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新規事業と既存事業の健全な関係を生み出すためのブランド運営

新規事業を始める上で、多くの企業が抱える問題が既存事業との関係性です。社員の仕事の分担についても、また事業内容についても、どう新規事業と既存事業とでバランスを取るのか。どの企業にとっても頭の痛い問題でしょう。

しかし、もしも新規事業と既存事業が同じ目的に向かって進んでいると感じることができるのであれば、社員のモチベーションも、事業内容のバランスも、大きな問題にはならないのかもしれません。

そのような事業同士の関係性を実現している会社にお話を聞くことができました。ツキオカフィルム製薬株式会社で、新規事業を担当されていた武井さんと齊藤さんです。


異業種への拡大

ツキオカフィルム製薬株式会社は、その名前からもわかる通り、フィルムを使った医薬品を作っています。食べられるフィルムに有効成分を配合することで、口の中ですぐに溶ける医薬品ができます。

水を飲めない場所や、急なタイミングでの服用にとても重宝されているものです。

そのほかにもフィルム事業部では、美容効果のあるフィルムや歯磨き粉成分が入ったフィルムなど、さまざまな商品の企画・製造を行なっています。

しかし、実はこの会社の創業は、フィルムでも医薬品でもありませんでした。

ツキオカフィルム製薬(旧(株)ツキオカ)が創業したのは、1966年。印刷の箔押の事業から始まりました。箔押とは、一般的な印刷ではできないきらめきを表現するための特殊印刷のことで、当時からこの箔押の技術では国内でもトップクラスだったようです。

そこからおよそ30年後、ツキオカフィルム製薬は、新しい事業を始めます。それが、食用金箔の製造です。

一般的に金箔といえば、金沢のイメージが強いものですが、金沢の職人による製造とは異なって、ツキオカフィルム製薬では、金に他の金属を混ぜることなく、可食フィルムにスパッタリングという手法によって、金箔を製造しています。

その手法で完成するのが、純度99.999%の食用の金箔です。これらの商品は、主に食品メーカーやお菓子屋さんなど、さまざまな企業などの商品の彩りとして使われています。

そして、この食用金箔の事業が誕生してからおよそ10年後、フィルム事業部は誕生します。金箔の製造の時に使用していた可食フィルムに、有効成分や美容成分などを配合することによって、さまざまな可能性を持ったフィルムの企画・製造をすることが可能になりました。

可食フィルム(イメージ)

このフィルム事業部から新規事業が誕生します。


トップダウンでのスタート

OEM事業として順調に成長を続けていたフィルム事業部の社員3名に新規事業の話が舞い込んできたのは、フィルム事業部が設立してからおよそ10年強が経過した、2019年のことでした。

いまOEMがどれだけ順調であっても、長い目で見ると、お客様の商品や経営状態に左右されてしまい、自社の売り上げが安定しない。このような問題を改善するために、新社長、飯倉聡氏が、新規事業をスタートさせました。

自分たちで売り上げを作るために、自分たちらしい目線を活かして商品を作ってほしいと、フィルム事業部の3名の社員に声をかけたのでした。

社長直轄のプロジェクトとしてスタートしたこと、3名のうち2名が営業として担当プロジェクトを持っていなかったことなどが幸いして、自由に伸び伸びとした環境で商品開発を進めることができたそうです。

その時に、大事にしたことが、フィルムでなくてはならないもの。特に、自社のフィルムじゃないと作れないものを作ろう、という思いでした。

その思いをもとに、試行錯誤を繰り返しながらたどり着いたのがフィルム石けんという商品でした。


コロナ禍での販売スタート

フィルム石けんとは、0.13mmのうすい、手のひらサイズのフィルムでできており、フィルムに水を含ませ擦り合わせると泡がもこもこと出てきて、手を洗うことができるものです。

ツキオカフィルム製薬の、くだものフィルム石けんは、お出かけの時に、気軽に手を洗えるだけでなく、ももの香りを配合することで、気持ちも楽しくなるように、という工夫がなされています。

また、フィルムのケースを工夫することで、取り出しやすく、親子でも使いやすいように配慮されていました。

しかし、商品が完成し、発売ができるようになったのが、2020年7月。その他多くの企業と同じように、外出が一切なくなった社会では、フィルム石けんの利便性はなかなか受け入れてもらうことができませんでした。

そのような強烈な逆風の中でも、新規開発の手を緩めることなく、発売から1年後には、洋なしの香りバージョンも新発売されました。

また、2種類の有効成分が配合された薬用フィルム石けんの発売、さらに、「くだものフィルム石けん」を購入してくださったお客様の意見を反映させたリニューアルも行われました。

くだものフィルム石けん(2023年)

社長のトップダウンでスタートしたにもかかわらず、コロナ禍での販売開始というかなり厳しい状況に追い込まれてしまいました。それでも、新規事業のメンバーは、その歩みを止めませんでした。

その思いを維持できた背景には、社長から掛けられた言葉があったのかもしれません。

できたものが絶対に売れるとは限らない。商売というものは予想するのはとても難しく、100個出したうちの、1個売れればいい方なんだから、かたくならずに、どんどんやってもらいたい。
自分たちが、いいと思ったものであれば、それで行こう。


新規事業が開くOEMの未来

この先、自分たちの商品をもっとたくさんの人に知ってもらい、販売していくことはもちろんなのですが、それ以上に大きな、未来の目標についても教えてくれました。

それは、フィルムやフィルム石けんというものの認知を広げて、市場を成長させていくこと。

まだまだ、フィルム石けんよりも紙石鹸の方が知られていたり、フィルムの製造というものが、どういうものなのか伝わりにくいのが、現状のようです。

しかし、食べることができて、医薬成分や美容成分などが配合できる薄くて持ち運び簡単なフィルムには、まだまだ可能性があります。その自分たちも、まだ想像できないような可能性を開くためにも、くだものフィルム石けんを販売し、知ってもらう必要がある。

そうすれば、巡り巡って自分たちのOEMの事業にもきっと返ってくる。そして、フィルムの可能性によって、いろんな人の生活がきっと豊かになる。


中小企業が変われば、日本が変わる。その思いをもとに、今まさに変わろうとしている、新しい挑戦に取り組んでいる、チャレンジしている中小企業をご紹介しました。

ツキオカフィルム製薬株式会社のフィルムが、あなたの明日の生活を変えるかもしれません。それでは、次回のnoteもお楽しみに。


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