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低体温

足に力が入らず、立てないとのことで救急搬送となった男性を診察した。病院についた時、体温が31.3℃と低下していたため、入院となった。体温が低くなっていると聞くと、「寒いところにいたのかな」と想像するが、話を聞くと部屋に暖房はないものの電気毛布は使用していたようだ。

低体温の定義

「低体温」といった場合、(深部)体温が35 ℃以下に低下した状態を指し、35~32℃を軽度、32~28℃を中等度、28℃以下を高度低体温症と定義される。さらに救助後や治療中の復温の過程で、心室細動が出現することは広く知られている。

体温は、体から逃げていく熱が、体で作られる熱を上回った時に体温が下がる。ということは、体から逃げていく熱が多くなるか、体で作られる熱が少なくなるかのどちらか、もしくは両方が原因で低体温は起きる。

体から逃げていく熱が多くなる

これは基本的に寒いところにいることが原因である。雪山で遭難する、冷たい川に落ちる、冬酔っぱらって外で寝てしまう、など。今回、部屋は寒くなかったようであり、電気毛布も使っていたとのことなので、別の原因がありそうだ。

体で作られる熱が少なくなる

1.脳の異常

体温維持を司っている脳(視床下部)の機能が低下することにより、体温維持ができなくなる。

2.薬の副作用

精神科で処方される薬には、副作用として低体温が報告されているものがある。例としてはリスペリドンやオランザピン、クエチアピン、ゾテピンなどがあり、セロトニン受容体阻害が作用機序として考えられている。(参考:坂井美和子ら、Risperidoneは低体温を起こすか?、臨床精神薬理Vol8、No.12、2005)

3.アルコール

お酒飲むと体が温まるように感じるため意外かもしれないが、アルコールは体温を下げることが分かっている。アルコールによって心拍数が増え血管も広がるため、体は温まるように感じるが、発汗作用等により徐々に体温は低下していく。また脳に「暑い」と感じさせる作用もあるようだ。これにより寒いところに行くなどの行動をとりやすくなり、そこで眠ってしまうと環境因子も作用して低体温になる。日本において、十分に装備を整えない状態で外で寝ると、8月以外は凍死する可能性があると聞いたことがある。

4.ホルモンの異常

ホルモン作用である体の代謝を上げる作用を持つホルモンの働きによって熱が作られるが、これらに障害があれば熱産生不十分となり低体温となる。具体的には、下垂体・甲状腺・副腎など臓器に問題がある場合である。

5.低血糖・高血糖

一種の飢餓状態ともいえる低血糖状態では、視床下部体温中枢など熱産生にかかわる各種フィードバック機構に影響を与え、熱産生が 抑制された結果、体温低下につながる。(南波慶己ら、病院前救護における 低血糖症例に対する体温測定の有用性、日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:659-64)

糖尿病患者では、血管の収縮能が低下しており、過剰な熱放散により低血糖に至りやすい。また、糖尿病に長期罹患している人は重要な熱産生の場である筋肉量が少ないことが多く、シバリング(寒いときに体が震えたり、口ががたがた震えたりする現象)による熱産生の不足も一因とされている。(南部拓央ら、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に偶発性低体温症を合併し、復温後に横紋筋融解症、急性腎不全、急性膵炎等を併発して重篤となった一例、日本内分泌学会雑誌(0029-0661)84巻1号 Page268(2008.04) )
※特に糖尿病性ケトアシドーシスにおいては、脱水やアシドーシス進行により末梢組織での酸素消費が低下したり、グルコースの代謝が低下したりし、結果として熱産生が低下する。

6.感染症

重症の感染症をおこし、菌が全身に回ってしまうような状態(≒敗血症)になると、低体温になることが知られている。重症の感染症になると、白血球や臓器から産生される物質により血管が拡張し続けてしまい、熱放散が高まることで低体温になる(Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al. The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: an analysis from a multicenter, prospective survey of severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R271)

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