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ビジュアルノベルゲーム好きの情報系大学院生が「AIのヒロインと対話する新しいゲーム」を制作している理由

お久しぶりです、もしくは始めまして、さまーらいとです。

最近は小説や研究活動の傍ら、「竹関工房」というサークルで「_turing」という作品の制作を行っています。(企画・シナリオ・自然言語処理周りの実装を担当しています)

この作品をつくるにあたり、色々と経緯だとか作品の目標だとか、そういうものがあったため、久しぶりにnoteを書いてみようかな、と思った次第です。
少しだけ時間をいただけたら幸いです。


ゲーム概要

今回制作している「_turing」は端的に言えば、
「一般的なノベルゲーム・ADVゲームの選択肢部分の代わりに、ヒロインとの対話を利用する」
というゲームです。

対話パートのデモ(画面は開発中のものです)

ヒロインを模した言語モデルを用意し、シナリオの合間にヒロインとの会話を楽しみつつ、その内容で分岐が行われる、という内容のアドベンチャーゲームになっています。

こちらの記事、あるいは公式twitterを見ていただく方がわかりやすいかもしれません。

自己紹介

自分の話

都内でぼんやりと文字を書いている理系の学生です。
最近は小説や映像・アニメ脚本の勉強をしながら、その手の新人賞に応募したりしています。
媒体問わず読む・観る・聴くのはなんでも好きです。
大学院を出た後は、物語を書いてご飯を食べていけたらな、と思っています。

普段は練習も兼ねて、様々なジャンルの物語を書いていますが、
「人工生命(特にアンドロイド)の生命倫理」をテーマにしたSF作品をつくることを人生における一つの目標にしており、そのための前提知識・資料を集めるために理系に進学し、自然言語処理に関する研究を行っています。(純粋な工学ではなく科学哲学等に進学するか迷った等、この辺りは話すと色々長くなります)

学部時代では筑波大学で「大規模言語モデルへのキャラクタ付与」について研究を行っていました。簡単に言えば、賢いLLMを賢いまま小説やゲームの登場人物っぽくする、という感じです。
現在は東工大の修士課程で、引き続き対話システムについて研究しています。

ゲーム制作チームの話

「竹関工房」は、僕の学部時代の友人・先輩を中心にしたゲーム制作チームです。主にノベルゲームやアドベンチャーゲームと呼ばれるジャンルの作品を制作しています。

現在メンバーは10人程度で、僕の個人的な友人だった他大学の院生・卒業生も加わっています。
僕以外にゲーム・エンタメの道に進もうとしている方もいないので、研究やお仕事の合間に作業してもらっているという形になります。ありがたや。


作品制作の背景

ノベルゲームの課題

普段自分が力を入れて取り組んでいるのは小説になりますが、もともと自分が活字や物語に興味を持ったきっかけはノベルゲーム、特に美少女ゲームと呼ばれる類の作品でした。
人工知能に関する物語を書きたい・研究を行いたいと考えた切っ掛けも、小学生の頃に触れた「planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜」に影響を受けてのものでした。

planetarian~ちいさなほしのゆめ~ ダウンロード版 _ My Nintendo Store ( https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000014771.html )より引用


そのような、自分が好んでいた美少女ゲームというものは、ある程度衰退傾向にあると考えています。
個人的な意見にはなりますが、最も大きな理由はそのハードルの高さです。
「シナリオを読む」という行為は、能動的かつ長時間を要する単純作業です。忙しい時にそれを忌避する、というのは自分も身に覚えがあります。


近年のADVゲーム

とはいえ、物語を読み進めていくゲームや、ヒロインとの会話を楽しむゲームそのものの価値は決して縮小していないと思います。
特にインディゲームの領域においては、しばしばADVの話題作が輩出されています。

たとえば、「NEEDY GIRL OVERDOSE」は、ヒロインとの会話・物語を楽しむキャラクター育成ゲームですが、そのデザインやシステムのユニークさから爆発的な話題を生みました。
ある種のインターネットカルチャーを全面に押し出しつつ、VTuberの配信等を通してその他の層にも受け入れられている様子は非常に興味深かったです。

Steam:NEEDY GIRL OVERDOSE ( https://store.steampowered.com/app/1451940/NEEDY_GIRL_OVERDOSE/ ) より引用


少し前の作品ではありますが、「VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action」も、自分の中では印象に残っています。
基本的にはキャラクターとの会話を楽しむノベル要素が強めのアドベンチャーゲームですが、合間に「カクテルを作る」という行為を挟み、その内容で物語が分岐する、というワンアイデアだけで作品体験を非常に魅力的なものにしていたと感じています。

