雨なんかは誰も知らない夜に降れ
淋しくて、美しい。そんな雨は誰も知らない夜に降れ。
多くの生命が始まりを迎える朝も、多くの生命が息をし生きるをする昼もきっと多くの雨が降ることを望んでいない。
淋しいからこそ夜に。美しいからこそ夜に。
誰も知らないところで誰も知らない涙を流すように、夜に降れ。
そして、朝露の思ったよりも綺麗な丸に、朝陽が取りこぼしのないよう一つずつ煌めきを与える。
そんな朝に、昨日人知れず流した涙の意味を朝露色に上書きする。
雨なんか。
1日中雨が泣いてる。いや、泣いていたのは紛れもない自分で、そろそろうんざりしていた。
夜だけは淋しく、そして美しく泣け。
枯れることを知らない涙も、いつか「枯らしたくない涙」へのすがりだったと思えてきて、気が付くといつ止んだのか分からないままに朝を迎える。
そんな朝は思ったよりあっさりとしている。いつもの電車に乗って、向かいのファッションの引き算を知らないであろうお姉さんのアイシャドウの境い目をなぞるように見る。「濃ゆいな」とシンプルな感想を独りごちる。それくらいあっさりしている。
いつもの電車を降りる頃アスファルトの上で疎らに乾いた雨に気づきもせずに、なんだかいつもより少し煌めいている世界に良い朝を錯覚する。
だから雨なんかは誰も知らない夜に降れ。
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