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「水道事業の現状とこれからを考える"川口の水に流せない”話」講演レポート

予告していました4月3日の学習集会「水道事業の現状とこれからを考える"川口の水に流せない”話」は無事に開催できました。今回はその講演部分のレポートをnoteに書こうと思います。(メモをもとに書きますので文字起こしのような正確さはありませんがご容赦下さい。)

講演
「水道事業の現状とこれからを考える~持続可能な社会へ、公共の復権が大きな課題に」


講師は埼玉自治体問題研究所 事務局長の渡辺繁博先生です。
本題に入る前に埼玉県秩父郡の水道事業広域化の話をしてくれました。

水道料金値上げは何のためか?

埼玉県秩父郡は少子化による経費削減で四つの町と一つの市で水道事業を一緒にする事になりました。そのため各町にあった浄水場を廃止し秩父市の水道を使うようになったのです。

小鹿野町は水質が良く豆腐作りなど水を使った地域産業が盛んであったのにおいしい水がつかえなくなり、低い土地から水を上げるポンプ費のために水道料金が値上げされました。広域化する前なら反対もできたのですが広域化すると他の地域との多数決で多数派にならなければ何も決められず脱退することも叶わないのです。

渡辺講演_003

浜松市では水道民営化の話が市民運動により足踏みになりました。
しかし下水道の運営権はすでに民間企業に渡ってしまっています。
運営権が100%民間企業に渡ってしまえば民営化と同じことです。

民営化のネックなところは水道料金が安いところは儲けがでにくいこと。
だから料金を値上げしておくのです。
水道料金は以前から総括原価方式だったのですが以前は公共のものだからとポンプなどハード面の費用は水道料金に含まれなかったのです。しかし今はかかる経費の全てを水道料金で賄えるようになり原発と同じになってしまいました。川口市も「老朽管更新のために水道料金を値上げする」と言っていますが民営化への道と言えます。市民が学ぶべきは日本中どこでも民営化を控えた値上げであるということです。

渡辺講演_002

値上げの際のツッコミどころ

渡辺先生は昨年私たちが開催した「ジャンプ集会」の時の林先生のことを
「水道についてあれほどよく知っている人は居ない」と称えて林先生の講演の要点をおさらいしました。以下の3項目が特に強調されているように感じました。

①水道料金は、市民の暮らしに直結する問題にもかかわらず、主権者であり納税者である市民に十分周知せず、非公開のまま拙速で大幅値上げを決めたが、これは市が決めた水道事業運営の原則(アクアプラン川口21)に反する。

②総括原価方式であるなら総括原価の中身を詳細に公表し、十分に審議しなければならない。(減価償却費や耐震問題等)古い管の更新には税金を使っても良いのではないか?耐用年数を固定資産の時期で短めに設定されている。本来の耐用年数でけいさんすれば更新費は大きく変わるはず。

③川口市の水道水の利用実態を把握し、公衆衛生の理念に基づく料金の配分を検討することや、今後の水道施設改修や拡張計画の妥当性なども検証する。

社会の在り方が問われている時代(分岐点)~水道問題もその中の一つ~


①自治体を覆う公共サービス産業化の波
②コロナ禍で問われる新自由主義改革
③いま求められているのは"公共”の復権
④地域から国、世界まで求められる"宇宙船地球号の乗員”であることの自覚

今の時代は政治、経済、文化的に転換期です。古代からの脈絡から言っても転換期です。産業革命からの路線で成長が今、止まっています。ここから上向くか下向くか。
資本主義は経済成長あってこそ上に行けると考えますがグレタさんは「まだ経済成長したいのか?」と怒っています。
日本では斎藤幸平さんが「経済活動を大きくすればするほど地球が壊れていく、成長より分配を考えること」と言っています。
「皆が支え合い、皆で使う。」これはマルクスの資本論に通じます。
マルクスは資本論を1巻しか書けなくて2巻以降はマルクスの草稿を元にエンゲルスが書きました。斎藤さんはマルクスが書けなかった理由を調べました。マルクスは「革命を起こして権力を奪って新しい社会を作るんだ。」と書いていましたがそれではとても良い社会は出来ない。それで晩年のマルクスが10年間研究したのが共同体(コモン)です。

