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私は就職ができない05_ギークリーの件

【前回までのあらすじ】
8年ぶりの採用面接に臨んだ私は、しかし面接後に辞退を申し入れた。

私は早くも途方にくれていた。なぜ私は数年ぶりの面接の最初のチャンスを自ら手放してしまったのだろうか……。

リクナビエージェントの担当者からは、その後まったくメールが来なくなった。むろん、案件紹介のメールは来る。しかしこのメールは自動配信だ。無機質で冷たく、営業担当者の情熱や思いやり、ぬくもりや寄り添いなど皆無だ。もしかしたら、エージェントの某氏はへそを曲げてしまったのかもしれない。

考えてみたら、試しに応募した最初の企業の書類選考にパスしたことは、ラッキーだったのではないだろうか。40代で通過率100%は出来過ぎだろう。あるいは、このチャンスをもっと大事にする必要があったのかもしれない。金輪際書類選考に通らないという可能性だってある。この案件に向き合い、精査や熟慮を重ねた末に辞退したとしたら、エージェントの顔に泥を塗ることもなかったろう。

エージェントがやる気を失った。そして私のやる気もなくなった。自営業者としての、今月の売上はたぶん20万円程度だ。ただちに困窮するわけではない。しかし将来は暗い。このていたらくでは2歳の子どもを大学に入れることはかなわない。早くフリーランスから脱出したい。月給取りになりたい。聞くところによると、サラリーマンの場合、仕事中に昼寝をしたり動画を見ていても、時給が発生するという。副業をすると、実入りが倍加するケースもあるという。まったく、夢のある職業だ。

途方にくれているときに助けになるのは友だ。47歳ぐらいの女性の友人に相談すると、彼女もまた転職活動中だという。使っているサービスを聞くと、ギークリーというエージェント会社の調子が良いという。

何でも案件数が多いらしい。ギークリーはIT系の案件をメインで扱うサービスだ。私もウェブ編集やウェブライティングに従事する身だ。ギークリーならば、私にいい感じの職業を斡旋してくれるに違いない。何はともあれ、

登録した。友からの紹介という形で面談の予約を入れた。友には1万円程度のAmazonギフトがプレゼントされるらしい。

面談は対面で行われるという。このご時世なのにもかからず、オフィスに来いという。私は2つの意味で、またも途方に暮れてしまったのだ。

一つはなぜ私が? とういう点だ。もう一つはまたしても服装の問題だ。

私はいつも思うのだ。「そちらから来る気にはなれないか?」と。これは採用面接の時にも感じるのだが、企業が私という人材に可能性を感じているのならば、担当者が出張るべきではなかろうか。求職者は金がない。時間も精神的余裕もない。おまけに、都会に出る衣服も所有していない。そちらが来いと思わないではいられないのだ。

しかし強者に向かって弱者が吠えたとて、冷たくあしらわれるだけだ。仕方なく、私は1週間後に都会に出ることに決めた。幸いにしてスーツは着用しなくてもいいらしい。下っ腹の皮下脂肪が邪魔してスラックスのホックが留められないのだ。

しかし、オフィスカジュアルの準備はなく、かといって小汚いパーカで行くわけにもいかない。まったく就職するのも簡単なことではないらしい。エージェントサービスに登録するための洋服を獲得することからはじめないといけない。フリーランスになどなるべきではなかったのだ。

5年前に会社を辞めてフリーランスになったときから歯車が狂ったのだ。フリーランスになって、スーツを捨てた時、私は人生の落伍者になったのだ。それに気付くまでに5年もかかった。長い歳月だ。

とあれ、私はギークリーに行く。ここではパーカ以外の服ならば何でも良いだろう。しかし、今後、対面での採用面接を受ける時のためにスーツを準備しなくてはならない。考えるだけで、気分が萎える。フリーランスから会社員への復帰の障壁が服装だったとは、まったくの盲点だった。正社員への帰還はまだ先になりそうだ。

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