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物語アイデア その2の1

題名(仮)「剣の王(立志編)」

あらすじ

①ダニエル・エベレットはアメリカ西海岸の大学で日本文化を専攻する大学生。アニメ・マンガオタクで忍者物が大好き。日本文化を専攻したのもその影響から。受講する授業の中で、宇野重明教授の中世日本の政治を扱う授業が大のお気に入り。気に入っている理由は、たまに忍者の話が出て来るから。

②ある日、宇野の授業中に突然ひとりの生徒が教室に乱入し、銃を乱射しだした。4人が被弾し、うち一人は腹部に命中。命にかかわる事態となる。

③騒然となる教室で、宇野は人間業とは思えない速さで犯人に迫り、あっという間に犯人を倒してしまう。宇野の繰り出した打撃はボクシングとも空手とも異なる低く重い独特な型であった。

④ダニエルはパニックになりながらも、腹部に被弾した学生を必死の思いで机の陰に運び、何とかできないかと机の陰から様子をうかがった。その時にちょうど宇野による犯人への一撃を目の当たりにする。

⑤宇野は倒した犯人へ一瞥もせず、腹部に被弾した学生の元へ走って向かった。そして負傷した学生の容態を確認する。その様子は、まるで救急救命医のように的確なもののように見えた。

⑥宇野は「出血が止まらない。救急車が来るまで持たない」とつぶやき、目を閉じて2~3秒悩んだ後、決意を固めた表情となり、その手で印を結び始めた。

⑦印を結び終えたあと、直ちに「胎蔵開帰血の理(たいぞうかいきけつのことわり)」と唱えると、血だまりと衣服に着いた血がみるみる体へと戻っていった。

⑧奇跡の光景にダニエルは目を丸くした。そしてマンガやアニメの世界に登場する様な忍術が実在することに、喜びを隠せなかった。ダニエルは宇野に向かって「あなたは忍者なのですね」と思わず訊ねた。宇野は鋭い目つきで「そんなものいない」と言って、術に集中した。ダニエルは色々と問いただしたかったが、今はそれどころではないと思いとどまった。

⑨救急隊が到着すると宇野は術を解き、憔悴しきった表情で床に座り込んだ。腹部に被弾した学生は病院で一命をとりとめた。犯人がこの凶行に及んだのは、私情のもつれから自暴自棄になったことによるものだった。

⑩後日、宇野による施術の様子を動画撮影していた学生により、その様子がSNSにアップされ、世間が“忍者が実在した!”と騒ぎになった。

⑪宇野は連日メディアから取材を受けることになったが、取材に対し何も語ることはなかった。ダニエルも最も近くで忍術を見ていた者として取材を受けることになる。ただ、ダニエルは宇野の英雄的行為に敬意を表し、「そんなことはなかった。アップされた動画は加工されたものだ」とあえて嘘をついた。また、あわよくばこれで恩を売って弟子にしてもらおうという下心も少しあった。

⑫一連の騒動が一段落した後、ダニエルはいつものように宇野の授業を受けていた。ダニエルはこの日の授業の後、宇野に弟子入り志願しようと心に決めており、前日の夜に日本映画などを参考に土下座の仕方について入念にリサーチし、練習を積んでいた。しかしこの日の授業の中盤、宇野は手に持っていた授業ノートを教壇に置き、唐突に学生に向かって授業とは関係ないことを話し始めた。

⑬「その強力な力のせいで、周辺国から危険視され、この世から殲滅せんと2千年にわたって度々攻撃され続けてきた民がいた。長年にわたる戦いの中でその民が出した答えは、この世界から見えなくなることで、ひっそりと静かに暮らすというものだった。私はいつかこの民をそこから連れ出し、広い世界を見てもらいたいと思っていた。もしこの教室の中に私の遺志を受け継いでくれる者がいるのなら、その場所を見つけ出し、その民をこの広い世界に連れ出してほしい。その場所にたどり着くのは極めて困難ではあるが。」

⑭宇野はそう言うと険しい表情になり、教室の窓の方を向いて「宇野一族は雑賀衆にて最強。よもや忘れたわけではあるまいな。」と日本語で叫んだ。

⑮教室の窓から見える木に、二人の黒ずくめの格好をした者が、一人は枝に逆さになってぶら下がり、もう一人はその枝に腕を組んで立ち、教室の方を見ていた。生徒がその二人の姿を認識した瞬間、窓ガラスが教室に向かって炸裂した。それとほぼ同時に教室内に強風が窓の方へ向かって吹き荒れ、ガラス片は生徒に当たることなく外へと散った。二人の黒ずくめの者と宇野の姿は、もうその場にはなかった。

⑯数日後、大学から100kmほど離れた砂漠で、宇野と黒ずくめの者の一人の死体が発見された。

⑰ダニエルは宇野の死にショックを受け、自室から出られないでいた。世間では本物の忍者が実在したと大騒ぎになっており、宇野が最後に残した“忍の里”についての様々な考察がネットメディアを中心に盛り上がった。