Steam:VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action ( https://store.steampowered.com/app/447530/VA11_HallA_Cyberpunk_Bartender_Action/?l=japanese ) より引用

このような背景から、ある程度のゲーム性を担保すれば、ユーザーは十分に物語やキャラクタとの会話を重視した作品を楽しんでくれるのではないか、というのが、自分の中での一つの予想でした。


ノベルゲーム(美少女ゲーム)における体験の理想

では、美少女ゲームでゲーム性を担保するにはどうすればよいのでしょうか。
美少女ゲーム的な「シナリオ重視」を維持しつつも、ADVゲーム的な体験を向上させる、そのために行えることについて考えてみます。

多くのノベルゲームにおいては「選択肢」を用いてルートの分岐が行われています。この選択肢から選ばれた内容(≒主人公が取った行動)に応じ、その先の物語が決まっていきます。

Nintendo Switch CLANNAD ( https://www.prot.co.jp/switch/clannad/system.html )より引用

美少女ゲームにおけるゲーム性というものは、実質的にこの選択肢部分しかないものが多いです。物語体験の邪魔をしない、という意味では非常に優れていますし、短いスパンで大量生産を行う時代においては都合が良かったのだろうと思います。

しかし、ゲームとしてどこか味気のなさすぎるものであることは事実です。
そもそも、与えられた台詞から選ぶ、という時点で、どこかプレイヤーの選択・決断とは程遠いものに思えます。
そのため、プレイヤーがヒロインに対して起こしたアクションである、という側面については、限りなく薄まってしまっています。

通常の選択肢の代わりに、よりヒロインとの会話に近いゲーム体験を試みた作品も数多くあります。(ノベルゲーム、というよりは恋愛シミュレーションゲームという呼称になるのでしょうか)
たとえば「アマガミ」の会話モードは、分岐のためのアクションにある種のゲーム性を与えつつも、あくまでヒロインとの会話であるという点は維持しています。

「アマガミ」公式サイト様 (https://www.amagami.info/intro05.html)より引用


今回自分が「_turing」で行おうとしているのは、美少女ゲームにおける一種の理想の追求であると考えています。
通常の美少女ゲームにおける「選択肢」も、上述したアマガミの「会話モード」も、プレイヤーからヒロインへの対話を模したものです。
ならば、それが本物の対話になった場合、体験としては上位のものになるのではないか、というのが私たちの作品「_turing」における仮説です。

「_turing」ゲームシステムのイメージ

「実際に会話ができる」という体験がユーザーにどのような印象を与えるのか、という点は、対話システム研究を行っている学生としても、いち美少女ゲームユーザーとしても非常に気になっています。
「_turing」はある種の試金石になるのではないか、と考えています。


おわりに

当初、「_turing」は今年二月ごろのリリースを目標に制作してしていました。
(その想定で待っていただいていた方がいましたら大変申し訳ありません)

とりあえず「ヒロインと会話する」というシステムを作り次第リリースしよう、というくらいの気持ちだったのですが、作っているうちに欲が湧いてきた、というのが最も大きな理由です。
ヒロインの対話AIを組み込む、というシステムを実装すること自体はできても、それが「面白い」につながるために何をすればいいのか、その点については門外漢ゆえに苦戦しています。
そもそも、これがゲーム体験として正解なのか、という懸念も大きいです。

ここまで書きましたが、自分は必ずしも『ノベルゲームに主体的な体験が必要だ』と考えているわけではありません。
むしろ時にプレイヤー操作の介入が作品のノイズになる可能性も十分にあると考えています。
多くの美少女ゲームが「紙芝居」と呼ばれる状況を良しとしていたのは、それがある種の理想系だったから、というのは一つの真実だと思います。

けれど、何か一つ別の要素がなければ、衰退の一途である可能性は高いでしょう。
この作品で答えが出なくとも、何かより優れたアイデアを見つけるきっかけになるかもしれません。
できるだけ早くリリースを行い、多くのフィードバックをもらうことで、ビジュアルノベルやアドベンチャーにとってほんの少しでも有益な作品となればいいな、と考えています。
応援よろしくお願いします。

プレスリリース・インタビューの募集

ゲームメディアや技術・情報系メディアの方からのプレスリリース・インタビュー等のお誘いをお待ちしております。
何かご連絡がある場合は、竹関工房の公式Xアカウント、あるいはメールアドレス( takekan.kobo【atmark】gmail.com ) までご連絡いただけますと幸いです。

さまーらいとのXアカウントでも大丈夫です。
(全然関係ないですが大学院修了後のお仕事のお誘いも募集しています)


その他

そんなこといいつつATRIやGINKAみたいなゴテゴテかつ現代的なビジュアルノベルがもっと出てくれといつも祈っています。そこまで長尺でなくてもいいので。







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