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欧風カレーは仏風カレー@神保町 煉瓦亭

カレー。
と一口に言っても、味わいの幅が広すぎる食べ物。インドカレーもあれば、ハウスのようなお家系カレーもある。そんな中で、「欧風カレー」という新ジャンルを確立したお店が、神保町にある「ボンディ」。

初めてこのお店に来た時は、大学の入試で上京してきた時だった気がする。
当時、東京に何年か勤めていた親戚のおばさんが案内してくれた。
そのおばさんは、誰もが知っている大企業に勤めていて、岡山の田舎の高校生には憧れの存在だった。
私と母と、おばさんと、3人でこのお店で夜ご飯を食べた。

雑居ビルの中にあるこのお店は、知っている人でないとたどり着かない。
殺風景な薄暗いビルの2階。
お店の扉をくぐった先も薄暗いのだけど、温度感の全く違う薄暗さ。
あったかくて、ほっこりする空気感。
当時は喫茶店などにもあまり行ったことがなかったから、薄暗い空間で食事をするという、大人な空間にドキドキしたのを覚えている。
しかも、食べに行くのがカレー。
上京後にもおばさんとは何回か食事に行ったが、本当に店選びが上手い。この時も、素晴らしいセンスが発揮されていたことを、後になって気が付く。
値段が高すぎず低すぎず、おしゃれすぎず雑多すぎず、奇を衒ったものや流行りものでもなく、私が食べたことがある、でも、食べたことのない味。

そしてこのお店の最大の特徴は、カレーの味はもちろんだけれど、カレーの前にある。そう、行ったことのある人には分かる、「じゃがいも2個」。


注文すると、まずはこの蒸したお芋が出てくるが、これを勢いよく食べてしまうとカレーが来る前にお腹いっぱいになってしまうので要注意。
メインのカレーへ向けた準備運動ぐらいに止めるのが吉。
と分かっていても、じゃが+バターは間違いない美味しさなのでなかなか難しい。だから、会話に花を咲かせるか、早くカレーが到着してくれることを祈る。
というか、じゃがバターを食べるシーンって意外と少なくて、BBQで誰かが主張して買い物カゴにじゃがいもとバターがインされた時かボンディか、ぐらいのものだろう。じゃがいもとバターだけ。何の捻りも驚きも無いけれど、それがストレートに美味しい。

私がこれまでに頼んだことがあるメニューは、ビーフ・チキン・チーズの3種。一番王道のビーフが個人的には一番好み。
たまに浮気するけれど、やっぱり帰ってきてしまう。



グレイビーボートからは溢れそうなほどなみなみとカレーが入っている。表面張力が強いから溢れないけれど、ライスにかけようとスプーンを入れると溢れそうになる。(貴重なルーをちょっとこぼしてしまったことがあるのは本当に忘れたい黒歴史)

ご飯の上にはチーズがパラパラと乗っていて、これが地味に重要。焼き鳥丼にもご飯の上には海苔が必要なように、間のつなぎになる。まさに縁の下の力持ち。あると無いとは全然違うので不思議。

肝心のルーは、とにかくコクが強くてまろやかで、一言で表すなら「贅沢」だ。ボンディのルーは、とってもコク深くて口の中に余韻が長く残る。ルーの中には角切りのビーフがごろごろとたっぷり入っていて、スプーンでほろっと崩れるほどに煮込まれたそのお肉は、噛むとしっかりお肉の旨味を感じられる。
創業者の方はなんと絵・彫刻の勉強のためフランスへ留学されていたらしく、そこで出会ったフレンチの「ブラウンソース」(小麦粉をバターで炒めてブイヨンで伸ばしたもの)の奥深さに感銘を受け、カレーに使うことを思いついたそう。だから、欧風カレーの祖であるこのボンディのカレーは、いわばフランス風カレー。

でもここで、なぜこの味わいを贅沢と感じるのか疑問に思った。もちろん牛肉は沢山入っているけれど、ルーがとにかく贅沢。インドカレーとかタイカレーでは、どれだけ高級店のカレーを食べても、贅を尽くした味だなとは感じない気がする。(お正月特番の、格付けチェック状態の時。)
この味が表現される理由は、お店こだわりのバター・生クリームがどっさり使われているからだということは、検索すればすぐに分かった。ヨーロッパ風のものを贅沢品と感じる歴史的な背景なのか、脂肪分を贅沢に感じるのだろうかと疑問に思ったけれど、脂の乗った大トロや、きめ細やかなサシ入りのWAGYUに世界中の人が魅了されている現状を鑑みれば、脂肪分が放つ旨みの虜になってしまうのは人間の性なのだろうと思うことにした。

コクが強いルーだからこそ、途中のお口直しがまた引き立つ。
ご飯のお皿の端には、きゅうりとカリカリ梅。
この彩りを添えたのは、フランスで絵を学んでいた創業者ならではの工夫ではないか、とインタビューにはあった。確かに、この2つは彩り担当。味の主要メンバーであるらっきょうと福神漬けは、テーブル上のポットからお好みで楽しめる。(ここのらっきょうが大好きなので、私はじゃがいもがきたタイミングから食べてしまう)
やっぱりちょっと色が単調なカレー。鮮やかな緑・赤があるとないでは、華やかさが全く違う。このエピソードを知ってから、自分でカレーを作った日にも、何か彩りを添えたいなと思うように。

あ〜〜〜、カレーってやっぱり、スプーン1本でガツガツ無心で頬張れるのが最高だ。そして、最後まで米・ルーの配分を完璧でフィニッシュした時の達成感たるや。社会人になった今、このお値段でこんなに贅沢な気持ちになれるのはとてもとても嬉しい。
あと、最後お会計の時、その日の伝票がレジ横に積み上がっているのが目についた。お客さんの数だけ積み上がった紙であり、その日の成果。キャッシュレスは便利だけれど、大学生の時バイト先の店長から封筒でお給料をもらった時の手触りと嬉しさを思い出して、なんだかキュンと来る光景だった。

今度は古本探しをして、カレーで腹ごしらえをして、喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読みたいな。
ご馳走様でした。


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