スクリーンショット_2020-03-14_3.28.56

3.11 「DJせいこう」が教えてくれること

3月11日、いとうせいこうさんがTBSラジオ「ACTION」に出演されていた。
(*3/18の「ACTION」放送前まではタイムフリーで聴けます。ぜひ聞いて欲しい)

ACTION | TBSラジオ | 2020/03/11/水 15:30-17:30 http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200311163323

3/11のことを振り返って話していた部分が印象的だった。
(以下、文字起こし)

下町の自分の家にいましたね。なのでまあ、被災していた方々にとっては、まあ、当事者ではないなという思いがあります。遠くから毎日毎日テレビであの状態を見ていた状態ですね。
あの時はみんなそうだったと思うけど、事態があまりに凄まじいので、明日ってことを考えられなくなっちゃったんですよ。10年後のことも考えられない。人って、未来のことを考えられないと、翻って今のアイデンティティがなくなっちゃうのよね。どうしていいかわからなくなっちゃう。みんな言葉を失っちゃってたし。(中略)僕はどうしても、生きてく上でのエネルギーがわかないわ、と思ってた時に、ラリー・ハードっていうDJが日本にきてくれて。そのまま帰っても良かったんだよ。アメリカ人はみんな帰ってる中で来てくれて。2時間くらい、なんの言葉もない、ビートだけを延々流したの。そしたら、ビートの方が雄弁だ!っていう気持ちになっちゃって。クサいこといわれたり弱気を言われるよりも、ただただ動物的な、心臓の音みたいなのを延々と繋いでるラリー・ハードを聞いてるうちに、俺も自分で調子をあげて何か言わなきゃなんないなと思って。今も、また今日もはじめたんですけど「DJせいこう」っていうアカウントを作って。
その時は東北の方も、音楽も聞けない状態じゃないですか。ツイッターだけ生きてたから。うそで、俺がDJだっていう嘘をついて、どんな曲でもリクエストしてくれたらかけるから、っていってはじまったの。そしたらもうみんなが。いろんな各地から、東北からも。今こういう曲が欲しいって。それが本当にある曲じゃなくても、たとえば10年後のこういう丘で聞く、小鳥の声が聞きたいって言われたら、それももうオンエアだ、って。それはラリー・ハードのおかげなんだよ。DJがあってMCがあるんだよ。先に音楽があって自分が励まされて、そういう形でできるグルーヴの中でできることないかなって。
今コロナの問題で、あの時とすっごい似てるから。みんなが何も言えなくなっちゃって。言葉も難しいじゃない。俺がラリー・ハードで感じたことはきっと無意識で感じていて。なんだか音楽が足りない、歌が足りないっていうのは人間にとって大事なことだと思うんですよ。それをDJせいこうっていう形でずっと張り付いてtwitterでやってたのは覚えてる。それが「想像ラジオ」になったのかどうかは自分でもよくわからない。なんか無意識の中にその時の思いはあったんじゃないかと思います。

DJせいこうのアカウントはこちら。

私自身も、東京にいた人間として、やはり何をしていいのかわからないなと思っていたときに、このアカウントを見て。思わずはんこを彫り出した。まだはんこ作家になって2ヶ月目くらいのことで、感銘を受けたという感情だけではんこを彫り、DJせいこうさんに画像を送った。するといつの間にか、それをアイコンにしてくれていた。

事態があまりに凄まじいと、明日のことを考えられない、10年後のことも考えられない。人って、未来のことを考えられないと、翻って今のアイデンティティがなくなっちゃう。これは改めて本当に、そういう気持ちだなあと思う。

せいこうさんの話を聞いて改めて、私はいつの間にかずいぶんと、勝手に、福島と遠い世界に身を置いているな…と感じた。当たり前だけどコロナはコロナで、東日本大震災は東日本大震災だけれど。どちらも人ごとじゃない、それぞれに、自分ごとだと思えるかどうか。そういうことなんだと思う。

311のときに自分がやろうとしたこと、それを今私ができているかどうか。311を勝手にものさしにして過ごしているけれど、3月11日にだけ思い出す自分ではいけないんじゃないかと思うのに、気がつけばまた311が来ている。そんな有様だ。

