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世界最先端のイスラエルサイバーセキュリティ

8月31日午後9時に放送された、コンテンポラリーダンス留学で1年間イスラエルに来ていた森山未來さんがミステリーハンターとなる、「世界ふしぎ発見!」イスラエル編に刺激を受け、世界中が注目するイスラエルサイバーセキュリティ企業について本noteで紹介することにしました。

注目されるイスラエルサイバーセキュリティ

イスラエルでは、国防軍のサイバー部隊でその最先端のノウハウをたたき込まれた技術者が起業家となるため、世界有数の数多くの民間サイバーセキュリティ企業が存在する。また、優秀な上位約1%のみが配属されると言われる、サイバー諜報活動やサイバー攻撃・防衛を担っている精鋭部隊、8200部隊(やその卒業生)は、これまでに世界最先端のサイバーセキュリティの技術を開発してきた。イスラエルのサイバーセキュリティスタートアップへの世界からの注目度は益々高まっており、2018 年には、イスラエルサイバーセキュリティスタートアップの資金調達金額が、史上最高額となり、10 億ドルを超えた。近年のハイテク人材の超過需要と人件費高騰も相俟って、最近では、スタートアップがサイバーセキュリティを学ぶ高校生にも目を向け始めているとの報道が出るほど盛り上がっている。

サイバーセキュリティパークのベエル・シェバ

イスラエル南部のベエル・シェバと呼ばれる砂漠地帯には、大学、国防軍の技術開発拠点、リサーチパーク、企業の研究拠点が集まっており、特にサイバーセキュリティ分野に係る研究開発が進められている。

この地域においては、みずほ情報総研株式会社及び京都リサーチパークが、2019 年3 月17 日に、ベングリオン大学と連携する、イスラエルの先端技術パーク、Gav-Yam Negev Advanced Technologies Park と、先端技術を活用した日本-イスラエル間の新たなビジネス推進に向けた戦略的パートナーシップに関する業務協力覚書を締結し、日本-イスラエル間のビジネスニーズ、技術情報などの共有を通じて、日本企業とイスラエル企業の協業、共同研究開発の推進など、両国が継続的に連携できる体制の構築に取り組んでいる。

この地域のサイバーセキュリティ分野の研究開発促進には政府も相当力を入れており、2019年3月18日には、財務省、イノベーション庁、国家サイバー総局が、同ベエル・シェバにおいて、フィンテック・サイバーセキュリティ分野でのオープンイノベーションを実現する研究所を設置するプロジェクトについて、募集を開始した。同プロジェクトでは、選ばれた企業は、3年間の運営許可及び研究所開設・維持費として最大約1億7000万円までの助成金が与えられ、サイバー防衛の最先端組織であるCERT(Computer Emergency Response Team)のデータや知識も利用することができる。

2019年6月20日には、同ベエル・シェバにて、起業家の祭典SILICONEGEV ENTREPRENEURSHIP FESTIVALが開催され、大盛況だった。

イスラエルサイバーセキュリティの最近のトレンド

これまで、イスラエルサイバーセキュリティスタートアップは、早期のM&Aを目指すところが多かったが、近年、そのトレンドが変化しつつあり、多くのサイバーセキュリティスタートアップが、チェックポイントのような業界を牽引するリーディング企業を目指し始めている。8200部隊出身者で設立されたチェックポイントは、ナスダック上場企業で、世界トップクラスのインターネット・セキュリティ専門企業として知られている。

それは、2019年4月に、仮想コンテナセキュリティスタートアップAqua Security Software が6,200 万ドル、IoT セキュリティスタートアップArmis が6,500 万ドルという大型資金調達を実現したことからも読み取ることができる。また、同4月にはサイバーセキュリティのTufin Software Technologiesがニューヨーク証券取引所に上場した。その後、フリーランスサービスのオンラインマーケットプレイスのFiverrもニューヨーク証券取引所に上場したが、イスラエルの企業が米国の証券取引所で上場したのは2014年以来だった。今後は、益々、イスラエル企業の米国上場が増えていくと思われる。

日本、イスラエルでのサイバーセキュリティイベント

2017年5月に世界約100か国で行われた大規模サイバー攻撃では一部日本企業も影響を受け、日本の産業界を驚かせたが、日本でもサイバーセキュリティの必要性が繰り返し論じられている。

11月末のサイバーテック、6月末のサイバーウィークと呼ばれるサイバーセキュリティの2大イベントには、毎年日本企業を含めた世界中の企業が多数訪れる。

私が初めてサイバーウィークに参加したのは2017年6月だが、当時から多くの日本企業が訪れていた。今年は、6月23日~27日に行われ、その中で行われた日本イスラエルイベントには、多くの日本企業、イスラエルスタートアップが集まっていた。

