太宰治の「斜陽」読んだ


淡い牡丹色のセエタと蛇

率直な感想。終盤まで「火垂るの墓」の大人版かと思った。
ラストの奇妙な清々しさは圧巻だった。

先細りの破滅的な大人たちの行動、終始理解に苦しみいっそのこと
俺の体調がピークに悪い日の夜に合わせて読もうと調節して読んだ。

太宰治は「なにか」をベースに投影して重ねた朧げな光と影の輪郭を
そろりそろりと活字にした、そんな不気味な人間的手触りがあった。

「斜陽」を読もうと思ったきっかけがTwitterで流れてきた



https://x.com/itohk4/status/1747576168927359194?s=61&t=-3eR49oSRUP2XQTbGFXFdg

「太宰治の『斜陽』の言葉遣いがダメだね。体操しろ」←これを見かけたから

読んで思った。
三島由紀夫の指摘通り上流階級の人々の描写、というよりは
時世の波で成り上がったとある一般家庭の滅びの質感に近く、
庶民向けの小説として大衆受けするように人物像を練り上げたのか
これが太宰治の想像する上流階級の「嘆き」なのか判別がつかなかった。

メロス以来2作品目なので太宰治を掴みきれなかった。

「斜陽」より半世紀ほど前の出来事、明治維新の頃“時勢”に乗り損ねてみるみるうちに萎んでしまった一族も多かったはず。
それを思うと、二度目の「潮目の変化」である戦後早々に、ある家族の滅びを捉えた太宰治の感覚は作家として鋭敏なのかもしれない。

なんで戦後の日本人はこぞって「斜陽」を読んだ!?
「革命的生き方」
「新しい経財感覚(社会主義)の兆しを見出す主人公」が大衆にウケたのかな〜

うちの本棚には、昭和21年以降に刷られた文庫本が幾つか揃ってる。
親戚宅の遺品整理の際に、戦後直後〜昭和中期の作品を十数冊引き継いだ。

この時代の小説はどれも面白く、個人的に最も好きな時代である。
明治〜戦前ほど遠くなく、かといって混沌とした様相の戦後(現代)小説は
人々が新しい時代を強かに儚く生きようと懸命に「適応」していく作風が気に入っている。

その中に「斜陽」を羅列しようと思うと、
かなり荒削りで物足りないように感じた。

好みの問題だと思う。

次に読み返すのは数年先だと思う。不思議な作品だった。

読んでる間、退屈はしなかった。
むしろ先が気になってスルスルと読めてしまった。
その中には気に入った表現も幾つかある。


「陽の光が、まるで東京と違うじゃないの。光線が絹ごしされてるみたい」

斜陽より

窓から梅の花びらが吹き込んできて、お茶碗の中にはいって濡れた

斜陽より

恋、と書いたら、あと、書けなくなった

斜陽より

死の手触りはゾッとするほど巧く、
太宰治はきっと何度も死に立ち会った人なのかなと想像した。
物語の範囲と広げ方も狭くきっちりしていて、好みだった。

この母姉弟は、揃って芸術家に惹かれてそこには貴賎のないこと
大変に愚かで貴族的素養薄く、ただただ世間知らずで不器用なこと
戦争はつまらないと言ってること、刹那主義を漂わせてること
女主人公がやたらとロシア書籍を好みながら聖書の引用の多いこと
29歳の自分をおばあちゃんと呼びながら、伊豆の人々から「お嬢さん」と呼ばれること
将校さんからよくしてもらった時に差し出された「トロイカ」の文庫本
新聞を読んだお母様の陛下への反応はどこか地続きある系譜を予感させる慈しみのあること
それから上原の娘の目が大きいと描写されてること。

淡い牡丹色のセーターの良さを分かったかず子の心境は特に好き
(同級生のチクチク京言葉もセットで)

牡丹色ってどんな色だろうと読み終わった後に調べた。
綺麗な色だと思った。

庭にたくさん咲いたという夾竹桃の花言葉を調べて
「油断大敵」「危険な愛」「注意」「たくましい精神」が、
あまりにもかず子にぴったりで笑顔ブチ上げた。

そしてやっぱり、叔父に財産を掠め取られて伊豆に流されちゃったのかな?
些細なその一点が気になって仕方がなかった。


戦後の荒廃とした風景の中で自殺した弟と、新たな生命を宿す姉

戦後の新たな生命は華族と百姓の血を混ぜ逞しく生きるニュータイプとなるのだろう

そういえば、この姉弟は同じ分量の血を共有しながら性別にも生きる強さと、
悲しくも淘汰されゆく生命の対比に太宰治は「性差」のはたらきを深く知ってるんだと感じ入る。

進学先に理系を選ばなかった弟はその時点で、詰んでいたのかもしれない。
もしくは戦争と死をすでに予感して、それらを退廃的観点から身一杯表現して衰退するべく
芸術畑へ身を投じたのか。

斜陽を読んだ次は本物のお嬢様・白蓮の人生を読みてえ。

白蓮事件の出奔先の家が孫文や蒋介石と親しい関係にあって
チャイナ服を着て微笑む白蓮の写真が印象に残る。
社会主義に身を投じ筆に生きた白蓮とはどんな人なんだろう。

そう思った。

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