モウリス

主に映像作品をメインに、気の向くままに書いていく予定。

モウリス

主に映像作品をメインに、気の向くままに書いていく予定。

最近の記事

『ゴジラ-1.0』の〈人間ドラマ問題〉について

公開されてから1週間。ネット上ではとりあえず賛否が8:2くらいな感じでしょうか。でも、賛の人でも「人間ドラマ部分が…」という意見がけっこう散見されます。右はゴジラ泣き大絶賛から、左はそれこそ「やっぱり山崎貴ムリ」という身も蓋もない酷評まで、だいたいの反応が出揃った感じなので、それらを俯瞰しつつ、私なりの解剖をしてみたいと思います。 【怪獣映画と人間ドラマ問題】 まず、賛否で最も論点となっている人間ドラマ部分について考えてみましょう。 マイナスワンの人間ドラマ部分については、

    • 『犬神家の一族』のトリックは〈オートマチック殺人〉

      今さらこんな質問をするのはナンですが、横溝正史の『犬神家の一族』って何の話か説明出来ますか? 財産相続争いの連続殺人? それはまあ、そうでしょう。 でも、それだけじゃありません。 詳しくは、遠藤正敬著「犬神家の戸籍―「血」と「家」の近代日本」がとても面白いのでお読みいただければと思うのですが、要は『犬神家』の物語は、旧民法から新民法への移行期に起きた事件であり、法律上での〈家制度〉が解体されることが背景となっています。 旧民法における財産相続は〈家督相続〉であり、相続を受

      • 『THE DAYS』は日本製ドラマに転機を生むか?

        Netflixで世界5位を獲得した『THE DAYS』。 私がこの作品を傑作と思う理由はいろいろあるのですが、大きな点は二つあります。 まず第一に、原発事故の処理に従事した人たちを英雄として描いていないこと。そして原発事故はまだ収束しておらず、現在進行形であることを強く打ち出していること。 同じ原作をもとに制作された『FUKUSHIMA50』は、突発的な大事故に立ち向かった原発職員たちの英雄的美談でしたが、正直、大きく失望しました。その失望の理由が、『THE DAYS』を観

        • 追悼・森村誠一/初めて知った大人の世界

          ぼくが森村誠一の推理小説に出会ったのは、小学6年生のときでした。そう、世は角川ブームの真っ最中であり、まずは横溝正史の世界に誘われました。毎週土曜夜、『横溝正史シリーズ』を食い入るように観ていましたが、そこから半年後にスタートした『森村誠一シリーズ』に自動的に流れていくのは、極めて自然な流れでした。 シリーズ第一弾は、日本推理作家協会賞受賞作『腐蝕の構造』。原作を読んで第一話を待機しました。権力、謀略、愛憎。小学生には衝撃的な、ろくでもない大人たちが容赦ない生存バトルを繰り

        『ゴジラ-1.0』の〈人間ドラマ問題〉について

          映画『東京2020オリンピック』レビュー ①河瀬直美が〈記録〉したオリンピック

          映画『東京2020オリンピック』ほど、公開前から強烈なバイアスが掛けられた作品も珍しいでしょう。 そもそもオリンピック自体がコロナ禍による延期、無観客という前例のない形での開催となり、五輪反対の声もそれなりに上がっていました。それに加えて、本作を扱ったテレビ番組や監督に関する報道などによってマイナスイメージが拡大し、さらに公開後の不入りが追い打ちを掛け、映画自体の印象が、かなりネガティブ寄りに偏ってしまったように思います。 しかし、映画は映画です。 完成したら観客のもとへと旅

          映画『東京2020オリンピック』レビュー ①河瀬直美が〈記録〉したオリンピック

          伊丹十三映画4Kを観る⑨ 『マルタイの女』はコメディなのか?

