日本代表対コスタリカ代表 雑記

日本代表対コスタリカ代表戦は、試合前から両チームともに前半0-0を許容する戦術を採用することが予想されていた。

コスタリカ代表はスペイン代表戦で0-7と大敗し、選手のメンタルに深刻なダメージを受けていた。もし日本代表戦で序盤に失点すると、立て直し不能な精神的打撃を受ける可能性が高かったのである。

前線に信頼できるゴールゲッターがいないため積極策は困難。ルイス・フェルナンド・スエレス監督すれば前半は守備を固めて選手たちの自信を回復させ、後半に勝負を賭ける以外の選択肢は取りづらい状況だった。

そのことは森保監督にとっても予想の容易な話である。それでは前半は守り倒すコスタリカ代表にどう対応するか。ファビオ・カペッロとジョゼ・モウリーニョの信奉者である森保監督に強攻策はない。となると答えは慎重策となる。

勝たなければいけないコスタリカ代表は、0-0で前半を終えれば後半には前に出てこざるをえない。そこをカウンターで仕留めようというゲームプランになるのも、また容易に想像できる話ではあった。


日本代表にとって一番つまらない試合展開は、前半に猛攻を仕掛けたにもかかわらず0-0でコスタリカ代表に守りきられた上、引き分けでもOKとルイス・フェルナンド・スエレス監督に割り切られてしまうことだ。さらにカウンターで失点などしたら目も当てられない。

冨安、酒井が怪我のため、日本代表は試合終盤に吉田のパワープレーというオプションも使えなくなった。前半に中途半端な仕掛けは逆効果になる見込みが高かったのである。

事実、日本代表とコスタリカ代表の双方が、戦前の予想通り、ゴールへの欲求に乏しい腰の引けた戦術を採用していた。まずはコスタリカ代表について解説する。

コスタリカ代表は5-4-1で守備を固めてセットプレーにすべてを賭けていた。上手くはいかなかったが、試合開始時でも身長196センチの巨漢CBケンダル・ワストンを前線に配置したデザイン・キックオフ・プレーを仕掛けてきていた。

セットプレーのためにファールをもらう仕掛けとして、左サイドでは左SHジョエル・キャンベルが左SBブライアン・オビエドが、右サイドでは右SBケイシャー・フジェールと右SHジェルソン・トーレスがポジションを入れ替えて、小柄な右SH堂安、左SB長友とミスマッチをつくっていた。

解説の本田圭佑に弱点扱いされていたフジェールだが、身体能力が高くボールキープ能力にも優れている。183センチと体格があり、浅野とスプリント勝負しても走り負けないスピードを備えており、クロスにファーサイドで合わせてゴールするプレーを得意としていた。

キック精度など技術面に問題があるため国内リーグから出られずにいるが、日本代表戦ではトーレスとポジションを入れ替えてフィニッシャーの役割も与えられていた。実際、その動きが実ったのが後半36分の決勝ゴールである。


余談だが、本田圭佑の解説は間違いが多い。コスタリカ代表の選手たちはまだしも、相馬のことすら知らないという事前のインプットの無さは悲惨の一言。解説者としてのプロ意識がまるで見られれず、「プロフェッショナルとはケイスケホンダ」とはなんだったのかと問いかけたくなる。

初見の選手たちの試合で、リアルタイムに全体の分析をしつつ個々の選手のプレースタイルを読み取るなどトップレベルのプロスカウトでも不可能だ。当然無理にやろうとすれば、どちらも雑な印象論しかアウトプットできなくなる。

それでは日本代表について。好意的に見ても「意図的な無策」と言って良い内容である。コーチ陣から具体的な指示があったとは思えず、前半はただひたすら選手間の調整に費やされた。

あまり具体的に述べたい話ではないが、一通りの流れを解説する。試合開始当初は攻撃時に守田が2列目に上がった4-1-4-1気味の布陣だった。

この4-1-4-1は選手たちの戦術理解力に優れていないと機能しにくいシステムである。1トップのサポートを行うかで役割分担がはっきりしていないと問題が負いやすい。当然だがコスタリカ代表戦では酷いことになった。

まず1トップの上田が頻繁に持ち場を離れていた。こういう場合、中盤の選手が代わりにゴール前に顔を出せば良いのだが、相馬と堂安はサイドに張り付き、守田と鎌田は2ラインの間を漂っていた。

両SBもサイドに開いていたため遠藤が孤立し、効果的に幅を使えず、攻撃に縦の奥行きも消滅していた。

これに対して選手たちが即座に修正に動く、上田は前線に戻り、堂安と相馬の中央へ絞り、ゴール前に大渋滞が発生した。

選手も馬鹿ではないので問題をすぐに把握できるのだが、個人個人がバラバラに修正を行うので余計に混乱が起きていた。比較的に周りの見えている鎌田が修正したかと思えば、他の選手が動いてまたバランスを崩す、前半はこの繰り返しだった。