渡辺講演

例えば、今でも森などは私有地になっていても共有なのです。キノコなども自由に採れる。そこから生まれる自然の恵みは全部共有できるという理念で森は管理されているんです。勿論、都市では違いますよ。皆が支え合って、皆が共通して使う、生活者協同組合や労働者協同組合のような協同組合的なものをうんと増やすことが必要です。つまり、経営者が居て、労働者が居る。という社会の運営の仕方ではなく、皆が経営に参加し、皆が働き、皆で分配する。そういう社会システムを今の社会の中から少しづつ広げていき、支えあい、分かち合う、共同の利益を当たり前に大切にする人々が多数になっていけば暴力革命や権力奪取ではなく民主的で平和的に新しい社会へ移っていけるのではないか。「こうしたほうがいい」「こういう社会にしたい」という実例をいっぱい作ることで社会が変わっていくと構想し、マルクスは研究していたのではないか。というのが斎藤さんの推論なのです。

渡辺先生は、言いました。
今も貧しい人がたくさん居るのに儲けを出すために食料を廃棄して新しいものに入れ替えたりする。そしてそれに対する見直しも行われています。フードバンクに沢山の人達が来て食材を無駄にするのではなく社会に循環させようと努力しています。新しい社会への萌芽が生まれていると思っています。そういう視点から水道料金も水道事業も考えていく必要があります。ヨーロッパでは民営化の後に再公営化されています。日本は周回遅れで民営化しようとしています。

1.水道事業民営化の動向~改正水道法を考える


①2013年4月19日アメリカ「戦略国際問題研究所(CSIS)」での麻生副総理発言「日本の国営もしくは市営・町営水道は、すべて民営化します」
これが出発点で民営化が進んできたのです。この年は政権交代の翌年で自民党が野党から与党に戻ってできた第2次安倍政権でした。

②2015年骨太方針
「公共サービスの産業化」を明記
この「産業化」というのはこの時初めて出た言葉です。民営化や民間委託は公務を民間の力を利用して安上がりにして経費削減するものですが産業化は「今まで公務でしていた仕事を新たな産業とみなして儲けることにしましたよ。公務をする企業を作るよ。」という意味です。これは公務を180度変えたエポックです。保育所がないなら、と株式会社が運営するような保育所が出てきたのがこのころから。学童保育も行政窓口も民間の派遣業者が入ってきました。

③2018年12月6日「改正水道法」可決成立
これに先立つ18年6月に改正PFI法成立

Private(私的な)Finance(財政が)Initiative(握る)
PFI法は公共施設を民間運営できるという事。
1999年に成立し、理解されなくて受け入れられなかったのが2018年に改正され、自治体に対する2つのインセンティブと手続き上の緩和規定が盛り込まれました。

2つのインセンティブとは

①コンセッション契約で自治体は運営権対価を繰り上げ償還(借金返済)することができる。
②その繰り上げ償還時に発生していた保証金の支払いは免除される。
(例えば10年の返済予定だった借金を1年で返済したら金利がとれなくなる。それでOKにした。保証金も要らない。)

渡辺講演_001

手続き上の緩和規定とは

・条例で決めておけば、自治体は議会議決なしで指定管理者に運営権を移転でき、議会に対しては事後報告のみでよい。

・運営権者が水道料金を変更する場合、あらかじめ自治体の承認を受ける必要はなく、届出でよい。

(会場がどよめいた)

これはつまり「市民の声を反映しなくていいですよ」ということ。
こうして法整備してから水道法の改正に臨んだのです。
2018年の水道法改正は
「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保できる公正妥当なものであること」と太字部分の一文が入っただけです。これはどういうことかというと自治体運営なら利益なしの料金改定で済むのが営利企業が健全な経営を確保して運営するとなると株主への配当や役員報酬も必要となります。その分を料金に上乗せできるようにするという事です。これで民営化の準備が整ったわけです。
水道事業に参入することでうんと儲けられますし、新しい産業を興せるよ、という事を発信したのが2018年12月6日の水道法改正なのです。

これからの水道は原発と同じでマスコミ対策費まで使用料金に含まれるようになります。民営化されたら何をされても文句が言えなくなります。
2018年の法改正で非常に危険な状態となったのです。

2.水道民営化から、再公営化へ~世界に広がるインソーシングの流れ

渡辺講演_004

欧州を中心とする水道民営化は、イギリス発の新自由主義改革から
(サッチャーリズム、PPP・PFI)
PPPとは Private(私的な)Public(公共)Partnership(合名)
すべて公共のものは民と官とのパートナーシップでやるということ。
イギリスは水道完全民営化の国(資産もすべて民間に売却)10の企業が独占的に運営。民営化25年で水道料金の大幅値上げが続き、漏水率が25~30%で改善が見られず、借金は7.4兆円、債務を理由に税金を払わず、投資家への高配当、高額役員報酬が保障されています。
今の労働党政策では1日も早い再公営化すると言っています。
フランスは24年間民営化されていた水道を2010年に再公営化して新しく素晴らしい水道公社を作りました。

