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僕と私の内緒の世界


学校帰りは二人いつも一緒。
サトウキビ畑が続く学校の帰り道、二人はいつもお喋りしながらランドセルを担いで家に帰った。
傍からみると、私はブツブツと独り言をいいながら、たまに大笑いしている危ない小学生にしか見えない。
それももっともなこと、私が喋っている相手は誰にも見えないからだ。

ときどき同級生が一緒に帰ろうって誘ってきたが、今日は一人で帰ると云いいつも断っていた。二人の時間を邪魔されたくないのだ。

家に着くと、ランドセルを玄関に放り投げながらスミレに言った。
「よし、今日も海に行ってみよう! 昨日見つけた綺麗な貝殻、探せばもっと沢山見つかるかもよ」そう言うと、「綺麗な貝殻が見つかるかな?」って彼女も喜んだ。

二人は海へと続く、舗装されていないガタガタの坂道を歩いた。
坂を上り切るとその向こう側に、エメラルド・グリーンの海が見える。
海の香りが混じった風が首元をすり抜け、夏の暑さに滲んだ汗が少し引く感じがした。

「今日の海は昨日より明るいね」スミレが私に云う。
今日は雲一つない天気、ダイヤモンドが海面に散りばめられたかのうようにさざ波がキラキラと光る。
昨日は少し雲が出ていたので、その雲が時折太陽を隠し、程よく暑さを和らげていたのだけど、今日は雲ひとつない快晴。そして昨日よりも随分と暑かった。

砂浜に着いた二人。昨日と同じ場所で、綺麗な貝殻を探す。
「スミレ、あったよー」
「どれ、うーーん、ちょっと欠けてるね。でもキープしておくね」
もの凄い集中力で、二人は貝殻を探す。

ジリジリと昼下がりの太陽が二人を焦がす。さっきまで流れていた汗が止まったことも気づかない。

「なんか、ちょっと気持ち悪い」スミレが言い始めた。
囁くように呟いたスミレの声が遠いことに気付いたが、貝殻拾いに夢中になっていた私は、ちょっと休んでいてとスミレに言って貝殻拾いを続けた。

「(同じ体なのにどうやって休むの・・・・・)」

どれくらい時間が経ったのだろうか・・・。

「ん? 気持ち悪くなってきた・・・」

「スミレ、家に帰るか」
「・・・」
返事がない。

(歩くともっと気持ち悪い)

とにかく家に帰らなきゃ。
「スミレ!」
「・・・」

砂浜を離れ、ふらつく体で、来た道を戻る。
そして、坂道の途中・・・倒れた。

「スミレ」
「スミレ」
「どこ、スミレ」

薄れゆく意識の中で、私はスミレを呼び続けた・・・。

「スミレ」
「スミレ」
「・・・」

(つづく)

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