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2023ファジアーノ岡山にフォーカス44『 シーズンの終え方~前と後~ 』J2 第33節(A)vsいわきFC



1、イメージと現実~激流~


 いわきとの前回の対戦で引き分けている岡山。引き分けはしたもののいわきのサッカーには隙があり、勝機もあった印象があった。ただ、今回対戦してみると、その隙は、見事なまでに修正されていた。基礎技術の巧い選手であれば、岡山の方が多いかもしれないが、そこの差をあまり感じさせない短所をカバーし、長所を伸ばすというサッカーができていた。

 それもそのはずだ。現在の田村 雄三 監督に変わってから、岡山に敗れるまでは、5勝6分1敗という成績で、敗れたのは2位の磐田に対してで、引き分けも上位に対してである。成績だけみれば、まさに上位チームと遜色なく、降格圏にいたチームも岡山に敗れても18位だ。ここ最近の成績を考えれば、徳島を含めて、ここから這い上がっていきそうだ。

 終盤に監督を交代するチームが多く、残留争いが熾烈を極めている。J3が、DAZNの放送が毎試合ではなくなり、JFLへの降格の可能性がでてきたことを考えれば、各チームが、J2への執着心が強くなることは、必然と言える。降格圏の勝ち点のラインが、過去最高を更新しても不思議ではないハイレベルな残留争い。

 J2のレベルの向上や選手の成長は、こうした厳しさからであることは間違いない。各クラブで、実力のある選手を揃えるだけではなく、戦術と個の力を融合させて、如何に組織的に戦うかで、チームとして成長できたチーム、もしくは、チームになれたチームだけが、J2に残る事ができる。そして、個でも組織で、心技体で勝者になれたチームだけが、J1へと昇格できるのだ。

 筆者もサッカーの魅力を、すぎさん流で、発信していくことで、サポーターとして足を引っ張らない様に文章中(表面上)では大人しく、発信していくことをこれらかも心掛けて行きたい。それでは、好調と言える両チームの戦いの記録を振り返っていきたい。

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 タイトル画像は、noteの機能により選択した「tatami_graffiti様」からお借りしています。タイトルの「終え方」と「前」と「後」のように農業は、時期が大事というイメージにマッチしたことが、お借りした決め手です。


2、試合寸評~僅差~


 1章で触れた通り、私は、いわきのサッカーが、攻撃的な(やや隙がある)サッカーという印象を持っていたが、監督が代わって見事にアップグレードされていた。基本は、中盤省略という点は変わらないが、セカンドボールに対する備えというのは、明確に意志があることは明らかであった。

 岡山は、ボール奪取後にスムーズに前を向くという事ができるようになっていたが、ここで時間がかかることが多かった。いつも以上にキープやパス交換、デュエルといった狭い局面でのプレーに労力をかけられていた。

 これは、岡山がサイドチェンジやロングパスの割合が低くなっているというデータから、正しくプレスをかけていくことで、「岡山のキープでの前進」と「いわきのプレスの前進」という「攻撃」と「守備」の「陣取り合戦」のような構図になっていた。

 ただ、その中でもゴール前まで、岡山が運ぶ事ができれば、いわきの守備対応には隙があった。48坂本 一彩の個人技を活かした仕掛けからPKを獲得。ここで、先制することができれば、もう少し違った試合推移になったかもしれないが、ポストバーに当たったボールがGKの21高木和 徹の足に当たるが、運よく枠外でCKに逃げられてしまった。まさにいわきとしてはラッキーとも言えるセーブ?であり、岡山としては、オウンゴールでも良いので決まって欲しかったアンラッキーなシーンだった。

 いわきも「陣取り合戦」のセカンドボール奪取からのショートカウンターを中心にシンプルに繋いだパスからのフィジカルを活かした強烈なミドルシュートで、岡山からゴールを狙う形で好機を作った。11有田 稜のミドルシュートは、クロスバーに当たって、1堀田 大輝の足に当たったが、こちらもオウンゴールにならず、こちらも守備側である岡山にとってラッキーで、攻撃側であるいわきにとってアンラッキーなシーンであった。