3.根本問題を考えなければならない時代に~公共の復権と財政

講演:資料1-1

行政側は「お金ないからしょうがない」とよく言いますが
消費税導入からずっと歳出と税収が又裂き状態。この問題に手をつけなければならない時が来ています。

講演:資料2-1gure

講演:資料3-1

行政側から「社会保障費が増えたから」と言われて「しょうがないな」という気にさせられますが歳出は問題ではなく歳入が増えないのが問題。本気の税制改革が必要!大金持ちや大企業に儲けにふさわしい税金をとったら解決する。でも自民党政権ではできない。一歩一歩みんなの意識を変えていかねばならずそのための勉強が必要です。

講演:資料4-1

渡辺先生の講演はここで終わりました。時間が足らなくて最後の方が走っている感じがしました。この後、休憩に入りました。そして休憩後にいい質問が出ました。

質問と回答

Q.コロナの状況でこれから色々な物が、税金という形で回収されていくのではないか、という気がします。そうした中で、水道料金の値上げをストップさせるというのは、大変な力がいるのではないかと思うのですが、国や自治体の動きはどうなのでしょうか?

A.コロナで税収が減っているのは確か。しかし地方自治体にとって税収が減れば予算編成が大変になるのか?税収の減った分は国から交付金が出ます。例えば、埼玉県で一番財政力が低い東秩父村は、財政指数は0.20です。0.20というのは必要財源の8割を国の交付で賄わないと、標準的な行政ができないという財政力なのです。でも、この東秩父村で、ちゃんと18歳までの医療費は無料にしています。県下でも川口市よりずっと財政指数が低いところでも18歳までの無料化をやっています。一方で戸田市みたいに財政指数が1.14もある自治体で子供医療費の無料化は入院だけで外来受診はやっていません。交付税制度というのは全国どこでも、どんなに財政力が低い、税収の少ない自治体でも基本的に標準的な行政ができるようにするように財源不足を計算してその分は国から出るようにしているのです。
つまり自治体が言う「お金がない」というのは予算を組んでいないということなのです。

渡辺講演6

今回コロナでどこも税収は減っていると思います。予算の上では。けれども歳入の総額は殆どの所で増えてくる。コロナ対策交付金が出たり、税収が減った分は交付税で来る。臨時財政対策債がありますね。今、なんで大騒ぎをしているかというと、国が大騒ぎをさせているのです。そうしないと国から交付金が来るからと自治体はコスト削減に応じなくなる。国は歳入と歳出の差がものすごく開いているからその分は全部借金でやっていくわけです。それを理由に福祉にかかりすぎるとか言って歳出削減ばかり言っています。現実にはヨーロッパと比べても、歳入があまりにも貧困なのです。取るべき所から取っていない。そこが一番の問題です。そこにメスを入れなければならないですし、地方財政は当座は予算編成で困ることはありません。地方財政制度が維持されている限りは大丈夫です。町の行政水準というのはお金の有る無しよりもその行政が何を優先しているか?例えば兵庫県明石市は全国でも有数の子育て支援があるけれど財政指数は0.8で川口市の0.9より低いです。主権者自身が政策選択や行政運営で何を優先すべきかをしっかりさせていくという皆の合意があれば、もっと良い行政にできるということです。同時に国の財政がダメになったらどうしようもなくなってしまうので、国の財政で収入をしっかりさせることで全国的に安定させる。その2つを両立させることが大事です。


渡辺先生の講演を聞いて国が公務を放棄していく様子が分かってきました。
「公共サービスの産業化」などなかなかの衝撃でした。たくさん借金を作って自転車操業をしている現状で公務を企業の仕事にして切り崩していくのは最初に言われていた「こうしよう」「こういう社会がいい」というビジョンが足らないのかと思えます。

休憩後に二部が始まります。それは次のnoteで書きたいと思います。
どうぞ次もご覧になってください。

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予告

会議(署名集約・集計作業あり)
5月16日(日)14時~16時半
生涯学習プラザ 2階 講座室3
(埼玉県川口市上青木西1丁目2−25)

市役所前スタンディング
5月17日(月)10時~11時
市役所前
(埼玉県川口市幸町1丁目6−17)

自分も活動したいという方、力を貸してやろうという方
どうぞご参加下さい。よろしくお願いいたします。


サポートはとても助かります。チラシやポスターを印刷したり勉強会の場所を借りたり活発な活動ができるようになります。100円でもありがたいのでどうかよろしくお願いいたします。