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どうぶつの森で暮らしています

 適応障害になって約1ヶ月。ちょっと休めば元気になるだろうと思っていたけれど、ただぐったり横になる生活を続けていたら3月が終わっていた。寝て起きて食べて寝る、進んでいないどころか退化している。それでも何もできないのだけれど、唯一始めたのがswitchの「あつまれどうぶつの森」だった。

 小学生の頃はDS版の「おいでよどうぶつの森」が大好きで、毎日のように遊んでいた。限られた空間の小さな村は、隅々までわたしだけのものだった。アバターには本名ではなく、かわいい名前をつけた。家具を集めて同じテーマで部屋を作り、好みの服を探した。友だちと攻略本を必死に読んで、髪型を思い通りにしようとして失敗。電源をぶち切りしては、家の前のリセットさんに怒鳴られた。どれも懐かしく思い出せる。

 その思い出があるからこそ、なんとなく上書きしたくなくて、あつ森が発売されて大ブームだった時には購入しなかった。ねだって買ってもらったDSはすっかり古いゲーム機になり、カセットもどこにやったか忘れてしまった。あの時いちばん仲の良かった友だちとも、もう連絡を取っていない。

 そうして思い出と化していたのだけれど、横になることしかできなくなって、縋るようにあつ森を購入した。文字は読み飛ばすし、そもそも身体を起こせず、ぼんやりしていると嫌なことばかり考えてしまう。逃げるように無人島移住を決めた。あつ森のキャッチコピーは「無人島生活、始めてみませんか?」である。

 無人島なので、道具や家具はある程度自分で作り出さなくてはならない。木の枝を集め、石を叩き、雑草をむしりつつ、島を駆け回る。あの頃とまったく同じではないけれど、懐かしさがこみ上げた。家を増築したり、お店で服や小物を買うにはお金が必要だから、魚を釣って虫を捕まえて、商店に売りに行く。島に花を植え、果実の木を増やしてみる。あの頃みたいに。

 無人島暮らしを一緒に始めた住民たちはとてもやさしく、「走ってばかりじゃ疲れるだろ、ゆっくりしな」なんてことまで言ってくれる。初めて参加した住民の誕生日会は、おめでたい音楽が流れ、今日の主役と島の住民がるんるんと踊っていた。頭にケーキの帽子まで乗せて、よく来たなー!と歓迎してくれる。こんな幸せな空間があっていいのか。

 いまのわたしが生きている成果は島の中にしか存在しない。現実のわたしは仕事もできず家事も終わらず、ただ時間が過ぎるのを待っている。職場にたくさん迷惑をかけ、貯金を減らしながら、とりあえず横たわっている。症状が良くならず、休職の延長が決まった。怠惰なだけかも、とうっすら思いながら、逃げるように島暮らしをしている。

 死ぬよりましかと不安感から目を逸らし、やさしい住民たちに甘え、島を綺麗にして満足感に浸る。無人島のおかげで、生を続けられている。社会からすればお荷物で、生きる意味など分からないけれど、いつか、こんな時期もあったなあと笑えたら。そんなこんなで現実を放り出し、今日も魚影を追いかけている。

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