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抗がん剤各論~トポイソメラーゼ阻害薬~

トポイソメラーゼ

2重らせんになっているDNAを複製するためには、ほどいて1本にしたり、また2本に戻したりする必要がある。このDNA立体構造を維持、変化していくのに必要な酵素がトポイソメラーゼであり、その作用を阻害するものがトポイソメラーゼ阻害薬である。トポイソメラーゼ阻害薬によってDNAの切断・再結合がうまくいかなくなったがん細胞は正常な分裂ができなくなり、アポトーシスが誘導される。

種類

トポイソメラーゼにはI型とII型があり、I型はDNAのらせん構造を1本のみに、II型は2本両方ともに作用して切断・結合させる作用がある。
・Ⅰ型トポイソメラーゼ阻害薬:イリノテカン、ノギテカン
・Ⅱ型トポイソメラーゼ阻害薬:エトポシド

イリノテカン

適応

消化器領域では、大腸癌に対するFOLFIRI療法や、膵臓癌に対するFOLFIRINOX療法のように、他の抗がん剤と組み合わせて用いられる。

作用機序

肝臓でカルボキシルエステラーゼによる代謝を受け、SN-38に変換される。このSN-38がⅠ型トポイソメラーゼと結合し、DNAの再結合を阻害することで効果を示す。

UGT1A1について

カルボキシルエステラーゼによって変換されたSN-38は、UDP-グルクロン酸転移酵素1A1(UGT1A1)によりグルクロン酸抱合体(SN-38G)となるが、このUGT1A1が先天的に少ない人がいる。その場合、SN-38が代謝されず副作用が強く出てしまうことになるため、治療前にUGT1A1に関する検査が行われる。

下痢

イリノテカンによる副作用として有名なのが下痢である。イリノテカンが下痢を引き起こす理由については、①イリノテカンがコリン作動薬として働く、②腸内細菌によりグルクロン酸抱合体が切断されることで細胞毒性を示す、の大きく2つあるとされている。

イリノテカンがコリン作動薬として働く
コリン作動薬は消化管運動を亢進させる働きがあり、投与してすぐに出現する下痢(=早発性下痢。投与中~投与 24 時間以内)を引き起こす。

細胞毒性
グルクロン酸抱合を受けたSN-38Gは胆汁中に排泄される。胆汁は腸管に分泌され、便と一緒に排出されるが、その際に腸内細菌が持つβ-グルクロニダーゼという酵素がグルクロン酸抱合体を切断し、SN-38に戻してしまう。再生したSN-38が細胞毒性を示し、下痢を引き起こす(=遅発性下痢。投与4日~10日目をピークに生じる)。この遅発性下痢には、漢方の「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう」が有効とする報告もある。これは半夏瀉心湯の有するグルクロニダーゼ阻害作用により腸管内でのSN-38の生成を抑制し、下痢を予防するためとされており、半夏瀉心湯(7.5g/日)をイリノテカン投与3日前から継続的に投与する。

その他

ノギテカン、エトポシドは消化器癌で使われることがほとんどないため、紹介のみに留めておく。

ノギテカン

<適応>
小細胞肺癌、卵巣癌、小児悪性固形腫瘍、子宮頸癌

エトポシド

<適応>
肺小細胞癌、悪性リンパ腫、急性白血病、睾丸腫瘍、膀胱癌、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、小児悪性固形腫瘍

用語解説

FOLFIRI療法

FOLFIRI 療法は「フルオロウラシル(5-FU®、代謝拮抗薬 )」と「イリノテカン(トポテシン®、トポイソメラーゼ阻害薬)」を組み合わせた治療である。手術適応外の大腸癌に対する治療として用いられる。

FOLFIRINOX療法

FOLFIRINOX療法は、上記のFOLFIRI療法にプラチナ製剤である「オキサリプラチン(エルプラット®)を足し、計3種類の抗がん剤を組み合わせた治療である。手術適応外の膵癌に対する治療として用いられる。



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