目から血が出るほど試行錯誤すんだよ

◆シティボーイズのコントが好きだ。すべてのお笑い好きを自称している人たちは、全員が彼らのコントを観るべきだと思っている。いや、もっといってしまうと、彼らのコントを観ずに芸人のネタを語ることなんてするべきではないとすら考えている。「お笑いが好きなのに、どうしてシティボーイズのコントを観ないの?」と問いただしたいほどである。◆だが、この気持ちをそのままに、シティボーイズのコントを観たことがない人たちにぶつけたところで、何の意味もない。その高圧的な私の態度を見て、シティボーイズのコントに対して興味を持たれるよりも前に、「こんなヤツの薦めてくるコントなんか見るものか」と反感を抱かれるだろうことが目に見えているからだ。これでは、いかにシティボーイズのコントが素晴らしかったとしても、何の意味もない。◆そこで、シティボーイズのコントを観たことがない人に、どのようにして薦めるべきかを考えるようになる。◆例えば、シティボーイズのコントに影響を受けている芸人たちの名前を挙げてみる。「あのラーメンズが、あのバナナマンが、シティボーイズのコントから影響を受けているのだよ!」と説明してみる。ここで僅かに興味を抱く人が現れるかもしれない。だが、果たして、実際に鑑賞してみようというところまで持ち込めるかというと、難しいように思う。ラーメンズやバナナマンがシティボーイズから影響を受けているのは事実だが、それは単なる情報でしかないからだ。「ラーメンズやバナナマンの根源を知りたい!」と思っているような、探求心旺盛な人じゃなければ反応してくれないだろう。◆シティボーイズのライブにゲスト出演している人たちの名前を挙げても、さして状況は変わらないだろう。「いとうせいこうが出てるんだよ」「中村ゆうじが出てるんだよ」「過去にはチョップリンやザ・ギース、ラバーガールにムロツヨシがゲストとして出演しているんだよ」と伝えたところで、それもやはり単なる周辺情報でしかない。◆ここで「原子力発電をネタにしたコントがあるんだよ」と切り出してみる。「総理大臣がドラッグに手を出しているコントがあるんだよ」とも伝えてみる。シティボーイズのコントそのものの面白さに興味を抱いてもらうために、インパクトの強いネタを敢えて前面に押し出そうという方法である。これならば興味を持つ人も少なくないだろう。「どんなコントなんだ?」と、その詳細を知りたいと思う人も出てくるかもしれない。でも、これがシティボーイズのコントの本質かと聞かれると、ちょっと違うような気もしている。彼らのコントを知ってもらいたいという目的を果たすために、自分の中では彼らの本質ではないと思うような情報を広めようとして、本当に良いのだろうか。◆では、シティボーイズの本質だと思っている部分について、説明してみる。「シティボーイズのコントは、ボケ役とツッコミ役が明確じゃないのよね。それぞれが「そういう人」を演じていて、その言動が、結果としてボケみたいになっていたりツッコミみたいになっていたりする。だからコントがパッケージされたものというより、続いていく日常の一ページって感じがするんだよね。コントが終わった後にも、その人たちが生きているような感覚に陥るんだよね。僕はシティボーイズのコントのそういうところが本当に好きだし、まだ誰も真似していないところだと思うんだよ」。◆この説明を受けて、シティボーイズのコントに関心を持ってくれる人が、どれほどいるのだろうか。もはや私には分からない。◆この辺の試行錯誤を重ねた結果、今の私はなるべく余計なことには触れずに感想だけを記したブログ記事を書くことが多くなった。特定のテーマにおいて、どんなに自分の主張を押し付けたところで、そのテーマに最初から一定の関心を持っていない人には届かない。無理に届けようとしたら、かえってテーマに対して悪いイメージを抱かれるかもしれない。だから、無理に押し付けるようなことはせず、ただ感想をそっと書き残す。そうすれば、これから先の未来において、これまでテーマに対して関心を持っていなかった人が心変わりをしたときに、その参考にしてくれるかもしれない。その日が来るのをじっと待つことにしたのである。……もっとも、これが正解なのかどうかは、未だに分からない。もっと注目されるためのアプローチはあるのかもしれない。でも、それを他人から薦められても、自分がやるとは思えない。私もまた、そういったことに興味を持たなければ、それについて考えようとしない人間であるからだ。◆ところで、本文を読んでみて、皆さんはシティボーイズのコントに興味を持つことが出来ましたか?もし持つようなことがあったなら、毒とナンセンスが絶妙なバランスで混在している『そこで黄金のキッス』がオススメです。もちろん、無理強いはしませんが……。◆

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