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仏教音楽<声明>を音楽好きの耳で聴いてみる

自分の属性について語るとき、現在は「民俗芸能好き」を名乗ることが多いですが、お祭りや芸能にハマる前は長い間「音楽好き」の人でした。

好きな音楽ジャンルは色々あれど基本は雑食で、ジャンルとジャンルの狭間にあるような音楽やジャンル分けが難しい音楽に興味が湧くタイプ

例えばブックオフで中古CDを物色する時は最初に「その他」コーナーを見るタイプの人間といえばわかりやすいのでしょうか。

レコード屋のジャンル分けって店によって様々ですが、「ドキュメンタリー」というコーナーが一番わくわくするタイプの人間です。

声明(お経)は以前から好きで聴いていたのですが、神仏が好きになってからさらに声明好きが加速し、2022年末頃から2023年にかけてはかなりの数の声明CDを買って聴きまくりました。

特にハマっていた半年間くらいは毎日声明ばかり聴いていて他の音楽を一切聴いていない時期があったくらい。

そして、世の中にこんな多種多様な声明CDがあるのかよ!と驚いた。

私のように趣味として愛好している層の他に、勉強や研究のためにお坊さんが聴いていたり、毎日の勤行用(家の仏壇の前でお経を唱えたいけれど自分では難しいのでCDを流す)などの用途があるということも知った。

むしろ趣味で聴いている層の方が少数派かもしれない。

そんな趣味の耳で聴いた中で特にこれが良かった!というものをいくつか紹介します。


1.高野山の声明 常楽会

一番最初に好きになったのはこのCDに収録されている「舎利禮」というお経。

「舎利(仏舎利)」というのはお釈迦様の遺骨のことで、お釈迦様が亡くなられた時に皆が欲しがったため八等分にされ、その後八万四千の舎利塔が建てられたという伝説(?)にもなっています。

「禮」は「礼」で、このCDでは「舎利禮」という表記ですが「舎利礼文」というお釈迦様の遺骨をありがたいものとして拝むお経のようです。

72文字の短い経典を何度も繰り返し誦されますが、徐々に激しさを増す読誦!リズムが最高に気持ちよくて永遠に聴いていたい。

経典の原文も美しいのですが、意訳も美しい…これを聴いて気に入ったら経典の内容もぜひ調べてみてください。

このCDは高野山での「常楽会」という法会を収録したもので、いくつかの流派に分かれている真言宗声明のうち「南山進流」によるものです。

発売元である「ビクター伝統文化振興財団」は素晴らしい作品を多数出しているので、声明気になるけど何から聴いたらわからないという人にはこのシリーズをまずはおすすめします!

「醍醐寺の声明(真言宗醍醐派)」「比叡山延暦寺の声明(天台宗)」をあわせて聴いて各宗派の違いを楽しむのが入門編として良いかと思います。


2.比叡の響

企画・制作がNHKサービスセンターで1993年に発売されたCDです。

「こころのサウンドスケープ」というシリーズのようで、ジャケからしてもニューエイジ系とかヒーリングミュージック的な雰囲気を醸してますね…

公式のページがなかったので中古CDの販売ページを貼りましたが、ご覧のとおり激安で買えます。
だがしかし内容はめっちゃ良いです。おすすめです。

比叡山での完全収録で、1曲目は小川のせせらぎと鳥のさえずりから始まり、清々しい早朝の山の風景が浮かびます。
朝一番にこのCDを聴くと気持ちいいんですよ…

せせらぎや鳥の声と重なりあう声明、護摩の火がはぜる音、金剛杵を鳴らす音、様々な風景を織り交ぜながら進む素晴らしいフィールドレコーディング作品。

収録されているのは、三礼如来唄、法華経神力品、四智漢語ノ讃、観音経、般若心経。

余談ですが、この記事のサムネになっているタヌキの写真は比叡山で撮ったものです。
このCDを聴いていると、またあの空気を吸いに延暦寺に行きたいなぁとたびたび思う。

最後に、ブックレットにある一文を転載します。
「山川草木悉皆成仏。自然が奏でるやさしい音色そして、声明と読経のこころが調和する”響の世界”をお楽しみください」


3.密教 阿字観瞑想

私が持っているのはユニバーサルミュージックから2003年に出たものですが、ジャケ違いでマーキュリーから出ているCDと赤い箱入りのレコードBOXもあります。(内容は同じ)

高野山での実況録音で、昭和50年〜52年に録音されたもの。

内容は、
①理趣経とその現代語訳の読経
②修行道場での勤行
③瞑想法の説明と実修
④空海が請来したという五鈷鈴の音が収録されています。

「理趣経」は、誦み方も解釈もとても難しく、厳しい修行を経なければ誦んではいけないほど功徳が大きいと言われている密教の経典。

このCDに収録されているのは、高野山の法会の中でも最も起源が古く重要な「大曼荼羅供」と、一週間かけて執り行う滅罪生善の法会「不断経」で録音されたもの。

理趣経は人気が高いので解説本やCDもたくさん出ているのですが、私はこのCDの理趣経がとても好き。めちゃくちゃかっこいいんです…

ただ、現代語訳の読経が被っている部分が多いので、訳のない元の録音が聴きたい…そしてフルバージョンが聴きたい…(収録は六段と十七段のみ)

不断経  高野山、真夏の風物詩「不断経」が始まりました。本日7日より一週間、伽藍金堂で9時より行われます。法会では、白襲(しろがさね)に身を包んだ若い僧侶が高らかに唱える長音理趣経の頭(とう)につづき、山内人住職がつとめる職衆が金堂内を行...

