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ステラおばさんじゃねーよっ‼️69.カゾクノカタチ〜おかえりなさい

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️68.任意同行〜お祝いムード は、こちら。




🍪 超・救急車



警察での知波への事情聴取は、想像以上に長引いていた。

カイワレは歩の心細さを慮(おもんぱか)り、連日小鳥遊宅を訪れている。

知波が勾留されて2日めの朝には、とうとう仕事道具を持参し、邸宅の門扉を開けた。

「おはよう、たい兄」

歩は一見すっきりした顔に見えた。

「おはよう、ぐっすり眠れた?」

歩は首を横に振り、

「あまり…」

と小さく呟く。

「今から休んだら?俺は下で仕事をさせてもらうから」

カイワレが提案すると、

「じゃあ、お言葉に甘えて」

と答え、歩は自室へ引きこもった。

⭐︎

カイワレは、連載中の【夢日記】占いの記事と単発ものの自動車紹介記事を書き始めていた。

まさか、この家で仕事をする日が来るなんてね。

カイワレはこの状況に不思議さを感じつつも、徐々に仕事へと没頭していった。

⭐︎

物書きは、孤独だ。

なんて思われがちだが、カイワレはその逆だと考えている。

多くの人が共感したり反発する事を想定しつつ、文章を産み出していく行為は、頭も心もとても落ち着きなくにぎやかで、ひとりだけで完結する作業ではない、と考えるからだ。

担当編集者の存在も大きい。

作家だけの力で、物語の世界観をすべて創り上げられるとは限らない。

今回は、小鳥遊さん…結果、実母の書く夢日記も大きな助けとなっている。

あれ?これって、親子コラボじゃ…。

そう思うと、今まで起きた出来事はこの連載のために起きたのかとさえ感じてしまう。

コーヒーを啜り感慨にふけっていると、玄関の鍵が開く音がした。

廊下をゆっくりと、静かに歩いてくる音もする。

ダイニングへと入って来た知波は、数日前よりさらにやつれて見えた。

「おかえりなさい」

「あ、ただい…ま」

「お疲れですね。今、お茶を淹れますね」

この家の主である知波を客人のようにもてなすカイワレの姿を見、知波は失笑した。

「ありがとう、カイワレさん。少し横にならせてもらっていい?」

「そうですね。お風呂は入りますか?」

「お風呂、入りたいな」

甘えた声で知波は、カイワレに伝えた。

「わかりました。今、用意しますね。歩ちゃん、昨晩もあまり眠れなかったみたいで、今自室で休んでもらっています」

「カイワレさんがあの子の面倒を見てくれていたのね。助かりました。ありがとうございます」

知波は嬉しいような情けないような複雑な気持で、カイワレに頭を下げて言った。

「いや、家族だから。当然ですよ」

頭をかきながら照れたようにカイワレが告げると、知波は涙ぐんだ。

「何から何までごめんなさい。そして、ありがとう」

そう言うと知波は浴室へと消えてしまった。

やさしすぎる息子の前で、涙がこぼれてしまわぬうちに。

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