          マルタイとは警護対象者の略称です。 つまり今回の〈女〉は、これまでの問題解決型の女性ヒーローではなく、警護を受ける側です。ということは、情報映画としての主軸は、立花(西村雅彦)と近松(村田雄浩)にあることになります。でも、この映画の主人公は、あくまでビワコ(宮本信子)です。『マルタイの女』ですから。 まずそこに、これまでの〈女シリーズ〉との違いがあるとともに、この映画がもう一つ弾けなかった理由のひとつがあるように思います。 つまり、「これは何をテーマにした映画なのか?」という

          伊丹十三映画4Kを観る⑨ 『マルタイの女』はコメディなのか?

          伊丹十三映画4Kを観る⑧ 『スーパーの女』〜女性上位のソフィスティケイテッド・コメディ〜

          伊丹映画最大の方向転換を図った『静かな生活』は、あろうことか『ミンボーの女』の10分の1という興行収入となりました。順番からすると次は『静かな生活』なのですが、ぼくの手に余る作品であるため、申し訳ありませんが、今回はパスさせていただきます。 ということで『スーパーの女』。 案の定というか、やはり〈女シリーズ〉は15億を叩き出しました。 ただし今回は、ヤンキー・ヤクザ嗜好層を呼び寄せた感のある『ミンボーの女』とは客層が入れ替わりました。伊丹監督はインタビューで、「主婦層がター

          伊丹十三映画4Kを観る⑧ 『スーパーの女』〜女性上位のソフィスティケイテッド・コメディ〜

          伊丹十三映画4Kを観る⑦ 『大病人』はなぜ不入りだったのか?

          第8作目にして、伊丹監督はふたたびシビアな現実にぶち当たります。興行収入の自己最高を記録した前作の半分にも到達しませんでした。それが『大病人』です。 グルメ、税金、バブル期の土地問題、暴対法と、時代のテーマを切り取ってきた伊丹監督は、終末医療の問題に注目しました。 当時、医療技術の発達により、延命治療が盛んに行われるようになっていましたが、患者本人の意思に関わらず、生命活動を技術的に維持していく医療に疑問の声が広がり、安楽死・尊厳死などの議論も活発になっていました。(日本に

          伊丹十三映画4Kを観る⑦ 『大病人』はなぜ不入りだったのか?

          伊丹十三映画4Kを観る⑥ 『ミンボーの女』〜ウェルメイドに到達した伊丹流エンターテイメント〜

          デビュー作『お葬式』で12億の興行収入を叩き出した伊丹映画でしたが、さらなる意欲作として投じた『タンポポ』が約半分という結果に。『マルサの女』『マルサの女2』の連投で12億台の安定飛行を取り戻しましたが、続く『あげまん』では10億という微妙な結果となりました。 そのときの伊丹監督の思案を推理してみます。 当面の伊丹映画の興収の上限が12億くらいにあることがデータ的に分った。ということは、それを下回ることは、下降線を辿る不安を呼び起こす。次回作では、何としても12億のラインに戻

          伊丹十三映画4Kを観る⑥ 『ミンボーの女』〜ウェルメイドに到達した伊丹流エンターテイメント〜

          伊丹十三映画4Kを観る⑤ 『マルサの女2』〜繊細と大胆の意欲作〜

          『マルサの女2』は、伊丹映画のラインナップで唯一の続編です。①のテキストで「『あげまん』はマルサ3ではないか?」と推論しましたが、仮にそういう側面があったとしても、設定が全く違うので続編とは言えません。〈女シリーズ〉というフレームで見ても、『ミンボーの女』などは、井上まひるの雰囲気や大地康雄とのコンビなどが酷似していますが、いわゆる続編ではありません。全く同じ設定の真性続編は『マルサの女2』だけです。 続編は、主人公の設定や世界観があらかた決まっているわけですから、監督の構

          伊丹十三映画4Kを観る⑤ 『マルサの女2』〜繊細と大胆の意欲作〜

          伊丹十三映画4Kを観る④ 『マルサの女』〜伊丹映画の系譜と韓国ドラマ〜

          伊丹映画の中でいちばん語られてきたのは、おそらく『マルサの女』でしょう。他でも語られているようなことをわざわざ書いても仕方ないので、ここでは、ぼくの私的な視点全開で語っていこうと思います。 『マルサの女』は、伊丹映画のスタイルが確立した作品と評されることが多いのではないかと思います。そしてそのスタイルは、伊丹映画独特のものであり、大手映画会社が製作・配給する他の映画とは異質のものである、と。実際、その後の日本映画を俯瞰してみても、伊丹映画直系の映画と言えるような作品は見当た

