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ステラおばさんじゃねーよっ‼️57.小鳥遊宅〜おすそ分け

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️57.小鳥遊宅〜同じ屋根の下 は、こちら。



🍪 超・救急車



「あの…これ、おすそ分けです」

持参した風呂敷包みをテーブルで開き、神林家特製おせちのお重を取り出した。

「来てくれて…ありがとうございます」

消え入りそうな声でお礼を言いながら、歩はカイワレに紅茶を出した。

「小鳥遊さんも心配だったし、歩ちゃんも大変そうな気がして、思わずね」

人の声というのは、不思議だ。

メールで心細さを指摘されカチンときていたのに、カイワレから直に心配だと言われると、ちょっと泣きそうになる。

歩は、ひそかに反省した。

すると気がゆるんだせいか、腹の虫が元気に鳴き出した。

「これ、もしかしておせち?」

腹の虫の音に被せるようにお重を指さし、歩は言った。

「友達んちのおせち。さっきまで一緒にいてね、たくさんあったから分けてもらったんだ」

カイワレの言葉を聞きながら歩は待ちきれず、おせちのふたを開けた。

「すごっ!!めっちゃ美味しそう!」

「お母さんも寝込んでるし、ちゃんとご飯食べてないんでしょ?俺もお腹減ったからさ、一緒に食べよっか」

と歩に言った。

「やったー!」

寂しい年越しの後だけに、誰かと一緒にご飯を食べるのがうれしくて、歩は猛ダッシュで皿と箸を持ってきた。

「うわっ、何これ?!めちゃくちゃ美味しいんですけどー!」

歩は大好きな栗きんとんを頬ばり、箸を持ったままガッツポーズで上を向き、吠えた。

カイワレは歩の喜ぶ姿に少し吹き出し、酢だこに手をつけると驚いた顔をした。

「さっすが!一流シェフが作った料理だな!売ってるのとは全然違う」

「一流シェフって。カイワレさんの友達って、お金持ちなの?」

「かなり」

と言った後、カイワレは心の中で、

いや、ハンパなく…と付け加えた。

「こんな美味しい料理、生まれて初めて食べたかも!あざまーす!」

テンション爆上がりの歩を見ていると、カイワレにも自然と笑みがこぼれた。

こうしてお互いの緊張は、おせちと一緒に胃の中で消化されたのだった。

⭐︎

その頃、知波はベッドの中で何度も短篇の夢を見ては、別の夢へと誘(いざな)われていた。

船長になって沢山のクルーに指示を出しながら世界中を航海したり、遊園地で見知らぬ子供と一緒にアトラクションを楽しんだり。

また高層ビルからパラシュート無しで飛び下りなぜか地面すれすれで浮かぶ夢を見たりしていた。

最後の夢では、遠くに影がふたつあり、そこから話し声が聞こえてきた。

片方は、歩の声だろう。

もうひとつの影は、最初誰だか分からなかった。

少しずつ黒い影の輪郭がはっきりし、その顔はカイワレの顔になった。

ふたりは楽しそうにおしゃべりしていて、知波はそれを遠くから複雑な気持で見守っている…そんな夢を見ていた。

⭐︎

「お邪魔しました」

「わざわざ来てくれてうれしかったです。おせち、優勝すぎました!」

歩が笑顔でお見送りしてくれて、カイワレは少し安心した。

「小鳥遊さんにも、お大事に!と伝えてね」

「はい。良くなったらママから連絡するように伝えますね」

⭐︎

カイワレは、元来た駅へ向かった。

凍てつく寒さを遮るように、ジャンバーのフードを被り、猫背で歩いていた。

生まれて初めて…実家で元旦を過ごせたんだよな。

妙な感慨を抱きながら、聖の笑顔が目の前をすーっとよぎった。

それはまるで、冬空の流星のようだった。

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