⑱騒ぎが収まったころ、毎日のように様子を見に来てくれていた大学の友人とようやく自室から出ることができた。その時ダニエルは、なぜか宇野の大学の研究室が無性に気になった。友人が言うには軍の関係者が全てを持ち去って何もないとのことだった。

⑲ダニエルはどうしても気になり、宇野の研究室へ向かった。研究室は友人の言う通り空っぽの状態で、鍵もかかっていなかった。何もないことに少し落胆して部屋から出ようとすると、背中越しに何かが落ちる音がした。振り返ってみると、勾玉が1個床に落ちていた。天井を見ても特に変わった様子はなかった。おそるおそる拾い上げた瞬間 “これを里へ届けてくれ” と宇野の声が聞こえた。驚いて近くにいた友人に「今の聞こえた?」と聞くと、キョトンとして「いや、何も」との返事が返ってきた。

⑳ダニエルは家に帰り、ベッドの上で勾玉を眺めていた。宇野の死のショックで消えていた “忍者になれるかも” という情熱が戻り始めていた。翌日ダニエルは忍の里を探すための計画を立て始める。

㉑ダニエルは英語講師の職をゲットし、日本で働くことになる。配属先は伊賀や甲賀が近い近畿圏や東海圏を希望したが、決まったのはよもやの島根県だった。少し落胆したものの、忍の里探しの第1歩に胸躍らせて日本へと向かった。ただ両親には真の目的は言ってなかった。

㉒日本での忍の里探しは困難を極めた。というより島根という日本の辺境で英語講師の安月給では、旅費の捻出もままならない。マンガ・アニメなどのオタク活動も難しく、経済的・精神的に疲弊していく。

㉓大好きな忍者アニメで主人公が口癖にしていた「忍者とは忍ぶ者なんだってよ」のセリフを心の支えに、この厳しい状況に耐え続けた。日本へ着て5年が経ち、日本語もペラペラになり、もともとダニエルは結構優秀な人だったので英会話学校でも中核を担う存在へとなっていた。ダニエルを取り巻く環境が安定化していくのと裏腹に、ダニエルの中で焦りが大きくなっていた。”このままでは忍者ではなく、英会話講師になるために日本に来たことになってしまう”と。

㉔焦りを抱えた中で受け持った小学生向けの授業で小学生の多々納正道と出会う。正道は地図オタクで、度々ダニエルにアメリカのマイナーな町や山などに関わるクイズを出題して困らせていた。

㉕ある日、正道はダニエルに向かって「この地図帳に載っている日本の市町村ごとの面積を全部足しても日本全体の面積と一致しないんだ」と困った様子で言った。ダニエルは心の中で “またくだらないことを” と思ったが、なぜかその時は気になって「どのくらいの差が出るの?」と聞き返した。「492㎢くらい。だいたい北九州市と同じ」と正道は答えた。これを聞いてダニエルの中で何かが閃いた。

㉖ダニエルは仕事が終わると同僚への挨拶もそこそこに、急いで自宅へと向かった。ダニエルの大学時代のルームメイト、セバスチャンが当時地球物理学を専攻していて、今は地震学の研究者になっているとSNSに載せていたことを思い出したのだ。自宅へ着くや否や急いでセバスチャンにコンタクトを取った。

㉗セバスチャンから翌日の日本時間で夜11時ごろならOKとの返事が来た。翌日の11時ごろZuumで久々の再会を果たす。再開の挨拶もそこそこにダニエルは、
「東日本大震災のとき、震源地を中心に日本のかなりの広範囲が移動したと聞いたことがあるんだ。それで移動した距離は震源地から離れるほど短くなっていく、そうだよね?」
と聞いた。
「ああその通りだよ。やっぱり君は学生時代と変わらず優秀だな。大学中退して日本で英語講師になると聞いた時は驚いたよ。」
「ありがとう。それでちょっと頼みがあるんだけど、震源地からの距離が離れるにつれて、それと反比例するように移動距離は短くなっていくと思うんだけど、震源地からの距離から考えて不自然に移動距離が短い場所がないか探してもらえないかな」
「うーん、それはなかなか大変だね。ただ移動距離のデータは手に入るから、時間はかかるけど何とかなるよ。ところでそんなこと調べてどうするの?」
「いやちょっと地震の多い日本に住んでいると地震に興味が出てきてね」
といったやり取りをして、セバスチャンによる解析結果を待つことになった。

㉘ダニエルは忍の里はこの世界とつながったまま、忍術で見えなくなっているだけではと考えた。宇野が見せた奇跡のような術がほかにもあるなら十分可能と考えたのだ。

㉙正道が見つけた面積の不一致についても、視神経乳頭上は視細胞が無く盲点となっているが、脳が画像処理をする際に見えない部分は補完されるため意識されないのと同じで、全体ではつじつまが合っているだけではないかと推測した。

