慢性腰痛の構造的説明モデルから本質的モデルに変える問診

慢性腰痛の構造的モデルは様々な弊害がありますが、今なお整体院、接骨院などで主流の説明になっています。

その理由としては教育コストやセラピストの判断が必要になるため、多店舗経営や無資格者をセラピストで雇って経営しようとすると統一化が図りにくいからだと思います。

だからといってこのまま構造的説明モデルを使い続けていくと、患者さんにとって有益な経営体質にはなっていきません。

そこで、構造的説明モデルから脱却するための小さなステップと最低限の知識から一緒に考えていこうというのがこの記事の主旨です。

まずは問診について考えてみよう

第一回目としては痛みを評価できる問診とは?

ここをテーマに問診を掘り下げていきたいと思います。

そもそも「痛み」を患者さんに説明する時にどんな言葉を使って説明しているでしょうか?

腰痛と一言で言っても様々です。

痛みは患者さん自身の経験ですので、こちらがその強弱や善悪を判断する事などできないため、僕はまずは患者さんが安心できるように心がけるようにしています。

そこで大事になるのが痛みの評価ではないでしょうか?

適当な問診をしてつい経験や慣れでそれは大丈夫なやつだと思ってしまうことはないでしょうか?

患者さんはどのくらい(期間、料金、回数)で、改善できるか?できないのか?ということが知りたいと思います。

セラピスト側も通ってもらうことを考えると一回でどのくらい効果を感じてもらえるか?ということに主眼を置きがちになります。

まずはそこのすれ違いがおこるのが構造的説明モデルが治療向けでないことの理由です。

骨盤のゆがみがどのくらいで直るのか予測する事ができますか?

本質的な問診では

慢性腰痛の症状から推察し、生活に支障がないレベルを考え、近い未来に対して取り組むことが明確になります。

問診の時点での前提が構造的説明モデルと本質的説明モデルでは大きく違ってくるわけです。

構造的説明モデルの場合はすべて問題を骨盤や姿勢の「ゆがみ」に帰結させるため、聞き取った内容から推察することができません。

本質的説明モデルでは、問診から推察していくことになります。

このような仮説ー検証という工程によって、治療法に依存せずに「すべきこと」を選択することになります。

現場で行われている問診は?

接骨院や整体院で行われる問診では

・いつから(突発的なものか?慢性的なものか?)
・どこが(部位によって症状や障害をイメージ)
・どのようにすると(どんな動きで誘発されるのか?または軽減、消失するのか?)

このくらい聞き取って判断をしているのではないでしょうか?

医療的で痛みの評価を伴う問診はOPQRSTという方法で行われます。

接骨院レベルの問診とOPQRSTを比較すると濃度が違うことが分かります。

OPQRSTは以下の頭文字からなっています。

Onset:いつから(発生機序)
Provocative & Palliative:増悪、緩解因子
Quality:性状
Region & Related symptoms:部位/随伴症状
Severity:重症度
Temporal characteristics:時間経過

◇Onset:いつから(発生機序)
腰痛は何がきっかけで起こるかはっきりしないことが多い症状です。
患者さんに聞いても
「数年前に~」「ここ最近~」などとはっきりしません。
繰り返し起こしている反復性の腰痛の場合もあり、今回が最初の腰痛でない場合は「いつから」という定義も曖昧になりがちです。
また突発的な痛みであれば急性腰痛になりますので、この問いは急性/慢性を区別する問いにもなります。(どのくらいの期間から慢性とするのか?はまた別で)

◇Provocative & Palliative:増悪、緩解因子
慢性的に腰が痛いと聞くといくつかの特徴が頭に浮かぶのではないでしょうか?
屈曲時に痛む―屈曲型腰痛?
伸展時に痛む―伸展型腰痛?
じっとしていると痛い
臀部や下肢に痛みを感じる
起床時に痛い
歩いていると痛くなる

さて、このそれぞれの情報からどんな仮説をたてますか?

増悪因子は見つけやすいものです。なぜなら患者さんが自覚しやすいから。
しかし、緩解因子はどうでしょうか?

屈曲時に痛むが立ち上がって動いていると痛みが軽減する

これは屈曲型腰痛でしょうか?

座っている時間が長いと痛いが立っていれば痛くない

これは座っている姿勢が原因でしょうか?

判断が難しくなりますね?

