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江東区のキャンドルメーカーが、新規事業で絵の具を作るようになったきっかけは、クリエイターからの刺激だった

新規事業を進めようと考えたときに、まず考えることは、自社の強み、資産に何があるかです。自社の強みを活かしながら、どう新しい分野に挑戦していけるのか。この思考はとても重要なものです。

しかし、その一方で、この考え方には、落とし穴も用意されています。

それは、思考が硬直してしまうこと。すでにある強みや資産を最大限に活かそうとすればするほど、既存の事業に近づいていってしまいます。新規事業を考えていたはずが、気づけば既存事業の改善案に着地していたなんて例もよく聞きます。

この硬直しがちな思考をどう破壊するか、どう乗り越えるかが、新規事業における一つの課題となってくるでしょう。

この課題をデザイン、クリエイターとの共創によって、乗り越えた会社が東京は江東区にあります。それが、2013年に創業されたGRASSE TOKYO(グラーストウキョウ)株式会社です。

今回はGRASSE TOKYO株式会社の代表取締役である藤井省吾さんにお話を伺いました。


歴史あるキャンドルメーカーから誕生

GRASSE TOKYO株式会社は、フレグランスやアロマを専門とした会社なのですが、その成り立ちは、キャンドルメーカーにあります。

1947年、藤井さんの祖父が創業されたキャンドルメーカーが東洋工業株式会社です。もともとは、海外向けの輸出用の洋ろうそくの製造を専門としていました。そこから、結婚式など、さまざまなキャンドル需要の成長に対応しながら、国内向けの製造へと事業を変化させていきました。

そして、2000年ごろに、キャンドル業界に一つの転機が訪れます。それが、アロマキャンドルのブームです。結婚式などの特別な日の需要がメインであったところに、日常的なアロマキャンドルがブームとなり、その波とともに、東洋工業も成長をしていきます。

そのブームの中、藤井さんは、香りというものへの可能性を感じます。アロマ、香りというものは、もっと世の中に受け入れられていくのではないか。その証拠に、お客さんから、この香りを使って、リードディフューザーなどの製品もできないかという問い合わせが増えてきます。

この流れに目をつけた藤井さん、キャンドル専門である東洋工業から、フレグランス部門を独立させて、会社にすることにしたのです。

思い切った決断のようにも見えますが、藤井さんには計算もありました。アロマブームの中で、突然、面白そうなブランドがでてくればきっと興味を持ってくれる人もいるだろう、と。


香りの最高峰、グラースへ

このフレグランス専門会社であるGRASSE TOKYOを始めるにあたって、藤井さんの中で一つどうしても譲れないこだわりがありました。

それが、社名にも入っている、グラース、です。実は、このグラース、南フランスの地名のことで、世界的にも有名な香料をつくる工場が集まっている地域です。まさに、香水、香料のメッカ。

このグラースの香料を使うことを、GRASSE TOKYOの1つの強みとして打ち出したいと考え、過去にお付き合いのあった香料メーカーさんを訪ねていきながら、なんとか、グラースの香料を自社で扱えることになったのです。

このグラースの香料を使って、GRASSE TOKYOは、自社ブランドを積極的に展開していきます。ハンドクリーム、ボディミルク、フレグランスキャンドル、ジェル香水、リードディフューザーなどなど。

いい香りをたくさんの人に届けたいと着実に、基本のラインナップを拡大しながら、一方で、藤井さんはこんな感覚を覚えていました。まだまだ、日本には香りの文化が根付ききっていないのではないか。香りの商品を広げるにはもっと違った商品が必要なのではないか。

そんな漠然とした疑問を抱えながらも、どうしたらいいのか解決策を掴みきれない日々の中、藤井さんにある出会いが訪れます。


世の中にないものを作る

その出会いというのが、東京ビジネスデザインアワードです。江東区のある展示会に参加していた藤井さんに、たまたま、東京ビジネスデザインアワードの担当者が声をかけてくれたのです。