㉚1か月後、セバスチャンから結果について知らせが来た。
「興味深いことが分かったよ、確かに君の言う通り不自然に移動距離が短くなっている場所が見つかったよ。」
「場所はどのあたりだった?」
「だいたい北緯36度12分、東経136度53分あたりだね」
ダニエルはゴーグルマップでこの場所を検索した。すると帰雲城と出た。
「この場所に、どのくらいの面積の土地が存在したなら、不自然さは解消される?」
「そうだな、ざっと470㎢~520㎢てとこかな」
正道の言った面積ともだいたい一致した。

㉛帰雲城を調べると、天正13年の地震で城と城下町が消滅していたことが分かった。ダニエルの中ではここが忍の里であるとの確信に変わっていた。

㉜数日後ダニエルは帰雲城へ向かった。現地で乗ったタクシーでは、運転手がダニエルのことを観光客だと思い、親切心から帰雲城の近くにある世界遺産の白川郷について話をした。しかしダニエルはその話には全く興味を示さないため、運転手は戸惑っていた。

㉝ダニエルは帰雲城城址(実際はどこかわかっていない)やその周辺をくまなく探して回った。現地住民が実は忍者なのではと、行き交う住民を凝視し、気味悪がられたりもした。最初から1日で見つけられるとは思っておらず、地元の安宿に泊まって1週間粘った。しかし何の手掛かりもなく最終日を迎えた。変な外国人がいるとの噂を耳にしていた安宿の女将は、宿泊最終日にダニエルを見送って安堵した。

㉞宿を出た後、ダニエルは帰雲川の川岸に座って呆然としていた。連日の散策で体がボロボロで疲れ切っていたこともあるが、何より何の手掛かりも得られなかったことに落胆していた。近くの橋桁ではダニエルを怪しんで監視している地元青年団の有志2名と駐在警官1名がいた。

㉟ダニエルはふと思い出して、宇野の研究室で拾った勾玉を取り出し、空に向かって掲げた。美しいターコイズブルーを見ると疲れが少し和らいだように感じた。勾玉の穴に意識を向けたとき、穴から除く空とその周りの空が微妙に違うことに気が付いた。

㊱驚いて思わず立ち上がる。それを見た橋桁の3人に緊張が走る。勾玉の向きを変えると背景と完全に違う景色が見えていた。

㊲ダニエルは恐る恐る勾玉の穴に指を差し込んだ。するとダニエルはいつの間にか別の場所に立っていた。ダニエルは高台に立っており、眼下には白川郷とそっくりな集落が広がっていた。それが白川郷でないとの確信が持てたのは、そこの住民の纏う装束が戦国時代のものとそっくりであったからだった。

㊳橋桁の3人はダニエルが目の前から突然消えてパニックに陥っていた。

ダニエル・エベレット
アメリカ西海岸側にある結構いい大学の学生。ごく普通の家庭で育つ。幼いころ、人や物にたかる “虫のようなもの” が見えていた。幼いころは本物の虫とほぼ見分けがついておらず、本物の虫を捕まえるようにこの “虫のようなもの” を捕まえて遊んだりしていた。ただ周りの大人にはこの “虫のようなもの” は見えておらず、両親を度々心配させていた。成長するにつれてこの “虫のようなもの” は徐々に見える数が減り、見え方も徐々に薄ぼんやりとしていき、さらに触ることもできなくなっていった。大学生になってからはほとんど見えていなかったが、宇野教授の周辺には度々現れているのを目撃し、不思議に思っていた。日本の忍者漫画「キントキ」の大ファン。アニメ・マンガのオタクで、日本でアニメ・マンガ三昧の日々を送ることを夢見ている。大学では成績優秀者として友人・知人の間で一目置かれている。身長185cmの瘦せ型。大学で日本の古流剣術のサークルに入っており、腕前は “中の上” 程度。語学の能力が高く、日本に来て5年でネイティブ並みに読み書きができるようになる。

宇野重明(うのしげあき)
中世比較文化史の教授。授業は分かりやすく、面白いので学生の間では人気の講義となっている。文化系の線の細い感じの出で立ちだが、死体の検視の際、とんでもなく鍛えられたボクサーのような肉体であることが判明する。さらにパスポートなどの身分証明書の内容など、経歴全てがでたらめで、出自の一切が不明であることも判明する。

多々納正道(ただのまさみち)
暇さえあれば地図を眺める、地図マニアの小学生。小学生ながらパソコン技能が高く、様々な地図情報を日々パソコンやタブレットで編集し保存している。ダニエルの英会話教室に通い出したのも、世界の土地を見て回りたいから。教養の高いダニエルに地図クイズを出すのを楽しみにしている。

セバスチャン・スチュアート
大学時代のダニエルとルームシェアしていた同級生。ダニエルが宇野の死にショックを受け部屋に閉じ篭った時も、心配して食事などの世話をしてくれた。大学卒業後に地震の研究者になる。

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