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【初心者珈琲屋店員🔰の日常】五日目


お褒め

唐突だが、嬉しいことがあったのだ。

その日は早くに休憩を終え、レジに立ちお客様を待っていた。
ガラガラ、と扉が開くと、立っていたのは白いシャツを着た、シンプルな恰好の女性。
店長がその方へ「おー、Aさん おつかれ」と声をかけた。
親しい方なのかと思い後ろを振り向くと、「この店舗で働くAさん。土日に入ってくれることが多いよ」と店長は言った。(店舗バレ防止のため仮名。)

「初めまして。9月から働かせていただいております、霧村と申します。」

これまで店長以外の従業員とお会いしたことがなかったため、私はずいぶん緊張していた。

「初めまして。Aです。」

「今日は休みなの?」そう店長が聞くと、いえ休憩で、これ食べたくなって、とはにかんだ表情でレジ前に置いている焼き菓子・ナッツキャラメリゼを手に取った。

それはわたしも大好きな焼き菓子で、コーヒーにはもちろん、キャラメルの風味がワインにも合いそうで、いつか合わせて飲みたい一品なのだ。

いかんいかん、話が逸れてしまった

レジにそれらを通すと、社割があると聞いていた私は割引をしようとした。が、教わってから初めての実践だったこともあり、頭からすっぽり抜け落ちてしまう。

「店長…、割引、どのボタンでしたっけ?」
「ここよここ。会計押して、値引きから割引に移って、10%。」
「ここですか!ありがとうございます」

それを見ていたAさんがひとこと。
「物覚え、早いね…?」

物凄く、嬉しかった。
ここに勤務して五日目。
5連勤目の最終日のふとしたひとこと、これを一言一句憶えているほどに、とても嬉しかった。

褒められたの初めてだったな、とその時気づいた。

フォームミルク

閉店が近づき、コーヒーマシンの清掃業務中。
私には、ずっと気になっているのみものがあった。
それはコーヒーマシンで泡立てる、柔らかく泡立つミルクである。


(画像はイメージ。ある日のコーヒー)

ある日、いつものようにシンクのそばへ銀のカップに入ったミルクが置かれ、おそるおそる店長へ声をかけた。
(閉店作業中はコーヒーの締め作業を店長が、洗い物を私が、淡々とこなすのである。)

「あの…、これ、少しのんでみてもいいですか?」
「フォームミルク?いいよ、好きなようにのみな」
牛乳を泡立てただけよ、店長はそう付け加えていたが、わたしはもうそのフォームミルクに釘付けだった。
柔らかく泡立ったミルク。
すこし温かく、カップを持ち上げるとふわふわとやさしく揺れる、白いのみもの。

もちろん元は一般的な牛乳であることは知っていて、何なら筆者は牛乳をのまないため(嫌いなのではなく、豆乳を好むので買わないのだ)、普段はそこまで心躍るのみものではない。

けれど、それは最初に存在を確認した時から、ずっとわたしの心をギュッと掴んでいた。
シンクの前、立ったまま少しだけ口をつける。それは思っていたよりも柔らかく、やさしく、甘い。
続けてごく、ごく、と喉を小さく鳴らし、手元に置いていたコーヒー(試飲用に淹れたもの)にほんの少し、流し入れた。

コーヒーに自然に混ざるそれはうっとりするほど綺麗で、これまた待ちきれずに一気に仰いだ。

久しぶりに牛乳をのんだからか、そのあとは少し腹を痛めてしまった。
今度からは2杯くらいで止めておこう、とそう思った。

「任せるね。」

「今日、会議があって私も参加するから、最後締め作業任せるね。」

閉店後、ふいに店長がそう言ったため、わたしはとてもびっくりしてしまった。
聞いてみると、任されるのは閉店から退勤までの30分間。
いつもの締め作業を終わらせ、「終わったら帰ってていいから」とのことだった。

勤め始めて5日目。
締め作業も4日分経験しているので問題はなさそうだった。だが、5日目にして(30分間だが)任されたことによって、がぜんやる気が湧いてきた。
(ちなみに筆者は上記の任されるスピードが早いのか遅いのか、よくわからない。)
だがとてつもなく嬉しい。
「任せられるようになってきた」と言っていただけたような気さえする(それは思いすぎか)。

「じゃあ、会議行って来やす」
「行ってらっしゃい!」

エプロンをザッと外した店長の背中を見つめながら、わたしはふぅ、と息を吐き、閉店準備へと向かう。
先ずは手順を確認し、掃除、洗い、シンクの汚れ落とし。そして諸々終わらせたあとにスポンジを煮沸消毒し、ガスの元栓を閉める。

二度ほど確認し、退勤の時間を確認。
退勤まですこし時間を残すほど。ちょうど良きタイミングで終えることができ、とてもほっとしたのだった。

最後は奥の席で会議をしていた店長や上司に「お疲れ様です!」と声をかけ、颯爽と去っていくことができた。

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P.S.後日談
次の日店舗へ出勤すると、店長から「煮沸と元栓もしてくれていたんだね。ばっちりじゃん。」と声をかけていただいた。

めちゃくちゃ嬉しい……!
すこしずつ成長し、それを店長にも見ていただけたらいいなと思う。
そうして私ははやく、一人前になりたい。


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