 互いに決定機一度ずつで、前節の東京V戦を思い出す前半で、スコアレスで折り返す。

 後半に入ると、岡山の選手が、いわきのオーガナイズされたプレスに対して、消耗が目につくようになってきたが、後半の早い時間に44仙波 大志のスルーパスで深い位置に進入した7チアゴ・アウベスが効果的ドリブルと、左を切る守備対応でできた右足でのシュートコースという隙を見逃さず、右足でも決めきった。

 簡単な得点ではなく、岡山のエースらしい得点。少ない人数で、一見隙がないところからしっかり得点まで決めてくれる選手の存在の大きさを改めて感じた先制点。チームとして、しっかり7チアゴ・アウベスにスルーパスを配球できるチームの土台ができたことで、エースが耀き、組織が輝く、そういった良い循環ができている。

 岡山は、前節の3得点の再現を狙うように、99ルカオや8ステファン・ムークといった攻撃的なカードを切っていく。カウンターに強みを持つ攻守でプレー強度の高い選手を投入で、勝利を手繰り寄せる一手だ。

 そこで、簡単に流れを渡さないのが、今のいわきである。前に出させない寄せの早い守備からボール奪取したクロスから。一度は23バイスがクリアするもセカンドボールを回収した33下田 栄祐が8ステファン・ムークの寄せを冷静にフェイントでかわすと、ミドルシュートを放つ、23ヨルディ・バイスに当たって、ディフレクションもあって、1堀田 大輝が、逆を突かれる形となって、ゴールへとボールが転がっていき、同点に追いつかれる。

 岡山は、どちらかと言えば、先行逃げ切り型のサッカーであり、ここから交代カードを切っていくが、前半のようにボールが持てない中で、いわきが少し流れを持ったように感じた。

 いわきは、その流れの中で、一気に逆転というビックチャンスを迎えるが、19岩淵 弘人のPA内からの至近距離でのシュートは、1堀田 大輝にファインセーブと咄嗟のクリアの2つのファインプレーに阻まれる。岡山は、このプレーで、なんとか望みを繋いだ。

 それでも岡山は、99ルカオの推進力を中心にチャンスを作ろうとしていたが、なかなか形を作れず、決め手を欠いた中で、PKを獲得。このPKを8ステファン・ムークが決めきって、この1点を守り切った岡山が、今季初の3連勝。2試合未消化の群馬を含む、5チームが勝ち点48で、プレーオフ圏の勝ち点50に肉薄する大激戦という最終盤に突入した。


3、ポジティブサッカー~いわき編~


 いわきのサッカーの印象として、非常に前を向いてプレーできるサッカーであると感じた。この試合で、岡山に敗れたのも事実であるが、悪い点といえば、ゴール前の守備対応ぐらいで、それ以外のプレーでは、岡山に勝るプレーは、多くあったように感じた。

 2章で触れた通り、後方でのパスワークは、必要最低限で、縦に「丁寧」かつ素早く縦に入れて行く。そこで、ボールロストしても素早い寄せ、囲い込む守備で、奪い切り、再び素早く攻める。同点に追いついた得点もまさにそういった形であった。

 鍛えたフィジカルで、出足の良い寄せで、守備にスピード感を生む。これは、「繋ぐ」というサッカーに持続して取り組んで来た岡山にも効果的であった。試合を観ていて、いわきの選手のマークを振りほどくのにも苦労していて、狭い所でのパスを何度も求められるシーンが、本当にこの試合は、多かった。

 後半頭に、岡山が先制点を決める事こそできたが、後半に安定して「繋ぐ」サッカーをする上で、岡山のパワーは、かなり失われていた。アウェイ遠征の疲れというよりは、これは、いわきのサッカーの前を向く、勢いのあるサッカーと戦ったことによる対価であることは間違いない。

