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【日記】凍り付いたラッパのお話|こどもの頃の日記から 32

197X年2月A日 月曜日

朝、Mさんにサインちょうをかえしてもらった。

ドイツ語で、あるお話が書いてあった。
きれいなラッパのえも書いて〔描いての誤記〕あった。

9時ごろ父と母は学校の Parents' Day に出かけていったので
私たちはお休みだった。

その間に私はたまっていた勉強とピアノのれんしゅうをした。
ピアノは「とてもよくひけましたとはいえません」と先生に
いわれてしまった。しかし、かの女はとてもやさしい。

あとでK先生〔短期滞在の日本人学者〕がいらっしゃった。
先生は私に学校のことをきかれたのでお話をした。

父は、私が学年で一番だとか、せいせきがとてもよいとか、
先生にしきりにじまんしてしゃべった。

4月ごろにK先生のお子さんたちがウィーンに来て私たちと
同じ学校に入るそうだ。むねがわくわくした。

夜、Mさんから、サインちょうに書いてくれたお話のいみを
おしえてもらった。
とてもすてきなお話だった。

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通っていたインターナショナルスクールの Parents' Day とは
担任の教師が生徒の両親(保護者)と面談する行事で、
ひと組ずつ日時が指定されていて、生徒は抜きだった。

日本の学校のような「授業参観日」は無かった。

また、親がこどもと一緒に先生に話したいことがあれば、
校長や担任あてに電話をすれば、いつでも時間を取ってくれた。

緊急を要する事は、すぐにセットしてもらえた。
スケート場で捻挫をして松葉杖で登校しなくてはならなかった時は
校長と担任の先生が父と母を学校に呼んでくれて、
医師からの注意事項などを父と母から直接、詳しく聞いてくれた。

さまざまな国籍と文化的背景のある生徒たちだから、
からだとこころの健康には特にこまやかな配慮をしてくれたのだろう。

日記には書いていないが、Parents Day から帰ってきた父に
「Sumi の作文はとても上手に書けていますが、
 プリンセスになって恋をする物語が多いですねって、
 Miss Rowland に言われたよ」と言われたことを憶えている。

母は何も言わなかった。
本当は、先生が両親に何を話したか、子どもには言わない
という原則があったらしい。

Mさんが「サインちょう」に書いてくれたお話は、
主人公がロシアの郵便馬車に乗って旅をした時、
郵便やさんがどんなに一生懸命ラッパを吹いてもあまりの寒さで
音が凍り付いて出なかったのに、ある宿場町で休憩をしていたら
ラッパも暖まり、誰も口をつけていないのに、ひとりでに
素晴らしいメロディーが流れ出した・・・
・・・というミュンヒハウゼンの物語だった。