サイバーテックはイスラエルで生まれた、世界最大級のサイバーセキュリティの国際会議である。2019年1月28日~30日にテルアビブで行われたサイバーテックも相変わらずの盛り上がりだったが、2018年11月末には、昨年に続いて2回目のサイバーテック東京が行われ、こちらも大盛況であった。特に、イスラエル大使館、デロイトイスラエル、私の所属する法律事務所の共同で行ったイスラエルハイテク産業への投資機会についてのセッションには、部屋に入りきらないほどの日本企業の方々が参加され、日本企業のイスラエル企業との協働への関心の高さを感じた。今年のサイバーテック東京は、11月26日、27日に開催される。

今月の9月16日には、産業用制御システムに特化したサイバーセキュリティに関するイベントである、ICS CYBERSEC 2019も開催される。

日本企業とイスラエルサイバーセキュリティスタートアップとの連携

日本企業との協業では、国防軍の諜報部隊8200部隊出身のメンバーで12年に設立され、2017年6月にソフトバンクが単独で1億ドルを追加出資した頃から知られ始めた、サイバーリーズンが有名である。

同社は、16年にソフトバンクとの合弁会社、サイバーリーズン・ジャパンを設立し、国内でも高いシェアを誇っている。システムへの侵入が避けられないことを前提に、AI(人工知能)を活用した独自の分析ノウハウを用いて、侵入後の悪意ある振舞いを検知・対処することによって攻撃を成立させない仕組みを提供している。先月8月5日には、ソフトバンクが単独で2億ドルを追加投資した。

サイバーリーズンは、6月に世界的な通信事業者の少なくとも10社に対するハッキングを発見したが、今回の資金調達を利用して今後の市場拡大と製品のアップグレードを図る。

他には、サイバーセキュリティ分野のシンクタンクと呼ばれる、8200部隊出身者らが設立したTeam8が、2018年10月、ウォルマート、エアバス、ソフトバンクらから8500万ドルを調達した。彼らは、世界的なセキュリティ連合を結成し、ビッグデータの活用を推進している。

直近では、販売代理店のアズジェントを通じて既に日本市場に参入していた、2019年7月に、自動運転のサイバーセキュリティスタートアップKaramba Security が、東証1部の電子部品製造メーカー、アルプスアルパインの子会社アルパインと提携した。

同社はインターネットを通じて車体制御ソフトの更新データなどをやりとりする自動車「コネクテッドカー」をサイバー攻撃から守るソフトの開発に力を入れており、同社のソフトは遠隔からの不正操作を防ぐために車載コンピューターの正常な振る舞いを学習し、不正な指令を検知する機能を持つ。

今回の提携の一環として,Karamba 社の技術がアルパインの車載インフォテイメントシステムに実装されると発表した。スマートフォンとの連携などのために無線通信機能を搭載する自動車が増え、サイバー攻撃を受けやすくなっていく中で、同社の技術は非常に注目されている。

2019年6月には、2017年設立のイスラエルの鉄道サイバーセキュリティスタートアップCylusが、Vertex Ventures、Magma Venture Partnersをリードインベスターとして、シリーズAにて1,200 万ドルを調達し、SBIも本ラウンドに参加した。

他にも多くの日本企業がイスラエルのサイバーセキュリティ企業と提携などを公表しているが、18年11月30日には、石田真敏総務大臣が、国家サイバー総局との間のサイバーセキュリティ分野における協力に関する覚書に署名しており、今後も益々、両国間の取組みは活発になると思われる。

その他の注目のサイバーセキュリティスタートアップ

・Clatory

設立:2014 年、累計調達額:9300 万ドル
産業用ネットワーク向けサイバーセキュリティプラットフォーム

・Aperio Systems 

設立:2016年、累計調達額:450 万ドル
重要な社会インフラや工場などをサイバー攻撃から守るシステム

・Cato Networks 

設立:2015年、累計調達額:12500 万ドル
ネットワークとセキュリティの機能をクラウドベースで提供

・Illusive Networks 

設立:2014年、累計調達額:3000 万ドル
偽の情報でサイバー攻撃者をだまし、罠へと誘い込む製品

・Deep Instinct 

設立:2015年、累計調達額:4910万ドル
深層学習とAIを使ったマルウェア対策製品

・Avanan

設立:2014年、累計調達額:4140 万ドル
利用者が直接使うことを想定したソフトウェア(SaaS)に係るクラウド型セキュリティプラットフォーム

・XM Cyber

設立:2016年、累計調達額:320万ドル
サイバー攻撃のシミュレーション・プラットフォーム

最後に

以前、スタートアップネーション、イスラエルがなぜ世界で注目されているのかについて紹介しましたので、ご興味がある方は以下もご覧ください。

また、私が所属するTMI総合法律事務所の数名が、日米のビジネス法務等について解説しているBizLawInfoというブログにも参加することになり、そちらで、イスラエルのエコシステム、各分野のスタートアップ、日本企業がイスラエルでのビジネスにおいて検討すべき法的問題点などについて紹介していきますので、よろしければフォローをお願いします。

さらに、Twitterで、イスラエル関連、スタートアップ関連、海外留学関連の情報を発信しておりますので、よろしければそちらも併せてフォローしていただけますと嬉しいです。

ご不明な点等がございましたら、是非ご連絡いただけますと嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

田中真人

Email: matanaka@tmi.gr.jp

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