 こうして、流れを掴み前を向いた時にどう攻めるかというと、「外」→「中」→「シュート」の徹底である。シンプルにフリーの選手に入れて、シュートコースが少しでもあれば、遠くから積極的に打っていく。通教のチームであれば、よっぽどでなければ、ミドルシュートの決まる確率というのは、高くないが、シンプルにミートすることを意識することで、枠内に飛ばす事ができている。

 やはり、シュートが浮いてしまう(ふかす)事の理由として、強くシュートを打つために、力を入れる事にある。そこを鍛え抜かれた筋力により、軽く蹴っても強力なシュートを打てる。そこに起因したシュートだけではなく、多くの「蹴る」プレーである「パス・クロス・シュート」の3点は、正確で速いパスがシンプルに出せている。

 そこで、トラップミスというシーンは、どうしてもあったが、そこもあまり印象に残らないぐらい「外」→「中」→「シュート」という形は、完成されていた。それこそスルーパスに快速で追いついて、中に折り返す安定感を含めて、普段から良く鍛えられている事が感じられた。

 奇しくも勝負を分けたポイントは、普段からフィジカルを武器にしたドリブルに対峙してきたことにより、個の力への対応での守備陣の対応の誤りであった。7チアゴ・アウベスの得点にしても最初のPKにしてもそういったプレーができる選手は、いわきに少ない。逆に素早く対応しないと置き去りにされてしまうため、足が出やすいという守備対応が、標準となっていたのかもしれない。

 ただ、結果的に2失点こそしてしまったが、いわきのサッカーの攻守が一体感というのは、前回対戦にないもので、非常にオーガナイズ(組織化)された一体感というのは、岡山を苦しめたことは間違いなく、このサッカーであれば、岡山戦を含めて、5勝6分2敗という好成績も納得で、岡山としてもこのいわきに勝てた事は、本当に自身にも誇りになるものであった。

 ただ、決勝点の前のビックセーブで防がれたいわきの決定機を含めて、いわきが勝っていても不思議ではないゲームであった。本当にJ2というリーグの各クラブの差は、僅かで、どこが優勝しても不思議ではないリーグになりつつあり、今後の年数を重ねて行く中で、1位と22位の差は、年々縮まっていき、より混戦のリーグになるという事を実感できた試合でもあった。

 それだけ、いわきのサッカーの完成度は高く、「前を向く」という事がシンプルにできる前向きなサッカー、「ポジティブサッカー」であると、筆者に感じられた。くりかえり氏にあるが、岡山にとって、本当に大きな1勝であった。


4、更なる高みを求めて「崩す」~岡山編~


 前半の「sponge」のように、伸縮自在に対応できる守備対応で、プレスや寄せ、デュエルでも簡単に途切れない、前に運ぶ選手同士の繋がりというのは、高い完成度にある。6輪笠 祐士が欠場で、23ヨルディ・バイスが、右SBに入っても、それができたことも自信を深める事ができた試合であった。

 ただ、「後半」の戦い方の課題。ここでいう「後半」とは、45分以降ではなく、「繋ぐ」サッカーから「崩す」サッカー「仕掛ける」サッカーへとメンバーが変わってからだ。前半の隙の少ないサッカーに比べて、この時間の戦い方は、岡山にとって、課題となっている。

 この試合では、PKで勝ち越し点を決める事ができたが、流れの中で、誰が決めるのかという課題も残っている。1点差以上のリードで、カウンターで打開できれば良いが、同点の状態であれば、得点力不足というか、決定力不足というのは、表面化し易い。

 今後の残り試合で、この課題をどうクリアしていくのかというのが、岡山の最後の課題といえ、99ルカオの初ゴールのようなシーンを増やす事や19木村 太哉のドリブルを活かして、得点に繋げられるかである。

