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川崎フロンターレの2023年を振り返る:サッカーのデリケートなバランス

 2023年の川崎フロンターレは14勝8分12敗、勝ち点50で8位。最後に天皇杯で優勝したものの、リーグ戦では首位に立ったことは一度もなく、「優勝争いをしたが敗れた」とも言えないシーズンとなった。2023年の終わりを迎えるにあたって、自分なりに振り返ってみたいと思う。


得点力が明らかに低下したフロンターレ

 フロンターレの基本フォーメーションは4-1-2-3。最終ラインにセンターバック2人とサイドバック2人で4人。最終ラインの前に「アンカー」と呼ばれる守備的MFが1人、その前に三角形を描く形でインサイドハーフと呼ばれる攻撃的MFが2人、そして最前線の中心に位置する「センターフォワード」、両サイドに「ウイング」が並んで3人となる陣形だ。

4-1-2-3のフォーメーション

 これは、ここ数年フロンターレの基本だが、今年はっきりしていたのは、得点力が低下していたことである。
 今年の得点は51(失点は45)(なお、今年優勝したヴィッセル神戸は得点60(失点29))。最終節まで優勝を争い、2位に終わった2022年は得点65(失点42)、優勝した2020年、21年はそれぞれ得点88(失点31)、得点81(失点28)であり、去年と比べても得点は14点少なく、連覇した2020、21年と比べると30点以上少ない。

 そうなると、現在のやはり大きな課題が攻撃にあることは明らかだろう。

頻発した〔最前線の人数の不足〕

 この点について、今年頻発したのが、ボールを奪取して攻め上がっているのに、ゴール前にいるのがセンターフォワード1人という状況。スタンダードな守備陣形である4-4-2とかみ合わせたときの状況はこう言う形になる。
 

 見てわかるとおり、「CF」と書かれているセンターフォワードの周りには相手のセンターバックが2人、「RCM」「LCM」と書かれているボランチがインサイドハーフ(LIH、RIH)を見ながらスペースをつぶすことができてている状況にある。

 例えばインサイドハーフが前を向いて前進していても、インサイドハーフがそもそも低い位置にいるためにセンターフォワードとは距離がある。

 あるいは左ウイングのマルシーニョがドリブルで前進していても、やはりインサイドハーフの位置が低すぎてゴール前にはセンターフォワードしかいない。

 そうなってしまうと、相手が戻りながら守備ブロックを整えている間に前線にボールを入れ、流動的なパスワークで相手の守備組織自体を混乱させていくという攻撃は難しい。最前線でのパスの受け手がセンターフォワード1人しかおらず、守備側としてはマークが簡単だからだ。
 そのため、フロンターレは、センターフォワードのレアンドロ・ダミアンか右ウイングの家長昭博にボールを入れ、彼らのキープ力で時間を作っている間に前線に人数をそろえていく形の攻撃になる。

 しかし、そうやって時間を作っている間に守備側もきちんと準備ができてくるし、何よりも今年はレアンドロ・ダミアンが負傷で離脱している時間が長かった。そのため、相手を崩した形でアタッキングサードでの攻撃を仕掛けることがなかなかできなかったことが、今年の得点の減少の大きな理由であると私は考えている。

視線をマンチェスターシティに

 ポイントは、インサイドハーフの2人と前線の3人の距離が大きかったことだ。

 ここで、視線を変えてマンチェスター・シティのフォーメーションを見てみよう。マンチェスター・シティは2-3-5ないし3-2-5、あるいはキーパーが最終ラインに入って2-4-5のような形でビルドアップしてくることが多い。

 この、最前線に5人いるというのが大事で、ディフェンス側が4バックの場合、ディフェンダー1人がオフェンス1人についても、1人確実に余るし、2人で1人をマークすることができなくなる。(5バックにして守られることも当然あるが、ここでは4バックの状況だけを論じる)

