見出し画像

138億年の時間の中で☆第18話☆「男は貧乏くじ」



 愚痴や不満を口にすることが少ない夫が、「男は貧乏くじだ」、そう嘆いたのは長男が1歳くらいの時だったか。出勤する前に玄関でボソッと。
 パパを見送る時に泣き出しちゃう子、多いですよね。夫は長男をとてもかわいがっていたので離れがたいのは彼も同じ。毎朝繰り広げられる親子の切なすぎる別れのシーン。夜になれば会えるというのに、一体何のドラマを演じているのやら(冬ソナBGMが似合う2000年代)。
 私にとっては子どもと二人きりの時間がくることに心がズーンと重くなる瞬間でした(平均およそ12時間)。正直、仕事していたほうが楽・・・だという本音は言ってはいけないような気がしていたのは何故だろう?夫は長男とまだまだ遊びたいのに仕事に行かなくちゃいけないんだから、私も我慢??
 友人やママさんなりたての方のお悩みを聞いていると、それまでは男女の役割意識なんてなかったのに、子どもが生まれたら男性側にも突然「男だからしっかり稼がなくちゃ」みたいな気負いが発生する傾向にあるみたい。女性の方も「家のことや子どもの世話をできるのは自分しかいない」とスイッチが入ってしまう現実。
 「男は稼ぐべき」なんて思想は全くない夫は、仕事を通して承認欲求を満たしたいなんて微塵も思っていない。それなのにかわいい盛りの長男と遊ぶ時間を奪われてまで好きでもない仕事に行かなくちゃいけないなんて・・・という悲しみの発露が冒頭の嘆きです。
 彼からすれば、こんなに身を粉にして家族の為に働いてるのに、子どもは母親の方に懐いてるし、帰宅すれば育児に疲れ切った私に邪険に扱われるのも納得できないのは明らか。パパだってかなり辛いみたい・・・。アレ?みんな微妙に不幸じゃない?根っこにあるのはジェンダー問題・・・なの??
 私があまりにも無知だったせいでもあるけど、子育てがこんなに大変だとは知らなかったよ!というがホントのところ。子育てなんて世界中の哺乳類が大昔からやってたことじゃん、余裕、余裕!なんて思ってたんだから、まあ・・・・アホかと・・・。
 会社員時代の先輩たちも1年の育休明けに復職していたから、私もそうするものだと何の疑いもなく思ってたんだから、人生なめんなよ、と。何も知らなかったし、知ろうとしなかった自分が愚かだったわけです。
 実際、母乳は母親の血液を材料にしてできてて、授乳するってことは一日何回も献血するようなもので産後に激やせすることなんて知らなかったし、年単位で続く寝不足がメンタルに与えるダメージの大きさなんて全然予想していなかったし、それでもお昼寝できればいいのだけど過剰な緊張感のおかげでお昼寝すらもままならないなんて事あるの?ワンオペ(当時はそんな言葉はなかったけど)育児がこんなにも悲惨なものとは知らなかったし、経済格差と待機児童問題が話題とされている中で保育園の入園枠を奪うような真似をしていいのだろうか?なんて悩むことになるなんて全てが想定外だし。ましてやちょっと手のかかる子が生まれる可能性があって、その時はどうするの?なんて語られたことがあっただろうか?と。
知るって大事、勉強って自分を守る為なんだわと気が付くのが遅かった・・・。
 予想外の日々を送ることになるのは夫だって同じだったと思います。「しっかり稼がなくちゃスイッチ」が入ってしまうことや、妻があんなに不機嫌になるなんて知らなかったはず。ましてやカワイイ子どもの泣き顔に後ろ髪をひかれながら会社にいかなくちゃいけないのが辛くなるなんて。

 誰もが通った道だから・・・、ジェンダーの問題があって・・・と片づけるのは正直、随分雑で乱暴なオチのつけ方だなあ、と思ってます。「誰もが通る道」をどうやって歩んでいるのかは人によって事情がそれぞれある。惨めだった出来事は語りたくないものだから、後続の女性は知らないことばかりで母になる。丁寧に起こった出来事を掘り下げて、その時の想いをゆっくりと掬い上げられたら、女性は少しだけ、生きやすくなるんじゃないかな。スタンダードのアンチとして発生した新たなスタンダードに苦しむ人が少なくなりますように。
 何年か前にある女子大学の電車内広告に、広がる選択肢の前でどんな人生になっても大丈夫とおもえるように、、、といったような内容の文言が書かれていて、本当にそうだよなあ、と感心した覚えがあります。
 「そうだよ婿くんが言う通り、男は昔から貧乏くじ」。これは父の言葉。80歳の父だって本当はもっと子どもと遊びたかったし、お世話をしたかったんだろうなあと思います。ジェンダー問題が根っこにあるわけだけど話が大きくなってしまうのでどうすればいいかわからない。
とりあえず言える事は、私も夫も父も、ママ友のあの人も、学校の先生も、どこかの社員さんも、大学生も、もっと本音を話す練習が必要だということ。
 そういう意味では子どもの方が誠実に生きているのだから、眩しい存在なのは納得。今となってはおしゃべりが好きではない夫にうっとおしがられながらも子どものように本音の対話をしかけることは、実はかなり楽しかったりするんです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?