そうやって日本代表がグダグダやってる間に自信を回復させたコスタリカ代表が前半20分ごろからポゼッションして試合の主導権を奪った。

コスタリカ代表はジョエル・キャンベルを堂安とミスマッチさせてサイドに攻撃の基点を作ることに成功。堂安も体格差を考えずに身体をぶつけてボールを奪いにいって失敗し、逆に何度も突破を許していた。途中で自信喪失した堂安がプレスに行けなくなった時間帯も合ったくらいである。

そうして左サイドを崩し、こっそり右FW化していたフジェールが長友のところでフィニッシュを狙うというのがコスタリカ代表の攻め手だった。後半に長友と伊藤が交代させられたのは、このフジェールへの対処のためだろう。

右サイドで体格と守備能力の劣る堂安、山根を狙い撃ち。遠藤だけでは支えきれない。ファールをとられれば、ワストラの高さを活かしたセットプレーがある。さすがに森保監督も放置はできず、3-4-3にシステムを変更し、板倉をサイドの守備に回した。

ある意味予定調和とも言える前半は0-0で終了。コスタリカ代表はオーソドックスな3-4-3に戻す。対する日本代表は伊藤と浅野を投入して勝負をかけた。

前半の上田は、その万能性が裏目に出ていた。裏抜けもポストもできるというキャラクターがために周囲が上田の行動を予測できず、連携がほとんど取れなかった。

それに対して浅野は裏抜けマシーンという特長がはっきりしたFWである。他の選手は浅野に合わせることでスムーズに意思統一することができた。

後半は攻撃時に4-4-2への可変システムを見せていたコスタリカ代表をマンマークプレスで日本代表が圧倒。試合の主導権を握るがゴールを奪えず。

後半17分に三笘を投入。この三笘と伊藤の関係が結構な話題になっていたので解説しようと思う。

まず伊藤が三笘にパスをあまり出さなかった件だが、パスを出さなかったのは、後半20分にフジェールのオーバーラップに対して三笘が思いっきり守備をサボっていたのが原因だろう。

この試合でフジェールはフィニッシャーとして何度も攻め上がっていたが、このときは三笘がフジェールを見送っていた。吉田がカウンターを潰して事なきを得たが、三笘はその後も守備で身体を張ろうとせず、伊藤の信頼を失っていった。

伊藤からすると三笘のボールロスト=右SBフジェール+右SHアギレラとの1対2の速攻という展開が容易に想像できてしまう状況である。

三笘はパスを引き出す動きに乏しく、苦しい状況でボールを渡してもフジェールに寄せられてボールを戻すだけだった。伊藤がバックパスマシーンと揶揄されていたが、三笘は三笘でバックパスマシーン化していた。

コスタリカ代表も完全に見きっていて、日本代表の攻撃を左サイドに誘導するかのよう守っていた。サイドチェンジから三笘へ展開というパターンを阻止し。

この状況では伊藤に三苫へパスを出せというのは無理がある。伊藤自身のパス技術の問題はあるにしろ、0-0でOKの状況で1対2のカウンターを受けるリスクを背負ってマークを外せていない三笘にパスを出すなど正気の沙汰とはいえない。

攻撃のチャレンジは、守備のリスク管理ができてこそだ。リスク管理ができていないと伊藤が判断したため、三笘に攻撃のチャレンジの機会が訪れなかった。ただそれだけの話である。

結局は選手の戦術的柔軟性の差が試合の明暗を分けたと思う。

ボランチでプレーした5番のセルソ・ボルヘスはCBからCFまでこなす超オールラウンダー。セットプレーのキッカーとターゲットマンのどちらでも使えるという多才ぶり。

左CBのフランシスコ・カルボは「コスタリカの闘莉王」と言って良い攻撃参加の得意なCB。左SBでも起用可能なため3バック、4バックの両方で使える。

他の選手も複数のポジションでプレー可能で様々なシステムに適応できた。その代わりに何人かの選手は個のクオリティが低めではあったが。

選手の質では明らかに日本代表の方が勝っていた。しかし、選手が交代するたびに好不調の波が激しくなるなど、チームの成熟度で大きく見劣りがした。

正直この試合をどう評価してよいのかわからない。ゲームプランどおりの試合展開だった。だが要所要所で交代ミスがある。勝ってもおかしくない試合であり、引き分けでも不思議でない試合であり、負けても仕方のない試合でもあった。やはりよくわからない。

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