その話を聞いて、藤井さんはすぐに面白いことができそうだと感じ取り、応募を決定します。その時の提案書に書いた言葉が「アロマのブレンド技術をつかって精油の魅力を引き出したい」というものでした。

この東京ビジネスデザインアワードというものは、企業が自社の使って欲しい技術の提案に対し、デザイナーやクリエイターがその技術を使ってこんな商品を作りたいという提案をぶつけるというものです。

そして、このGRASSE TOKYOの提案に対して、クリエイターから出された提案が「絵の具」でした。

その提案を見たときに、藤井さんはこれならいける、面白いとワクワクしたそうです。香りから商品を発想していた社内では思いつかなかった可能性が、ここに生まれた瞬間でした。

そこから、とんとん拍子に商品化できたかというと実はそうではなく、藤井さんがこだわったのが、お年寄りも、子ども扱える水彩絵の具にしたいというものでした。しかし、香りの元となる精油は、「油」そして絵の具は、「水」彩。まさに水と油の関係で、これを混ぜることに、とても苦労したそうです。

年末年始も返上で、この水と油を混ぜる方法を模索し続けながら、なんとか、その方法を見つけることができ、無事に香りを混ぜることを楽しめる絵の具、「香の具(かのぐ)」が誕生しました。


「香の具」の使用イメージ

この「香の具」の誕生が、GRASSE TOKYOにとって、大きな転換点となりました。

それまでは、世の中にあるものをどうやってより良いものに、GRASSE TOKYOらしいものとして作り出すかという商品開発を進めていましたが、この「香の具」は全く逆のプロセスでした。いまは無いものだけど、香りがついていないものに、香りをつけることで楽しんでもらえる。

そんな0から作ることに、悩みも困難もあったけれど、本当にいい経験だったと藤井さんは教えてくれました。


香りは軸だけど、香りだけじゃない

この経験を経たGRASSE TOKYOの商品ラインナップに、変化が生まれます。この次の変化、それが「TAKENOKO」の誕生です。

これは、キャンプで使う着火剤なのですが、香りを前面に押し出しているわけでもなく、火のつきやすい竹を素材とした商品というものです。

一見しただけでは、香りとのつながりを見つけることはできません。しかし、実は、竹という素材に秘密がありました。

リードディフューザーのボトルに刺しているリードは、GRASSE TOKYOではポリエステル製や竹製のものを使っているのですが、この竹を削る工場に視察に行ったときに、藤井さんは大量の竹の削り粉を目にします。

とても燃えやすいものらしく、たくさん溜めては燃やして処理するということを繰り返しているそうです。その話から、この竹の削り粉を使った着火剤を作ろうと考え、そこからこの「TAKENOKO」が誕生しました。


「TAKENOKO」商品写真

そこから、紙の廃材やマッチの不良軸をつかった、「TAKENOKO」の派生商品も誕生しています。

このように、GRASSE TOKYOは、香りを軸としていながらも、さらに広い視野で商品について考えるようになっていきました。その変化の背景には、クリエイターとの共創、発想を楽しみながら一緒に作ってきた経験が生きているそうです。


香りをもっと根付かせる

新しい発想を楽しみながら、面白いをモチベーションにしながら、GRASSE TOKYOは次々と新商品の開発が進んでいます。

そして、その歩みの先には、香りが文化としてもっと定着させたいという思いもあります。たとえば、店舗や宿泊施設、ショッピングセンターなど、ブランドや場所にあった香りを作り出し、その香りで場所やお店を思い出すようになる。そんなことができるのではないか、と試行しているそうです。

ブランドロゴやブランドスローガンなどが定着した次のステージは、ブランドの香り、なのかもしれません。

それほどまでに、GRASSE TOKYOは、香りの強い可能性を信じています。


中小企業が変われば、日本が変わる。その思いをもとに、今まさに変わろうとしている、新しい挑戦に取り組んでいる、チャレンジしている中小企業をご紹介しました。

GRASSE TOKYO株式会社の香りが、あなたの明日の生活を変えるかもしれません。
それでは、次回のnoteもお楽しみに。