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「未来は変えられる」:大きな問題と1人1人のできること 「キボウノチカラ オトナプリキュア」から

 この秋ー冬には、異色のアニメがありました。2007-2009に放送されたアニメ「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」の続編にあたる「キボウノチカラ オトナプリキュア'23』です。(最終的に、「ふたりはプリキュア」「ふたりはプリキュア Splash Star」の続編にもあたることになります)

 言うまでもなく、プリキュアは女児向けアニメです。ただ、子供と一緒に見ていた親がはまって行くというパターンもままあります。何を隠そう、私もそのパターンです(笑)。

 プリキュア自体、既に20年続いているシリーズなので、数多くの作品があります。人数は2023年2月現在、最低77人。カウンティングルールによっては167人になるそうです。

 私がプリキュア自体を見るようになったのは娘が見始めた「魔法つかいプリキュア!」あたりからです。それから、配信でいくつかの劇場版を見て、「Yesプリキュア5」が好きになり、中でも、夢原のぞみ/キュアドリームが推しになりました。暑苦しいほどに常に前を向く彼女のキャラクターが琴線に触れたというところです。

 そして、「キボウノチカラ オトナプリキュア23」の制作が発表されたとき、主人公が夢原のぞみだと知って狂喜しました(笑)。コレは絶対見なきゃならんと。

 見始めてすぐ、「これは今クールで最高の作品ではなかろうか?」と感じました。
 かつてのプリキュアたちもいまや20代半ば。社会の中で壁にぶつかり、悩みを抱えながら生きていることが丁寧に描かれます。
 そんな中、街に出現した「シャドウ」という怪物。戦うためにすんなり変身する者もいれば、「自分は変身できないと思う」と感じる者もいる。このあたりの描写が秀逸でした。

 何よりも、クライマックスに向かっていく第10話以降の社会性には目を見張るものがあります。劇中で、これから気候変動が進み、彼らが暮らしている街が廃墟になっている風景が映し出されます。そして、気候変動は人間の仕業であり、待ちを廃墟にしたのは人間自身なのだと。

 日本のアニメ史において、「風の谷のナウシカ」「新世紀エヴァンゲリオン」「メガゾーン23」「交響詩篇エウレカセブン」「北斗の拳」「戦闘メカザブングル」など、人類が滅亡の危機を迎えたあとを描く作品はいくつかあります。

 ただし多くの場合その引き金は「戦争」です。また、いずれも比較的古い作品です。ある意味、冷戦期における「核戦争の恐怖」が非常に切迫したもので、その危機感が投影された作品だとみることができるでしょう。

 一方、気候変動がもたらす問題が強く認識されるようになったにもかかわらず、最近の作品で、「気候変動による人類滅亡」を扱ったものはほとんどないように思われます(自分のアンテナが低いからかもしれませんが)。

 そうしてみたときに、オトナプリキュアが際立ってくるのです。
 しかも、単に気候変動がもたらす未来を描くだけではありません。

 最終回、初代プリキュアの2人の助太刀を得て、9人で戦うも、巨大化したシャドウに対して分の悪いプリキュアたち。少しでも状況を好転させるために、満と薫が動画での配信を始めます(いまでいう情報戦ですね)。それを見ながら、人々が「頑張れ!!」と応援を始めます。

 この場面、プリキュアの劇場版を見に行った人ならばすぐに思い出すことがあるでしょう。劇場では「ミラクルライト」という小道具が子どもたちに配られます。これは、プリキュアが劇中でピンチになったときに、観客が光らせながら振ることで、「プリキュアに戦うエネルギーを与える」という、観客参加型の演出のための小道具です。

 動画配信を見ている人々が応援を始めるこの場面は、まさにこの、「ミラクルライト」を振る場面を思い出させるものでした。

 しかしここに、以前の悪役のブンビーが割って入ります。「あなたたち、頑張れって応援している場合じゃないですよ!」「ここはあなたたちの街なんだから、あなたたちが頑張らなきゃ」と。
 さらにキュアドリームが、1人1人は弱いけれど、できることを積み重ねていくことが大切なんだ!と語ります。

 これは、気候変動に対してもっと当事者意識を持つべきだ!というメッセージでもあるし、なにより「Yesプリキュア5」を子供の頃見ていた世代に、「いまはもう大人なんだから、自分で動いて世界を変えることができるはずだ」というメッセージを伝えようとした言葉でもあるように感じられ、その意味で非常に洗練度の高い表現となっています。第11話で、大人として挫折を味わっていた夏木りんが、キュアルージュの姿で「何でもかんでも思い通りに行くわけじゃない」と叫ぶ場面同様、昔のアニメの「続編」だからこそ込めることができるメッセージでもあります。

 このように、オトナプリキュアは、「少女が戦う」プリキュアという作品群をある種の「インフラ」として扱ったうえに、「大人として社会で生きる」上での新たなメッセージを伝えるというメタな構造性を持つ作品だと言えるでしょう。
 気候変動を終末論のテーマとして取り上げたことと相まって、それが、オトナプリキュアがこのクールのアニメのベストだと私が考える理由でもあり、それどころか、これは日本アニメの歴史に残る作品なのではないかと感じる理由なのです。


 最後にひと言。
 私がテレビに出ていた頃、繰り返し、「当事者意識」が大切だと話してきました。そして、拙著『現代戦略論』の最後に、「未来は変えられる」と書きました。

 こうした自分の考え方・感じ方と、オトナプリキュアの最終回のメッセージが共鳴している感じがとてもうれしかったりもします。安全保障と気候変動、全く違う論点なのですが。大きな問題に人間が立ち向かっていくとき、ベースに置くべきものは同じなのでしょう。


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