 ここで夏の横浜Fマリノス対マンチェスター・シティでの実際のフォーメーションを見てみよう。

Fマリノス戦のマンチェスター・シティ。左に向かってシティが攻めている。マリノスの4バックの間を取る形で5人が並んでいる


同じくFマリノス対マンチェスター・シティ。ここでも左に向かってシティが攻めている。キーパーが最終ラインの位置を取り3-3-5でビルドアップ。マリノスは最終ラインに5人。

 このような形で、5人を最前線に並ばせるためには、4-1-2-3の2列目の「2」であるインサイドハーフが、最前線に近い位置を取ることが必須となる。

2023年初期の取り組み

 2023年の始まりの頃、フロンターレでは、ビルドアップ時に右サイドバックの山根が中に絞ってアンカーの隣にポジションを取り、3-2-5の形を取るのではないかと言われていた。ゴールキーパーに上福元直人を補強したのも、上の2枚目の写真のように、キーバーが入る形でビルドアップする前提とみることができた。
 これがうまくいけば、インサイドハーフのポジションを高く取り、マンチェスター・シティのように前線に5人を配して攻撃することができたはずだ。

 しかし実際にはいずれもうまくいかなかった。結果、インサイドハーフの2人は、センターフォワードの近くにポジションを取って「仕留め」の仕事をすることよりも、アンカーの近くにポジションを取ってビルドアップ(=「お膳立て」)のための仕事をよりしなければならなくなってしまった。

 そうなると、アタッキングサードまでボールを運んでもシュートレンジにいる味方プレイヤーが少なくなり、前述したような形で、「攻撃の時間を作っている間に守備側が整ってしまう」という現象が発生してしまう。

ポイントはセンターバックだったのでは?

 その大きな原因だったのではないかと自分が考えているのは、センターバックのパス能力だ。
 「止める・蹴る」の能力が高い谷口彰悟がセンターバックにいた時代であれば、センターバックからのビルドアップがうまく機能していた。しかし、谷口はもういない。

 谷口がいた時でも、谷口にはハイプレスをかけ、パス能力に劣るジェジエウにボールを持たせるチームがあった(ジェジエウなら、パス能力が高ければJリーグではなくヨーロッパでプレーしているだろうが)。

 その谷口がいなくなってしまった2023年には、センターバックとアンカー、サイドバックが絡んだボール回しとインサイドハーフの動きでディフェンスを崩してビルドアップしていくことが非常に難しくなってしまっていたのである。そのため、インサイドハーフが低い位置でビルドアップに関わらざるを得なくなり、結果として前線に人数が足りなくなるという状況が多発したということだろう。このあたり、サッカーにおける「バランス」とはたいへんデリケートなものなのだと感じる。

 センターバックがボールを持ったときに、プレスをかけてくるチームとかけてこないチームとがある。いずれにしてもこの時、センターバックには、ボールを持ち運ぶか、ショートパスで相手を動かしながら前進していくか、ミドルパスで相手を裏返して攻勢に出るか、アバウトでもいいからロングパスを放り込むかといったオプションがある。こうしたオプションをどれくらい幅広く持つことができるか、その幅とオプション選択の判断の質という意味で、今年は課題が多くあったシーズンであったということができる。(山村和也の裏を狙うロングパス、車屋紳太郎の機を見たドリブルといった特長はそれぞれにあるが)。

2024年の方向性は?

 「前線で時間を稼ぐ」仕事をになうことが期待されるダミアンにしても、去年あたりから、前線でのボールキープ能力の衰えは明らかだったし、2024年シーズンにはいなくなる。

 数年前のダミアンと同等のキープ能力があるセンターフォワードの補強は容易ではないだろう。だとすると、来シーズンには、少人数でビルドアップし、前線により「素早く」人数をかけていくことは必須だと言える。そういった方向性に合致した補強になっていくのか、あるいはダミアンを更新するような形での補強になっていくのか、まずはそれを見守る新年となりそうだ。

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