んで庭を眺めます。
菩薩さんも庭を眺めます。

菩薩さんは知っているのです。
損哉さんのお父さんが亡くなった時、お母さんが亡くなった時 妹がお嫁に行ってしまう時。
この縁側に座って、庭の桜の樹をずっとずっと永いこと見ていたのを・・・。

春には桜、夏は盆踊り、秋には太鼓叩いてお祭りを、冬には餅つき、除夜の鐘。街の人たちが楽しみに、あるいはいっ時生活を忘れ、魂を取り戻す大切な空間、時間のあることを…。

また、損哉さんがつぶやきました「もったいないな~」
一面の大根・オクラ・ピーマン・カボチャ…。
いく種もの野菜の花たちが、次から次へと咲き続きます。

菩薩さんの頭には、お花見、踊り、秋祭り…
寄って騒いで楽しんで…そして時にはふらふらと
行き場を見失った悲しみや淋しさに、
”さよなら”することの出来るよう…
そんなぽかんと空いた空間が天と地を繋いでいるのだと
空を見上げ深呼吸するのです。

それは損哉さんと菩薩さんのお父さんたちが植え、
水をやり、寒さから守り、損哉さんと菩薩さんも手伝って、
大切に育てた桜の樹なのでした。

今は空高く天に向かい、どでんとでっかく根を張って、
風に吹かれているのでした。


{続く}


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