見逃せないのは緩解因子がない腰痛は炎症を伴うものやRed flagsに該当するような腰痛が潜んでいるかもしれないということです。

また、こういうケースもあります。

仕事中は痛むけど休日になると痛くない

出社する時の通勤時は痛むけど、帰りは痛まない

さて、これらは構造的な原因なのでしょうか?心理的要因なのでしょうか?
判断が難しくないですか?

ここは非特異的腰痛を構成する要素の理解、メカニズム、様々な腰痛を伴う疾患を知識として持っていることが基礎になります。知識不足が治療計画を狂わせたり、判断を誤ることになるので学習が必要になりますね。

◇Quality:性状
一言で腰が痛いと言っても患者さんによってその表現は様々です。
ズキズキなのかズシーンなのかでもその性状は違いますし、突っ張るような感覚や詰まり感などと表現することもあります。

性状はいくつかイメージしておくといいですね。

ズキズキ・・・炎症に伴う疼痛?
ズシーン・・・鈍痛、筋の硬結?
ズキッ!・・・筋のスパズム?
突っ張る・・・筋・筋膜の伸張性低下?
つまり感・・・椎間の狭小、伸筋の過緊張?

他にはどんな表現があるでしょうか?
神経性の腰痛や運動恐怖による腰痛はどのような表現になるでしょうか?

ここで必要な知識は障害のある組織の特性を理解することではないでしょうか?

また、侵害受容性の腰痛と神経性の腰痛、心理的腰痛のそれぞれの特徴とメカニズムの理解がここでも必要です。

慢性化した腰痛は必ずしも痛みのある場所に問題を抱えているわけではありません。緊急性の低いものであれば脳のアウトプット(中枢性感作)による痛みである場合もあります。

ここでポイントになるのが機能評価ではないでしょうか?

姿勢のコントロール、筋力や左右のバランス、整形外科テストなどによってその腰痛に潜む身体的特徴を精査することができそうです。

増悪/緩解因子と共に性状理解は症状改善にとって重要なファクターになります。

◇Region & Related symptoms:部位/随伴症状
腰痛は痛みの源泉と実際に痛む場所がイコールではないことも多々あります。
放散痛や関連痛もあり、痛い場所にいくらアプローチをしても一時的な軽減にしか留まらない場合も多く見受けられます。

腰痛の随伴症状で代表的なのは下肢の痛みや痺れではないでしょうか?

坐骨神経痛?と疑うことは大事ですがSLRで陰性ならば問題なしとなるでしょうか?
では逆にどうして下肢の症状が出ているのでしょうか?

痛みの部位を確認する際によくあるのが圧痛を確かめることです。圧痛点をどのように考えることが妥当でしょうか?

トリガーポイントなどに理論づけされたこの局所的な圧痛点は筋筋膜性腰痛の徒手での判断に使用されてきました。

しかし現在では圧痛閾値は筋筋膜性の障害との関連性は低いという報告もあります。

可動域における疼痛の誘発と併用することでその範囲を推察することで信用度が高まると考えています。

このように痛みの部位や随伴症状は患者の自覚と様々な検査の組み合わせが必要で、この症状にはこの検査だけしておけばいいということにはなりません。

◇Severity:重症度
症状の重要度には重症度と緊急度があります。緊急度は重症に至るまでの速さのことですので、早く処置しないと重症化する恐れがあるものです。

・症状出現までの関節の運動量
・出現した症状
・出現した症状の持続時間
このようなことから重症度は推察されます。この3つが揃うとイリタブルな状態(重症度が高い)と判断されます。

患者さんにとってこのような事態になっていれば最優先は痛みの緩和なのか?機能の回復なのか?または整形外科への受診なのか?と悩むところです。

数時間~数日の間に痛みが治まる可能性を推察しなくてはなりません。

・炎症期は過ぎているか?
・ある方向の最終可動域で痛みが出現するが、その運動を止めれば痛みはすぐに消失する

ノンイリタブルな患者の定義がこの2点とされています。

重症化リスクが高いと判断された場合はまずは整形外科への受診を勧めることです。

炎症を伴う場合は鎮痛が優先、炎症がなくノンイリタブルな状態であれば痛みがあっても機能回復を優先させることができます。

重症度を考えることで何を優先的に選択すればいいのかが見えてきます。

◇Temporal characteristics:時間経過
痛みの時間経過についてです。
痛みにとって時間はとても大事な情報です。
Oのところでも話しましたが、「いつから」という発症起点とそこから痛みが緩解していくのか?それとも増悪しているのか?持続的に痛いのか?間欠的に痛いのか?痛みの持続と長さから推察できることがあります。