          伊丹十三映画4Kを観る④ 『マルサの女』〜伊丹映画の系譜と韓国ドラマ〜

          伊丹十三映画4Kを観る③ 『タンポポ』〜100%の伊丹映画〜

          監督・伊丹十三とは、日本映画史上において、どのような存在なのだろうか。 道半ばで途絶えてしまってから四半世紀。そのあまりにも唐突なピリオド以後、そうした問いが忘れ去られているような気がします。 時代のあだ花だったのか。 映画の革命児だったのか。 趣味人としての贅沢な遊戯だったのか。 今、4Kという品質で伊丹映画をあらためて観るとき、その問いは外せないと思います。 それを考えるとき、伊丹映画のラインナップが、ひとつの道標になります。 以下、公開年と興行収入を列挙します。 (

          伊丹十三映画4Kを観る③ 『タンポポ』〜100%の伊丹映画〜

          伊丹十三映画4Kを観る② 『お葬式』という事件

          1980年代前半頃、ぼくは都内の名画座通いをしていました。池袋・文芸地下、八重洲スター座、銀座・並木座、大井武蔵野館といった、古い日本映画を連日上映していた映画館です。 その日は、市川崑監督作品を観るために、文芸地下を訪れていました。まだ開館前でしたので、一番乗りかと思いきや、すでに入口に並んでいる人がいました。その人物が誰であるかは、遠巻きからでもすぐに分かりました。伊丹十三氏です。トレードマークの帽子を被っていたと記憶しています。せっかくの機会なので握手を求めると、気さ

          伊丹十三映画4Kを観る② 『お葬式』という事件

          伊丹十三映画4Kを観る① 『あげまん』はマルサ3?〜伊丹十三が切り取ったバブルの時代〜

          なかなかオンエアの機会がない伊丹十三監督作品が、日本映画専門チャンネルで4K版が放映されています。まず皮切りに全作一気放映があり、久しぶりに10作品を再見したので、所感などを述べていこうと思います。 実は「30年以上経って、さすがに劣化してるのでは…?」という不安を持ちながら観たのですが、なんのなんの、初見のときの鮮度がそれなりに保たれていて、いろいろ思うところがありました。 ということで、まずは『あげまん』から。 『あげまん』の制作発表があったとき、現代社会をリアルに切

          伊丹十三映画4Kを観る① 『あげまん』はマルサ3?〜伊丹十三が切り取ったバブルの時代〜

          『人間の証明』各話解説を終えて

          1978年版『人間の証明』は、初見から45年経った今でも、好きで好きでたまらないドラマです。 当時、ブームの渦中にあった作品ですから、それなりに観ていた人はいるはずなのですが、何故かそういう人に出会うことがなく、感想を語り合うという機会は一度もありませんでした。当時、私は小学校6年生。視聴者層はもっと上の年齢の人たちだったんでしょうね。 でも、ドラマの意図は、小学生にもかなり伝わっていたと思います。その後、CSやDVDで何回か視聴し、今回も各話解説のために全話を見ましたが、い

          『人間の証明』各話解説を終えて

          『人間の証明』[各話解説]最終回

          陽子のモノローグ。 「これは、私の家族です。ついこの間までは、誰もが羨む私の家族でした。立派なパパ。美しいママ。優しい兄ちゃん。12月18日、私の家族は、ちりじりに、ガラス玉が割れるように飛び散ります。あっという間に」 第一回、郡・八杉一家が最初に登場した場面で、雑誌取材で撮られた家族写真が、最終回のメインタイトルである。 12回にわたって濃密に展開して来た本作も、いよいよ大団円を迎える。 これまで描かれてきたさまざまな場面、人間模様が、最後の消失点に向かって一直線に進ん

          『人間の証明』[各話解説]最終回