 個人的なポイントとして挙げたいのが、2高木 友也をどうフィットさせていくかであると感じている。やはり、11人が、しっかりリンクして、攻守で連動することが、勝利により近づくことであると考えているが、出場機会から遠ざかっていた影響か、少しチームの中で、迷い(浮いた感じ)が目立っているように感じる。

 チームのサッカーが変わっていた中で、リザーブ組でも違うサッカーをしている難しさもある中で、どういったプレーを求められているのか、どういったプレーをすべきなのか。ここに迷いがあるのか、連携ミスが目立つだけでは、出場機会を掴めば改善できるが、持ち味であるクロスやドリブル、中に切り込んでの強烈な左足。といった武器が、影を潜めている。

 リードしている局面では、時間を使う必要があるため、安易にクロスを入れて行くことはあまり良くなく、難しいプレーが要求されることも致し方ないが、チームとしての「解」というのを残り試合で観る事ができたらと感じている。

 42高橋 諒と17末吉 塁の攻守でのボール関与率の高さというのは、佐野 航大のオランダへの海外移籍後では、岡山の武器となっていることからも19木村 太哉、99ルカオ、8ステファン・ムークのプレーイメージができるぐらいのインパクトを2高木 友也にもあって欲しい。23ヨルディ・バイスも控えに回った時のオーバーラップからのミドルシュートという形をイメージできるだけになおさらだ。

 後は、チームとして、直感任せるのドリブル突破に対して、中でシンプルに合わせるという意識と、ボールロストした時のネガティブトランジションの不安定さが、岡山の守備の不安定さにもなっているという課題である。

 後半のチームが、クリアが多くなるのも組織的に前進することが困難となっているからで、選手の特性上、仕方ない事であるが、上手く攻撃でも守備でも一体感をどう生み出すかということも後半の課題である。

 個人的には、4-2-3-1を前面に出しても面白いのではないかと感じている。イメージ的には、2高木 友也、99ルカオ、19木村 太哉のタイプと違う3本矢を前面に出す事にある。SBが、本職の2高木 友也が、走れない選手であるはずがなく、やはりハードワークもできる選手であると感じている。

 だからこそ、この3選手の誰かにクリアを蹴るイメージを持って、そこから単独で運んで、残りの誰かが中で合わせるというイメージだ。トップ下とダブルボランチは、6輪笠 祐士を軸に流動的に動くイメージである。

 現状は、やはり、クリアするだけで終わるシーンも多く、そこで、カウンターでラインを押し上げる時間も作っていきたい、追加点を奪って行きたい。そう考えた時に、4-2-3-1というのは、1つの選択肢とはして面白いと感じる。

 また、選手が交代して行く中で、タイプの違う選手が混ざり合った時間での不安定さをどう凌ぐかという難しさもある。この辺りを選手や監督といった現場の判断で、チームとしてどう体現していくのか。繰り返しになるが、「解」を残り次第で観る事ができるか、どうか、そこが、今後の岡山が勝負を分けるポイントとなるかもしれない。


5、アディショナルタイム~前と後~


 どうシーズンを岡山が終えるのか、「前」と「後」をテーマに今節を振り返ってきましたが、いわきの前を向くサッカー、岡山の前に運ぶサッカーを巡る攻防。勝負を分けた僅かな隙。

 岡山の「前半(のメンバー)」の戦い方と「後半(のメンバー)」の戦い方。前後をどうしっかりしたもにしていくのか。岡山として、木山ファジの「解」が、終盤戦に向けて、目にすることができているが、ここからまだ見えていない「解」をみることが今後の楽しみである。

  前後の隙の少ない完成形を今季で観る事ができるのか。明日の仙台戦も楽しみである。

文章=杉野 雅昭
text=Masaaki Sugino

J2 33節(A)いわき戦 「MOMアンケート」


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