慢性腰痛の場合、痛みのない時間というのが存在します。24時間四六時中痛いと患者さんは思い込んでいたりもしますが、実はそんなことはなく寝ている時間や楽しく過ごしている時間は感じていないなんてことがあります。

また慢性化して時間が長いと一度痛み始めると長く痛みを感じたりすることもありますし、立ち上がる瞬間は痛むけど、それは長続きしないことがほとんどです。

痛みが強いととても悪いように感じますが、時間的に考えるとかなり短い時間だったりもします。

また、繰り返し起こる強い痛みは数日~数か月おきと個人差があります。短い頻度で痛みが強くなる場合は痛みの感受性も高くなっていると考えることができます。

時間経過から見えてくることは
・痛みの認知
・痛みの感受性
・重症度
・増悪/緩解因子
このような事です。OPQRSTの中で重複するものもあるため、並行して頭を使い情報をプロファイルできるスキルが試されます。

情報量が一気に増えましたね。

いつ、どこが、どのようにという問いによる情報では

先月の末から、腰の右側が座っていると痛い

となり、特に発症起点がなければ

長時間座っていることによる腰痛だから少し運動してください

くらいの判断になります。

OPQRSTを使って推察すると

数年前から数か月に一度、睡眠不足や疲労時になると座るのも辛いくらいの腰痛になる
歩行時や動き始めてしまえば痛みはない
屈伸では特に痛みは変化しないが、座位から立位に移動する時に痛むが時間が経過すると緩解する
整形外科に2年前に受診したが画像検査では異常なし
SLRで神経症状はないが右下肢の抵抗時に腹部から骨盤にかけての代償動作が見られる
右中殿筋に対し、側臥位で外転すると痛みが誘発され、抵抗できない
右多裂筋付近から中殿筋付近に圧痛が強くあるが、脊柱には痛みはない

このくらい情報量が増えます。

ここから推察できることはどんなことでしょうか?
もう少し掘り下げたい情報はありますか?

この情報を元に患者さんに痛みの状態、経過、方針と計画を伝えるのであればどのような事を伝えることができるでしょうか?

プロファイルしてみよう

上記の情報の患者さんであれば

歩いたり日常の生活はできています。ただ、睡眠不足や疲労の蓄積時には座っていられない程の痛みがあるというところです。

これが屈伸時は問題ないが、座位→立位の動作で強い痛みが感じられます。

ということは
・座位の時間などで立位時の体位変換に影響するのか?
・座位→立位という動作による痛みなのか?
ここを更に聞いておく必要があります。

SLRでは右下肢挙上時に代償動作があるため、大腿四頭筋または大腰筋に筋の機能低下、殿筋または多裂筋に過収縮などがあることを予測します。

この動作に痛みを伴うようであれば痛みによって力が入りにくいのかもしれません。

そこで右の中殿筋の情報の中に痛みで外転できないとあります。

中殿筋収縮時に痛みがあるため、右下肢の支持が不安定になることが予測できます。

多裂筋には圧痛があるが、脊柱に痛みがあるわけではなく筋肉的な痛みであることが分かります。

このことから考えられるのは右の殿筋による下肢の支持力が低下するために立ち上がる際にスパズムを起こし、疼痛を誘発させている可能性があるように思えます。

疲労時など姿勢不安定時が持続すると、慢性的にある右臀部から下肢の安定性の低いところが血行不良や伸張性低下を起こし痛みを誘発しているのではないでしょうか?

座位による骨盤のゆがみ、姿勢の悪さによるお尻のコリでは何をどうすればいいのか判断がつきにくいと思いませんか?

仮説立てできる問診から見えること

構造的説明モデルは「効率化」と「簡略化」が目的でありながら、セラピストの教育にしてしまっていることがおかしな事態を招いています。

セラピスト教育まで簡略化してしまうと、大きな見落としに気づかず施術を繰り返すことになります。

一方、仮説立てし検証できる問診モデルでは、いくつかの疑いを持ちながら解決策にフォーカスすることができます。

慢性腰痛の改善には運動が不可欠であることから、どのような運動を処方し指導すればいいのか?という選択をしやすくします。

まずは情報を整理するというところからはじめてみませんか?



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?