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【オススメ本】古館伊知郎『MC論』ワニブックス、2021

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職業から司会をすることが多い。

もちろんテレビの中の司会とテレビとは関係のない司会とは求められるものは違う。しかし、本書で指摘されるように

「You tubeにより1億2000万人総MC時代がやってきた」(p.8)

と捉えるならば、決して人ごとでもない気がします。

ちなみに本書におけるMCという言葉は

「番組のホスト役であり、いかにゲストを引き立てて、自分も引き立たせるシナジー効果を生み出せるかが勝負(の職)」(p.5)

という定義が付されており、単なる司会者とは切り分けて使われています。

さて、本書で取り上げられるMCですが、これは章立てがそのまま歴史的変遷に繋がっています。

まず第1章は昭和のレジェンドMCということで、ここでは、大橋巨泉、タモリ、明石家さんま、笑福亭鶴瓶、黒柳徹子(敬称略)が紹介されています。このうち大橋巨泉以外は現在も第一線で活躍する現役MCであり、若い人もその実力の凄さを伺い知れますよ。

続く第2章は芸人・タレントによる平成・令和のMCということで、ここではとんねるず、ダウンタウン、今田耕司、爆笑問題、中居正広、加藤浩次、上田晋也、田村淳、有吉弘行、山崎亮太、村上信五(敬称略)が紹介されています。特徴的な一人ではなくコンビでのMCが登場しているという点とお笑い界からの参入が多いということ。これはやはりMCが単なる司会進行ではなく、「いかにゲストを引き立てて、自分も引き立たせる」という属性を持っているという先ほどの定義と深く関わっている特徴と言えそうです。また、見たくないのに繰り返し見ているうちに好意を持ってしまう「ザイオンス効果」(p.34)とも関係がありそうです。

最後の第3章はキャスターを超えたニュースプレゼンターということで、みのもんた、関口宏、小倉智昭、安住紳一郎、羽鳥慎一、石井亮次、逸見政孝(敬称略)が紹介されています(著者の古館さんもここに入るでしょうますね)。こちらはどらかと言えば、正統派のアナウンサー出身の方が多い訳ですが、ただニュースを紹介するのではなく、手強いゲストを手玉に取る、いわば「猛獣使い力」の高く、長年生き残った(お一人は物故者)MCという感じでしょうか。本書では「トークのエネルギー保存の法則」(p.151)で紹介されています。

言うまでもなく、これが正解、こうすれば成功するというMC論が存在しません。したがって、この人はここがすごかった、あの人はここがすごかったという帰納法的アプローチからそのヒントを探ろうというのが本書のチャレンジでしょう。あえて一般化(普遍化)もしていないのもポイントです。その意味では、「MC論」であることは間違いないですが、さらにいえば「MCハック集」と呼ぶ方が適切かも知れません。

唯一残念だったのは、本書では、アナウンサー系、タレント系、役者系など多様なMCの方の分析が男性しかいなかったことです。これは歴史的に「司会者=男性司会者」という時代が長かったことに起因するものですが、テレビ東京のWBSや日本テレビのNEWS zero、また読売テレビのそここまで言って委員会など女性MCも多いので、このあたりの続編も読みたいと思った次第。

(参考)出版社HP


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