Posted by 高野山 金剛峯寺 Koyasan Kongobuji on Thursday, August 7, 2014

氷点下の奥之院 玉川で高野山専修学院の修行僧が水行に臨みました。 まもなく1年間の僧堂生活を終える彼らにとって、厳寒の行は深く記憶に刻まれることでしょう。

Posted by 高野山 金剛峯寺 Koyasan Kongobuji on Sunday, February 26, 2023

高野山金剛峯寺のfacebookはいつも写真が素晴らしいのですが、⬆️の寒行の写真が好きすぎる。10000いいねしたい。

あと理趣経といえば、「大般若転読会」というたいへんありがたい法会があるのですが、今年初めて随喜できたよろこび…(下記ツイート)
真言宗のお経を生で聴いたのもこの時が初めてだったのですが、むちゃくちゃかっこよくて感動しました。
本山にはまだ行ったことがないので行って声明浴びまくりたい…

CDの話に戻ると、瞑想法の説明と実修には「阿字観」「阿息観」「月輪観」という3つの瞑想法が収録されているのですが、解説の山崎泰廣大阿闍梨の関西訛りの柔らかい喋りで、瞑想しなくても聞いているだけで気持ちよくなってきます…

私は在宅で仕事しながらこのCDをよく流しているのですが、リラックスしつつ集中も出来てとてもよい。
濃い内容かつボリュームもあるCDなので、たっぷり楽しめると思います!


4.萬福寺の梵唄~黄檗宗声明の世界~

禅宗の一派である黄檗宗の大本山、萬福寺。
黄檗宗では声明とは呼ばずに「梵唄(ぼんばい)」と呼ぶそうなのですが、聴いていても独特の節があり「唄」っぽさを感じるお経です。

黄檗宗の梵唄の特徴はいくつかあるのですが、漢字の読み方が中国語由来の唐音というもので、例えば「般若波羅蜜多心経」は「ポゼポロミトシンキン」と読むなど。

あとは、使われる楽器(鳴り物)の種類が豊富で全体的に賑やかな印象。
所謂「声明」と比べるとリズムも節もある梵唄は、音楽として聴きやすいのではないかと思います。

他の声明聴いてみたけどいまいち好きなやつわからんという場合は、梵唄も聞いてみてください。また違った世界があって面白い。

黄檗宗梵唄の音源としては他に「念仏禅 黄檗梵唄のすべて」という3枚組みのLP BOXがあって、これも素晴らしい内容なのでもし見かけたら(高くなければ)買ってみることをおすすめします!

また、萬福寺はランタンフェスなどの楽しげなイベントも頻繁に行っていて、かなりウェイなお寺なのではないかと想像している。(行ってみたい)

でもウェイなのかな?と思わせて、基本の教えは真面目に良いことを言っているので、黄檗宗ってなんなんだと俄然興味が湧きます…
禅宗だし修行もけっこう厳しかったりするのかもしれません。

黄檗宗の教え「唯心」
黄檗宗では、人は生まれつき悟りを持っているとされる「正法眼蔵」という考えがあります。
その真理にたどり着くためには、自分自身の心に向き合うことであるというのが黄檗宗の教えです。
黄檗宗を含む禅宗は、自分の心の中に存在している阿弥陀仏に気づくことが根本的な目的で、そのために必要なのが「坐禅」だとされています。

黄檗宗大本山 萬福寺


5.高野山の声明 謂立論議 山王院月次問講

高野山どんだけ好きやねんと突っ込まれそうですが、そうです高野山の声明が好きなんです。

このCDは半年前くらいに買ってたまに聴いていたのですが、つい最近これの1曲目がめちゃくちゃかっこいいなと気づいて、それから中毒のように聴きまくっております。

そもそも「謂立論議」とは何ぞや?というところですが、解説書によると以下のようなものだそう。

仏教の教えを民衆に触れさせようとする”法会”という儀式の他に「論議」と呼ばれる儀式が存在する。
論議とは、難解な大乗仏教の教理やその実践の理論的理解を深めるため、または自らの仏教理解が正しいものであるかを確認するため、そして僧侶の立身出世のために、経典に説かれている教えをテーマとして、互いに議論を戦わせる問答であり…(以下省略)

「論議」というものについて、私はこのCDで初めて知りました。
雑な言い方ですが、「真剣お坊さん喋り場」みたいなやつ?という想像。
めちゃくちゃ楽しそう。見に行ってみたい。(難しすぎてついていけないと思うが)

しかも、その問答をふつうに喋るのではなくお経のような節をつけて論戦するという。

それをCDにして発売したのも凄いなと思う。マニア向けすぎるやろ…
私はただ音楽として楽しんでいるだけですが、論議の内容がわかる人が聞けばきっとさらに興味深いのでしょうね…

youtube topicにあったので1曲目の「唄/散華・対揚/明神講表白」を貼っておきます〜


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