時が経つほどに記憶が遠くなっていって、私なんかが何かを書くなんておこがましいという気持ちになる。でも実際はそもそも、何かを書く資格も、書かない資格もない。だけどそれで口を閉ざしてしまったら、放棄してるのと同じだ。

最後に、せいこうDJ(当初は文字DJと呼んでいた)について過去の日記から抜粋。

被災地では今でも、避難所で生活していたり。
不便な生活な中で、PCに向かったり、音楽を聴いたりする環境がなかなかない人もいるかも知れない。
だからこそいとうせいこうさんが始めたのが文字DJ。
それはまさにラジオのDJのように、twitter上で「音」を流す。
「リスナー」からのツイートをリツイートして「読む」。
「流すよ」ってせいこうさんが言う。リスナーは想像する。すると音が聴こえる。それをDJに教える。それが文字DJの基本!すごいねこれ。

私の好きなツイートをいくつか。

3月15日
■福島から「疲れちゃったよ」のリプライ。だろうと思うよ。正直、俺でさえ布団かぶってうずくまってる時間が長いから。だから、この「番組」に本音くれよ。弱音くれよ。俺も泣きながらやってるよ。
■暗闇からお送りしてます、文字DJ。茨城から「踊ってます」情報届く。好き勝手に踊ったり歌ったりしてください。これはそういう「想像力の放送」です。
3月16日
■そうそう、このラジオは「24時間ずっと心に放送」なので、なんかもう泣きたいよとか、気合い入れたいよとか、遠慮なくリプライしといて。みんなもそれ読んで。俺が寝たりしてても「放送」は君の中で続いてるんだぜ。
■余震で眠れない人たちも多いみたい。早朝から起き出す人も。じゃあ、もう一曲お送りしとくよ。俺が一曲もタイトル知らないミスチルで「今日は時代変えなくていいよ」。歌詞の具合はみんなで考えてください。きっと優しい歌だよ。
■十年後のあの町、この村のにぎわいをON AIR中。聴こえるだろ?
■泣かせやがるぜ。 RT : 急に大ボリュームびっくりしたわ。【音量注意】ぐらい知らせてよ! RT @seikoitoDJ 十年後のあの町、この村のにぎわいをON AIR中。聴こえるだろ?
■もちろん、オンエア始めたぜ。 RT : 石巻出身の者です。港の活気が聴こえます。魚介加工工場のあの臭いにおいまでします。DJせいこう、リクエストしてもいいですか。穏やかな海の静かな潮騒を、もう一度、安らかに聴いてみたい。
3月18日
■深い黙祷をお届けしたぜ。 RT : //今日の14:46には、ボリュームマックスで、最高の沈黙の時間をお願いします。
■茨城からお便りいただきました。今は音楽聞けなくても大丈夫。水戸納豆のワラがかさかさいう音、流しとくよ。 RT : @seikoitoDJ なんかまだ音楽聴く気になれません。けど文字DJはつけっぱなしにしてるよ。はやく私の好きな曲が流れないかなー。

私が再掲する理由は、感動エピソードとして伝えたいわけじゃなくて、あの時の空気感と、これに救われたという気持ちのことを思い出しておきたいから。

いとうせいこうさんは今、雑誌「文藝」にて『福島モノローグ』を連載中。せいこうさんが福島に行って、その当時の話をひたすら「聞く」という内容だそう。自分はジャーナリストじゃないから、言いたくないことを無理やり聞きださないようにしている。取材相手が、言ったけれどやっぱり外に出したくない、という話は出さない。本人が出したい話しか出さないというやり方で書いているそう。読もう。

【連載】いとうせいこう『福島モノローグ』

【小説】いとうせいこう「想像ラジオ」

2013年、想像ラジオの出版に寄せて私が書いたブログ↓


『スキ』をしていただくとあなたにおすすめのチェコをランダムにお知らせします。 サポートいただいたお金は、チェコ共和国ではんこの旅をするための貯金にあてさせていただきます。